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#37 大河ドラマ「光る君へ」たらればさんに聞く

平安文学への「熱」どう維持するか…大河ドラマ放送後の〝作戦会議〟

紫式部のお墓に手向けられたお花=水野梓撮影
紫式部のお墓に手向けられたお花=水野梓撮影

『源氏物語』や『枕草子』の誕生が描かれた大河ドラマ「光る君へ」が最終回を迎えました。平安文学を愛する編集者のたらればさんは、「偉大な作品を『面白いものだから次世代につないでいこう、残していこう』という人がいたから、千年も残った。これもすばらしいこと」と語ります。(withnews編集部・水野梓)

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ドラマでの「雲隠」「幻」の描かれ方

withnews編集長・水野梓:最終回では、まひろ(吉高由里子さん)が「光る君の最期を書かなかった理由」を道長(柄本佑さん)に伝えていましたよね。

「幻がいつまでも続いてほしいと願ったゆえ」「私が知らないところで道長様がお亡くなりになってしまったら、私は幻を追い続けて狂っていたやもしれませぬ」といった台詞がありました。

これは、『源氏物語』の『幻』『雲隠』のところのことかな、と思いましたが…。『雲隠』は、光源氏の「死」を暗喩する、何も書かれていない帖のことですよね。

たらればさん:そもそも『源氏物語』は、54帖それぞれの「帖」のタイトルを誰がつけたのか、諸説あります。主流の研究では、おそらく後年に(つまり「紫式部以外のだれか」が)章題をつけたんじゃないかと言われています。そのいっぽうで、このドラマではもともと「帖」にタイトルがついている親切設計にしていたんですね(笑)。

水野:女房たちが総出で冊子をつくっていたとき、まひろがタイトルの紙を貼っていましたもんね。分かりやすいですよね。
たらればさん:その上で、「幻のままでいてほしい」というせりふはうまいなと思いました。『幻』という帖は、光る君が最期の1年を過ごしながら、季節に合わせて自分の人生を振り返る内容です。

春になってこんなことがあって、夏は、秋は、冬に……と。そして、あぁこの1年が終わって、わたしももうすぐあの世へいくんだなぁ……というラストなんですね。そして『雲隠』がはさまれ、次の帖では光る君が亡くなってから8年後ぐらいの世の中になっているんです。

そういう並びを意識した上での、まひろのセリフなんだなと。道長が亡くなったのは12月なので、それもひっかけているんだなと思いましたね。

水野:なるほど~~~。

たらればさん:いや~やっぱり『源氏物語』は面白いなぁと改めて思いますよ。

水野:ちなみにリスナーさんからの質問で、「道長の辞世の歌ってなかったんですか」というものがありました。

たらればさん:道長もあの時代の貴族ですから、たくさん和歌を読んだはずですが、わたしの知るかぎり、道長の辞世の句は見たことがありません。それどころじゃなかったのかな…と思います。最期はだいぶ苦しんで亡くなったと『栄花物語』にありますし。

江戸時代に一番刷られた「偐紫田舎源氏」

水野:最終回のラストはまひろの力強い表情で「嵐が来るわ…」というセリフで終わりました。次の大河ドラマ「べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺〜」へのバトンタッチみたいに感じるところってありましたか?

たらればさん:本編にはありませんでしたよね。せっかく次のドラマは出版人、パブリッシャーを描くわけですから、出してもよかったのになとは思いました。

「べらぼう」の蔦屋重三郎が活躍した江戸時代、印刷技術が発達して識字率が高まり、庶民に広く読まれる「ベストセラー」が生まれた時代です。

江戸時代にいちばん刷られたのが『源氏物語』のパロディー本「偐紫(にせむらさき)田舎源氏」(1829年から発刊)です。いわゆる二次創作もので、そこを「光る君へ」本編とひっかけたりするのかなって思いましたが。
 

「登場人物、みんな好きになった」印象に残るキャラ

水野:リスナーさんからアンケートで、「大河ドラマのたらればさん的ベスト配役が聞きたいです」という質問もいただいていました。

たらればさん:ええと、ベスト? それはもちろん……清少納言役のファーストサマーウイカさんです。

不勉強ながら発表されたときはファーストサマーウイカさんを存じ上げなくて、ファースト、サマー、ウイカ、さん??と、「?」が頭の中に25個ぐらい浮かんだんですが(笑)。ドラマが始まったら、これ以上ないぐらいのハマり役でしたね。余人をもって代えがたい配役でしたが……さすがにこれは特別枠ですよね。

水野:そうですね(笑)。別の登場人物でいるでしょうか(笑)。
たらればさん:一条天皇を演じた塩野瑛久さんはすばらしかったですね。

水野:帝というやんごとない人ならではのオーラがありましたね~。

たらればさん:はかなげさ、可憐さもありましたよね。

定子さま(高畑充希さん)が伊周の今後を一条帝に頼みにいった時、「お健やかに」と頭を下げたシーン。一条帝が振り返って思わず定子さまを抱きしめましたよね。あらためて「このドラマ、最高だ……最高だぞ……」とつぶやきながら見ていました。今後の人生でもたびたび思い返すと思います。
水野:初期の登場ですが、段田安則さん演じる兼家(道長の父)もすごかったですよね。わたし、ドラマ前に抱いていた道長のイメージって、兼家そのままでした。

たらればさん:でしたでした。これが道長でいいのでは?って思いましたね。

水野:それに陰陽師の安倍晴明を演じたユースケサンタマリアさん。すごい存在感でした。

たらればさん:晴明、亡くなる直前に「呪詛も祈禱も心の持ちようなのです」って言ってましたよね。それまでさんざん呪詛や祈祷で政治をコントロールしておいて、「最期におまえがそれを言うのかーー!」って感じじゃないですか(笑)。

水野:そうですよ~。道長も最終回まで「寿命を10年あげるんじゃなかった」って悩んでましたよ。

たらればさん:いい伏線回収でしたよね。花山天皇の本郷奏多さんとかもそうですが、まひろと道長の周辺を支える配役がすばらしかったですね。

水野:リスナーさんから「最終的には登場人物、みんな好きになりました」ってリプをいただいて、すごく同感です。

たらればさん:まひろの母を殺した敵役のはずの道兼(玉置玲央さん)とか、最後は「死なないで」って思っちゃいましたもんね。

水野:そうでしたねぇ~。振り返ると、濃厚な1年でしたね。

この「ともしび」を守っていきたい

水野:たらればさんと同じく、清少納言推しリスナーさんからのコメントもありました。

<清少納言先輩ガチ勢としてささやかに生きてきましたが、たらればさんの存在により突然の心強い肯定をいただき、これからの人生も明るく過ごせそうです。ありがとうございます!>
水野:どうやったら平安大河がまた放送されるか、清少納言が主人公でいくにはどうするか、作戦会議ですね。

たらればさん:徳川家康はおそらく再来年の大河にも登場するでしょうから、3年ぶりぐらいで登場するわけですよね。だから清少納言も4,5年後ぐらいにぽろっとやっていいんだぞ、って思ってます。

水野:この1年でわたしは平安文学が身近になったので、勉強を続けたいなって思いました。

たらればさん:平安朝文学を専門としている国文学者たちも、この「ともしび」をなんとか守っていきたい、この熱をどれだけ維持できるのか……ってみんな思ってると思いますよ。

水野:そして何より、文学や和歌をはじめとした「文化」をずっと楽しめる社会であってほしいです。「今の世に、戦乱がない時代を描いたことが大事だと思う」というリプをいただきましたが、本当にそうだと思いました。

たらればさん:清少納言も紫式部も偉大な作家ですが、それと同じぐらい「作品を千年残したこと」もすばらしいですよね。「これは面白いものだから次世代につないでいこう、残していこう」と考えた人たちがいたから、今も残っているわけです。わたしたちもその「バトンをつなぐ役」になれる喜びに感謝ですね。

水野:いろんな方にスペースを聞いていただいて、記事も読んでいただいて、本当にありがとうございました。

【採録記事の連載はこちらから】「光る君へ」たらればさんに聞く?

たらればさん:幸せな1年でした。始まりがあれば終わりがあります。終わりがあるから始められる。また平安大河があったらみんなで集まりましょう。

水野:その時はまた、たらればさんの「始まったぞ皆の衆!」が見たいです。
◆【大河ドラマ「光る君へ」たらればさんに聞く】は今回が最終回です。ご愛読ありがとうございました。
これまでの記事はこちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。

総集編の放送にあわせて、たらればさんと書評家・渡辺祐真さん(スケザネさん)をお招きしたスペースを開催しました。アーカイブはこちら(https://x.com/i/spaces/1ynJODBYvlVxR)から聞けます。

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