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幕を下ろした奇祭「蘇民祭」撮り続け60年 ぶん投げられたことも…
千年以上も続いている黒石寺(岩手県奥州市)の伝統行事「蘇民祭」が突然、その歴史に幕を下ろすことになってしまった。
黒石寺の藤波大吾住職が2023年12月、24年2月の開催を最後に終了すると発表し、関係者には驚きと嘆きの波紋が広がった。
理由は、関係者の高齢化と担い手不足。
住職は「楽しみにしてくださっているみなさまには大変申し訳ないけれど、ご理解をたまわりたい」と頭を下げた。
蘇民祭は五穀豊穣(ほうじょう)などを祈願し、毎年旧暦正月7日の晩から8日の早朝に行われてきた。
境内で上半身裸・下帯姿の男たちが蘇民袋を奪い合う、壮大な争奪戦などが有名だ。
2008年には、開催地の奥州市が観光用ポスターを駅構内などで張り出してもらうよう、JR東日本に依頼したところ、「裸の姿が不快感を与えるおそれがあるため」と断られて、一躍全国区になった。
約60年間、その「奇祭」を地元で撮り続けてきた写真家がいる。
奥州市の佐々木稔さん(88)。
「寂しい気持ちはあるが、時代が変わったんだ。仕方がない」と残念そうだ。
高校卒業後、地元の風景や人々の暮らしぶりなどを撮り続け、蘇民祭については知人に誘われて1955年ごろから撮り始めた。
「当時はまだ地域の祭りで、男たちはパンツも下帯もつけていなかった。面白い祭りだなと思った」
争奪戦に参加する男たちは荒々しく、近寄って撮影していたら、ぶん投げられたこともあるという。
祭りも時代と共に変化した。
「60年代に入ったころから徐々に全国的にも有名になり、東京からも大勢の人が来るようになった」
76年には大型書籍「黒石寺蘇民祭」(末武保政著、文化総合出版)に約60点の写真を提供。
体調を崩して撮影を休止した2010年代まで、祭りに参加する人々の姿を主に白黒フィルムで写し続けてきた。
自宅に残る約60年分のネガは「宝物」だ。
体調を崩し、最近退院したばかりで最後の蘇民祭には行けそうもないが、「若い人たちや地域の人たちにはどうか、最後の祭りを思い切り楽しんでほしい」と期待していた。
(2024年2月撮影)
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