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「星じゃ飯は食えん」…でも、美星町が〝星空保護区〟を目指したワケ
「星空保護区」を知っていますか。光害の問題に取り組むNPOが、暗く美しい夜空が保たれた場所を「星空保護区」として認定していて、国内でも4カ所が保護区になっています。その中の一つ、岡山県井原市美星町では街をあげて光害へ取り組んでいます。取材しました。
「晴れの国」と呼ばれる岡山県。晴天率が高く天体観測に適しています。県内には天文台やプラネタリウム施設といった天体関連の施設も多数あり、「天文王国おかやま」ともいわれています。
そんな岡山県の南西部にある井原市美星(びせい)町を訪ねました。
日が暮れると、優しいオレンジ色の街灯がともります。夜空を見上げれば満天の星に、うっすらと流れる天の川。街の高台にある「星空公園」には天文ファンが集まって撮影をしていました。
美星町は1954年に四つの村が合併して町となり、町内を流れる美山川と星田川から一文字ずつとって美星町と名付けられました。今では井原市に編入され、井原市美星町となっています。
美星町はその名にふさわしく、「星空保護区」に認定されています。これは、光害の問題に取り組むNPO「ダークスカイ・インターナショナル(旧ダークスカイ協会)」が2001年に始めた制度で、光害の影響のない、暗く美しい夜空が保たれた場所を保護区として認定しています。
日本では沖縄県の西表石垣国立公園、東京都の神津島(こうづしま)に続く三つ目の星空保護区となりました。
井原市観光交流課の職員として星空保護に携わる藤岡健二さんは「実はここは、国内で先駆けて、1989年に夜間の人工的な光を抑制するための『光害防止条例』を制定した自治体です。そのころから、夜10時以降は消灯を促すといった取り組みを続けてきました」と話します。
1993年には美星天文台がオープンし、星空観測の好適地として天文学者やファンの人気を集めてきました。
しかし、条例制定から年月が経ち、「町が明るくなってきた」という声を耳にすることが多くなってきたといいます。
町内に設置されている防犯灯が、省エネで長寿命の白色LED照明に変わり、上空へ光が漏れてしまうことが原因だったそうです。
暗い夜空に輝く星を守るため、星空保護区の認定に取り組み始めました。
認定の条件の一つとして、屋外照明を上空への光漏れが全くないものに交換することが必須でした。
ただ、数年前の時点では国内製品で星空保護区の基準を満たす防犯灯は見つかりませんでした。そこで、「大阪のパナソニックを訪ねて、相談を持ちかけました」と藤岡さん。
以前からパナソニックでは、光漏れを抑える光害対策用の照明を展開していたそうです。
既存の照明器具に黒い遮光板を付けて、上空への光漏れが0%になる照明器具を開発してもらったそうです。
町内の防犯灯や道路灯の計740基をこの照明に交換したり、条例を一部改正したりした取り組みが実を結び、2021年11月に「星空保護区」に認定されました。
今では、旅行会社と協力して星空観光ツアーを商品化したり、町独自の星空ガイドを養成し、観光客や住民への観望会を開催したりしています。
新たに保護区を目指す地区の関係者らが視察に訪れることも多いといいます。
一方、町内は人口減少や少子高齢化も進んでいます。星空観光で客を誘致するにも、宿泊施設や飲食店が少なく、交通が不便といった課題もあります。
藤岡さんは「保護区に認定されてまだ3年ほど。『認定されて何が変わったん?』『星じゃ飯は食えん』という意見があるのも事実です。時間はかかると思いますが、町の活力を創出するためにも、この町の名前にふさわしい星空の町・美星を守り、育てていきたいです」と話しています。
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