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なぜ令和ロマンはM-1連覇を達成? 根底に〝利他〟のスタンス

「令和ロマン」の高比良くるまさん(左)と松井ケムリさん=都内
「令和ロマン」の高比良くるまさん(左)と松井ケムリさん=都内 出典: 朝日新聞社

目次

年が明け、正月特番や『令和ロマンの娯楽がたり』(テレビ朝日系)に出演するなど、バラエティーで引っ張りだこの令和ロマン。テレビでも存在感を示しているが、圧巻だったのは昨年の『M-1グランプリ』で史上初の連覇を達成したことだ。コンビのブレーンである髙比良くるま本人、周囲の芸人たちの発言から、令和ロマンの強さの理由に迫る。(ライター・鈴木旭)
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「僕は整えるのが得意」

2024年12月、令和ロマンがM-1史上初の連覇を達成した。過去に同様の挑戦をしたNON STYLE、パンクブーブーが成し遂げられなかった偉業を、過去最多となる1万330組がエントリーする大会で実現したわけだ。

そもそも2023年に優勝して間もなく、くるまが「来年も出ます!」と宣言しての連覇であり、過去の2組とは始まりからして異なる。後に語られた“そもそもテレビの役に立てないと思っていた”などの切実な理由があったものの、「基本的にテレビには出ない」との発言で物議を醸し、『ABCお笑いグランプリ』でヒール役を演じて優勝し、M-1のトップバッターで「終わらせよう」とツカむまでが狙いだったとさえ思えるのだ。

それほどに、くるまは2024年の1年間を「どう世間を翻弄し、どうM-1を盛り上げるか」に注力し、実行に移しているように見えた。特にそう感じたのは、筆者が『最強新コンビ決定戦THEゴールデンコンビ』(Amazonプライム・ビデオ)の取材で直接くるまに話を聞いたときだった。

『THEゴールデンコンビ』は、普段の相方以外とコンビを組み、即興コントのバトルに挑戦する番組だ。この企画でくるまが相方に指名したのは、マヂカルラブリー・野田クリスタル。番組収録の前後で「相手の見方が変わった部分があるか」を尋ねると、即座にくるまはこう答えた。

「イメージしていた野田さんのままですね。パワーがあってムチャクチャで、破壊衝動がある(笑)。僕はいろいろと整えるのが得意なので、改めてコンビを組んで良かったなと思いました」<2024年11月15日に掲載の『週プレNEWS』より>

「整えるのが得意」。ここに令和ロマン、ひいてはくるまの強さがあるのではないかと直感した。そこで、筆者が昨年取材した周囲の芸人たちの言葉を中心に、思い当たるところを考えてみたい。


 

演技力、胆力と巧みな設定

まずは、前述した『THEゴールデンコンビ』の取材中、野田クリスタルが語っていた言葉に目を向けてみる。先ほどと同じ質問(「相手の見方が変わった」かどうか)に対し、野田はコンビを組んでみて気付いたところがあったという。

「けっこう時間をかけて練るのが得意な人だから、今回はシステム的な力を発揮してくれると思ってたんですけど、むしろ演者としての即興力が高いっていう。『普通にコントやれるんだな』と思いましたね」

これにくるまは、喜びの声を上げて「実は、そもそもそっちが得意なので、それが出せてよかった」と口にしている。もちろん“即興力”には言葉の瞬発力も含まれるだろうが、何より番組の中で光っていたのはくるま特有のキャラに入った即興演技だ。「役に入るのが恥ずかしい」と話す漫才師も多い中、くるまはしゃべくり漫才のネタでさえちょっとした演技を差し込む。

考えてみれば、2023年、2024年、ともにM-1決勝の2本目は漫才コントだった。加えて、どちらも登場人物が多いネタなだけに「演じ分ける能力」、観客に理解させるまでの緊張感に耐えうる、ある種の「胆力」が必要となる。いずれかが欠ければ、みるみる笑いが削がれる類のネタだ。

そもそも設定に入って笑わせるネタに自信を持っているのだろうが、一方でよく仕組まれた設定であることにも気付く。彼らが披露した2本目のネタには、共通して“観客が想像しやすい”というアドバンテージがあるからだ。

2023年のM-1グランプリ最終決戦ネタ「町工場」は、2015年、2018年に放送された人気ドラマ『下町ロケット』(TBS系)を彷彿とさせるし、2024年の「タイムスリップ」は、プライムタイム・エミー賞を沸かせたアメリカのドラマ『SHOGUN 将軍』(アメリカ:FX、Hulu、日本:Disney+)の設定とその登場人物である樫木藪重(浅野忠信)、東宝のアニメ映画『クレヨンしんちゃん』のシーンなど、さまざまな映画やドラマを参考にしたと、優勝後の出演番組でくるま自身が語っている。

大衆のイメージを利用し、各々の頭に明確に描かれるであろう画に対して彼らはファンタジーな笑いを投入していく。設定からして、よく整えられているのだ。
 

大学生の時点で「割り切ってた」

続いて、「くるまがどのようにお笑いと向き合ってきたか」という点に注目してみたい。

そもそも幼少期にバラエティー番組の司会者である明石家さんまや島田紳助を見て、「偉そうにしてて格好良いと思っていた」というくるま。筆者がインタビューした中でも、「制圧してる人が好きだった」と語っていたのが印象的だ。

大学時代、お笑いサークル「お笑い道場O-keis」に所属し、複数のコンビを組んでネタを披露し始める。そんな中で、後の相方となる先輩・松井ケムリともコンビを組んだ。くるまは著書『漫才過剰考察』(辰巳出版)の中で、「勧められて入ったお笑いサークルでもそこまで熱心にネタづくりなどできなかった」と書いているが、実際はどうだったのだろうか。

2024年12月、同世代のラパルフェ・都留拓也に大学時代のくるまについて尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

「髙比良(くるま)って昔からずっとあのフォーマットでネタを作ってて。本人も大学生の時点で『僕は超面白いことは言えないけど、ボケを連発する漫才はかなり作れるから、それで行くしかない』って割り切ってたんです。それ聞いたときに『やってるうちに面白くなるネタだから、この人はいつかすごく強くなる』と思って」<『週刊プレイボーイNo.52-53』(集英社)より>

また、YouTubeチャンネル『ラパルフェの俺がついてるぜ』の動画(2023年12月29日配信回)の中で相方の尾身智志が語るところによると、「1年の頃から、いろんな大学のサークルのライブ観に行って、飲み会とかも顔出して」その相手を分析し、自身が所属するサークルの先輩にメリットのある情報を報告するような「偵察要員」だったという。

得意、不得意の「割り切り」、大学お笑い事情の「分析」、そして、テレビ司会者が放つ「制圧」へのあこがれ。現在のくるまの個性を語るうえで欠かせない3つの要素は、すでに大学時代から備わっていたようだ。
 

根底に「利他的」なスタンス

2024年、惜しくも『ABCお笑いグランプリ』で令和ロマンに敗れ、準優勝となった青色1号の榎本淳は、大会の舞台裏についてこう語っていた。

「ほかの漫才師と比べても、くるまが特殊なんですよ。『ダウ(筆者注:ダウ90000)は人数が多いから、漫才コントの登場人物を増やそう』とか、『青色1号とダウがしっかりしたコントをやるだろうから、俺らは変な漫才をしよう』みたいなことを本番ギリギリになって決めてたらしいので」<『週刊プレイボーイNo.51』(集英社)より>

ある時期から、パーマとメガネでボケらしい見た目を演出。加えて、昨年のM-1では「ジョニー・デップとお揃い」だという高級ブランド・サンローランの肩が尖った特徴的なスーツとオールバックで“ラスボス感”を出したという。

また、M-1決勝はネタの規定時間4分を超過しても強制終了がないため、審査員により強い印象を与えるべく、意図的に2本目を5分尺(実際には、約4分50秒)で披露。大会のグレーゾーンを突くM-1巧者ぶりも存分に示した。このように、賞レースにおける高い分析力が注目されてきたくるまだが、それを臆することなく貫禄のあるパフォーマンスとして昇華させるには、もう一つ別の要素が求められるように思う。

前述の『漫才過剰考察』の中で、くるまは芸歴1年目でM-1準決勝に進出し、ネタを披露したときの心境を振り返って「この素晴らしい空間を維持するために、僕はここまで連れてこられたんだ」と書いている。

またその後、コロナ禍に入って劇場がストップし、コンディションが悪い中で『NHK新人お笑い大賞』で優勝したことを受けて「これは運命だ」と感じ、「M-1の役に立とうと思った」と続けている。“運命論者”とも言えるくるまにとっては、コンビの優勝よりも“M-1が盛り上がるように整えること”のほうが重要なのだろう。

2023年のM-1優勝後にメディア出演を控え、劇場出演をキープしながら活動していたこともうなずける。また、根底に「利他的」なスタンスがあるからこそ、「トップバッターは優勝できない」という固定観念に縛られず、2年連続のトップでありながら揺るぎない漫才を披露できたのではないか。

2度目となる優勝会見で語られた、くるまの言葉がそのことを象徴しているような気がしてならない。

「最終決戦の3組が終わった時点で、優勝ぐらいうれしかったです。『できたー! 良いM-1だったなー!』ってめっちゃ思っちゃって。結果発表のときもセットとかずっと見ちゃって『良かったなぁ』って。プラスアルファ(筆者注:優勝という)ご褒美をもらったという感じですかね」

 

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