連載
#8 はたらく年末年始
お正月特番中に地震が発生… 予報士が24時間365日配信を続ける理由
週末は晴れるだろうか。今日の夜は雨が降るだろうか――。普段私たちが何気なく見ている天気を予報する気象予報士は予報業務だけでなく、災害があれば、被害を伝えたり、注意を呼びかけたりします。もちろんそれは年末年始も変わりません。記憶に残った年末年始を振り返ってもらいました。
千葉県美浜区にある気象情報会社「ウェザーニューズ」。ここでは毎日24時間体制で、YouTubeで天気予報を生配信しています。
ウェザーニュースの天気予報の精度は、国内の主要なお天気サイトでナンバー1を誇ります。
これは気象庁のデータに加え、全国に独自の観測機を持っていたり、会員にリアルタイムの天気報告をしてもらったりすることなどによって、天気を予報しているためだそうです。
多くの人が休みになる年末年始も毎日、天気予報の配信は続きます。
それに加え、気象予報士の宇野沢達也さん(60)は「ウェザーニュースでは元旦に、『初日の出ズバリ予想』と銘打った初日の出の各地の時刻を予想しています」と話してくれました。
一般的な初日の出の時刻は、雲などに邪魔されることなく太陽が地平線から顔を出し始めた瞬間を指します。ただ、天気によっては地平線からではなく雲から顔を出す場合もあったり、住んでいる場所によって山越しに初日の出が見えたりすることもあります。
そこで「ズバリ予想」では、日の出の方向にある建物や山などの位置と高さ、そして雲の有無を考慮して、太陽が見える時刻を予想しているといいます。
2018年から始めたこの企画ですが、宇野沢さんは「予想した時刻ぴったりに、各地で太陽が見え始めると『よしっ!』とうれしくなります」と語ります。
2024年の元日、宇野沢さんは午後からの配信で解説を担当していました。こたつに座って、書き初めを紹介したりするお正月の特番をしていたといいます。
そこに「石川県で地震が発生」という情報が入り、慌てて、現地の被害情報や注意喚起の配信に切り替えました。
こういった地震が発生したときは、地震が発生している事実、揺れの大きさ、津波があるのかないのかを伝えます。
「地震はすでに揺れてしまっていますが、津波についてはこれから起こることなので、対策をすることができます。それをちゃんと伝えなければいけません」と話します。
能登半島地震では、現地を大動脈のように走る道路が寸断されて孤立集落がたくさん生まれたこと、人口あたりの死者数が阪神大震災よりも高かったこと(ウェザーニュースの調査より)も踏まえて、今後は地域の特性とともに状況を伝えなければならないともいいます。
「私、こういう大きい災害時に当番に入っていることが多いんです」と宇野沢さん。東日本大震災の発生時も配信を担当していたそうです。
「2011年3月11日は『北陸から雪雲が入ってきますよ』と解説していたら、地震が発生しまして…」。宇野沢さんは、2016年の熊本地震、2018年の大阪北部地震のときも解説をしていたといいます。
「さすがに能登半島地震の後には、茨城県の鹿島神宮へ行って、地震災難除けのお札をいただいてきました」と振り返ります。
地震や災害の発生時の配信を数多く経験してきたため、どういった情報を視聴者や現地の人が求めているのか、と毎回考えながら情報を伝えているそうです。
被災地に向けては、「部屋の中では靴を履いて足元に気を付けて」とか「大きい家具から離れて」といった呼びかけも怠りません。
また、実際に災害が発生している現地は通信が途絶しているかもしれず、発信している情報が伝わっているかわからないこともあります。
宇野沢さんは「だからといって配信をやめる訳にはいきません。少しでもこの発信を受け取った人が身を守る行動を取ってくれれば命が助かるんです。いざという時に人の役に立つという使命感を持って、伝えきることを大切にしています」と話しています。
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そば屋、神社、清掃工場、銭湯、介護現場……多くの人がお休みをとる年末年始も、変わらず働く人たちがいます。どんな思いで働き、どんなストーリーがあるのでしょうか。
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