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連載

#70 イーハトーブの空を見上げて

千年以上続いた「蘇民祭」に幕 木霊する「ジャッソウ、ジョヤサ」

裸で蘇民袋を奪い合う男衆=2024年2月17日午後10時4分、岩手県奥州市、関田航撮影
裸で蘇民袋を奪い合う男衆=2024年2月17日午後10時4分、岩手県奥州市、関田航撮影
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
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イーハトーブの空を見上げて

関係者の高齢化、担い手不足…

ジャッソウ、ジョヤサ、ジャッソウ、ジョヤサ……。

男たちの威勢のいい掛け声が、暗く沈んだ山々に木霊する。

奥州市の黒石寺の伝統行事「蘇民祭」が2024年2月17日夜、千年以上の歴史に幕を下ろした。

御利益があるとされる「蘇民袋」を、上半身裸で下帯姿の男衆が激しく奪い合う争奪戦が繰り広げられた後、参加者からは「今年で終わりにしたくない」「来年も続けてほしい」と祭りの継続を望む声が多く聞かれた。

黒石寺は23年末、関係者の高齢化や担い手不足を理由に、24年以降は祭りを行わないと発表。最後の祭りも時間を短縮して実施された。

罵声と怒声飛び交う争奪戦

午後6時。下帯姿の男たちが山内川に入り、頭から水をかぶって身を清める。

体中から白い蒸気を巻き上げながら、角灯を掲げて薬師堂などを巡り、五穀豊穣(ほうじょう)などを祈り続けた。

午後10時。「ジャッソウ、ジョヤサ」の掛け声が突然、罵声や怒声に変わる。

伝統の争奪戦。

蘇民袋を手にしようと、男たちは激しく体をぶつけ合い、ののしりあい、奪い合う。

深々と頭を下げた黒石寺住職

参加した地元の公務員、佐藤幸善さん(39)は「痛かったけれど、みんなが一つのことに夢中になれて、最高に楽しい」。

終了後、取主(蘇民袋の締め口を最後に持っていた人)になった蘇民祭保存協力会青年部の菊地敏明部長(49)は、報道陣に向かって宣言した。

「来年以降も、形は変わるかもしれないが、絶対に残していきたい」

その陰で、藤波大吾住職は「私は蘇民祭をやめると決めた人間。今言えるのは、今日をもって終了となりますということだけです」と深々と頭を下げた。

(2024年2月取材、写真はすべて関田航撮影)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

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