連載
#24 #令和の専業主婦
「すごい」「ご自愛」スタンプで交流SNS 主婦の利用が7割
使ってみると、気持ちが和らぐのを感じました。
「がんばった自分を褒めてほしい」「暴言を吐かれてつらい」――。思いをSNSに投稿したいけど、なんとなく否定的な反応が不安になって、投稿できない……。そんなときにも安心して発信できるように設計された、新たなSNSプラットフォームが人気です。リリースから1年も経たずに1万ダウンロードされ、利用者の7割は主婦層とのこと。どんな思いでつくったのか、開発者に話を聞きました。
人気になっているのはコミュニケーションアプリ「いつでもおかえり」(いつおか)です。
株式会社「祭」(東京都)が開発し、現在、開発の中心となっているのは代表の清水舞子さんと野窪亮さんの二人です。
「いつおか」は、2023年末にリリースされた、誰でも利用することができるSNS。文章や画像などを自由に投稿できますが、既存のSNSと異なるのは、基本的には返信ができないということ。ユーザー同士のやりとりは、共感やねぎらいなどの思いが反映された「スタンプ」のみです。
スタンプは、拍手や力こぶ、食べ物の絵文字のほか、「ご自愛」「うんうん」「すごい」「よしよし」といった文言もあります。ただし、相手を否定するような文言のスタンプはありません。
アプリのリリース前には、互いに返信できる状態でのサービスを試作したものの、議論が分かれるテーマでは、「それぞれの正義と正義のぶつかり合いになり失敗した」経験もあるといいます。
一方で、試作段階も、現在のサービスも、「誰でも使える」という点は変わりません。
清水さんは、「SNS事業者の思いを反映したシステム次第で、秩序は作れると感じました」といいます。
清水さんが「否定されない場所をネット空間に作りたい」という思いでサービス開発に至ったのは、自身にうつ病の経験があったり、サービス開発に携わった人たちに障害のある人たちが多かったりしたことも影響しているそうです。
そんな人たちの「互助会」のような場を意識して制作しました。
サービスをリリースしてみると、利用者の7割は30~40代の主婦層だったといいます。
主婦層のユーザーの使われ方について、清水さんは「『自分たちはがんばっている』と確認するためにも使っているのではないか」と語ります。
主婦層のユーザーにインタビューをすると、子どもや家族のケアに追われ、とにかく忙しく時間がない主婦の姿が見えてきたといいます。「しかもそのタスクには終わりがなく、途方もない生活だと感じました」と清水さんは言います。
そんな生活でのふとした悩みや不満は、友だちにLNEをするほどでもないし、自分を傷つけるような言葉が並ぶこれまでのSNSでは投稿できない――。そんなとき、お互いの頑張りを認め合える「いつおか」が使われているのではないか、と分析します。
清水さんは「社会の中でケア労働が軽んじられていると感じます。まずはユーザー間で、自分たちの価値を認め合ってほしい」と話します。
ワンオペで2人の子どもを育てる記者も、実際にサービスを利用してみました。
日々の忙しさゆえに落ち込んでしまっているという気持ちを投稿してみたところ、2時間ほどで、「ぎゅ」「よしよし」「うんうん」というスタンプが計10個つき、かたくなっていた気持ちが少し和らぐのを感じました。
リリースから1年ほどの「いつおか」ですが、清水さんが想定外だったというのが、投稿内容の多様性です。
「当初は悩みごとなど、つらい気持ちを吐露する場所を想定していました。ところが、喜びや楽しかった経験など、日々の何げない気持ちの投稿も多く見られています」
今後は、投稿の内容から気持ちの浮き沈みや必要とされるサービスを検知し、適切な支援につなげるための仕組みを展開していくつもりだといいます。
「相談先はもちろん、オフラインでの居場所の案内、就労を希望する障害のある人に向けた就労支援施設の紹介などを、ユーザーごとに案内できるような仕組みを検討しています」
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