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「健康診断の結果、わかるように」 映画「はたらく細胞」監督の変化

映画「はたらく細胞」監督の武内英樹さん=2024年11月24日、朽木誠一郎撮影
映画「はたらく細胞」監督の武内英樹さん=2024年11月24日、朽木誠一郎撮影 出典: 朝日新聞社

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体内で働く赤血球や白血球、血小板といった細胞を擬人化し、くしゃみや感染症など、体のメカニズムに沿ったストーリーで人気のマンガ『はたらく細胞』。その実写映画化が発表されると、大きな注目を集めました。手がけるのはこれまで「テルマエ・ロマエ」や「翔んで埼玉」など、実写化が難しい作品を世に送り出し、原作ファンからも評価されてきた武内英樹監督。今回の「細胞を人が演じる」という世界観を、どのように映画として成立させたのでしょうか。制作を通じた監督自身の変化や、人気キャラの実写化秘話とあわせて、話を聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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【プロフィール】武内英樹(たけうち・ひでき)
1966年生まれ、千葉県出身。1990年にフジテレビ入社。制作部でテレビドラマ「神様、もう少しだけ」「カバチタレ!」「電車男」「のだめカンタービレ」シリーズなどでドラマの演出を務める。「のだめカンタービレ」の劇場版「のだめカンタービレ 最終楽章 前編・後編」で初のメガホンを取り、以降「テルマエ・ロマエ」シリーズなどで映画監督としてもキャリアを重ね、2019年公開の「翔んで埼玉」で第43回日本アカデミー賞の最優秀監督賞を受賞した。2022年にフジテレビ退社。最新作「はたらく細胞」が12月13日に公開予定。

「ミクロだけど、壮大な世界」

――原作シリーズのさまざまな要素が作中に散りばめられていました。相当、原作を読み込まれたのではないでしょうか。

かなり読みましたね。詳しくなりましたよ。今まで血液検査を受けて、結果の紙に「白血球」「抗体」と書かれていても、それが何か、値が高いとどうなるかもよくわからなかったんだけど、可視化してビジュアルにすることで「体の中でこういう働きをしているんだ」「これが戦ってくれているんだ」とスッと頭に入ってきた。

今回の作品では、それを人が演じることで、さらに感情移入できたり、理解しやすくなったりすると思います。子どもが見て、将来「お医者さんになりたい」「看護師さんになりたい」とか、そういう目覚めにもなるんじゃないでしょうか。

――「細胞を人が演じる」のはかなり難しいのではないかと思っていたのですが、細胞側のドラマとSF的な表現、アクションシーンに違和感がなく、驚きました。

いやもう、怖いですよね。撮影中「どうなるか」は私も感覚でしかないので、頭の中でカットバック(別々の場面を交互に見せる編集の手法)していって。

体内ってミクロだけど、壮大なんだということを伝えるためにも、数やスケール感というのはしっかり出さなきゃいけない。エキストラも総勢約7500人とか、たくさん出演してもらって、それをドローンを飛ばして空から撮って。爆破もガンガンして。

あとは、体の中のカラフルなイメージを反映しつつ、各臓器の機能が伝わりやすいようなセットやCGを駆使しました。

赤血球役の永野芽郁さんは「赤血球を演じる」というオファーを受けて、マネージャーさんに「どういうこと?」って聞いたみたいですけどね。アクションシーンは白血球(好中球)役の佐藤健さんがこだわって、映画『るろうに剣心』などのアクション監督の大内貴仁さんと一緒に作っていきました。

――日本人俳優の阿部寛さんが古代ローマ帝国の浴場設計師を演じる「テルマエ・ロマエ」、未開の地の埼玉県民が徹底的に差別されている架空の日本を描く「翔んで埼玉」を撮ってきた武内監督でも、怖いと感じるんですね。頭の中のイメージが、必ずしも反映できないこともありますか?

それはもちろん、ありますよ。予算的にできないこともあるし、例えば「イメージ通りの場所がない」とかそういうことも起きます。それでも何とかイメージに近いもの、違和感のない代わりのもので実現するしかない。毎回、疲れちゃいますよね(笑)。

今回は映画会社さんの方から企画を提案していただいたんですが、周囲からはいつも大体「無理だ」って言われます。

原作にない「人間」登場の理由

――本作では、原作にはない、細胞たちの主である人間側のドラマも描かれていました。なぜですか?

原作のこだわりは、やっぱり「人間の中だけ」というところだと思うので、人間側を描くのはある意味で禁じ手でもあると思います。

現実的な事情もあって、すべてを体内だけで描こうとすると、それこそセットやCGとかに、どうしても予算が足りなかったんです。コスト的な意味もあって、実は体の外のドラマのスケールはわざと小さくしています。

あえてそこにギャップを出すことによって、体内のスケールを大きく見せる。でも、原作にない要素を足したのに、そこがちゃんと成立していなければ、原作のファンの方も納得いただけないでしょう。そこは阿部サダヲさんと芦田愛菜さんがしっかり演じ切ってくれました。

――「のだめカンタービレ」シリーズなど、原作ファンからも愛されるような実写化に定評があります。心がけていることはありますか?

まずは、自分が原作ファンになることですね。あとは、最初に実際に原作のファンの方に会って、取材するというのはいつもしています。そうすると、イメージと違うことがよくあるんですよ。

例えば、「どのキャラクターが好きですか?」と質問すると、よく知らないと赤血球とか白血球とか、主人公的なキャラが人気なのかと思ってしまうけど、違う。「血小板ちゃん」を挙げる人が多くて。

血小板ちゃんは原作では小さい女の子で、保育園児のようなビジュアルですが、実は実写化にあたり、違うアプローチをしようとしていました。でも、「ここはちゃんと忠実に子どもでやらなきゃダメなところだ」「ここを外すと原作ファンが離れてしまうぞ」と。製作陣が独断的にすると、やっぱり痛い目に遭うことがあるので。

――逆に、本作では原作に忠実なシーンも多いように感じました。原作ファンが好きなエピソードというか。

やっぱり、映画の導入で違うことをやっちゃうと、原作を知っている人はすごくガクッとなっちゃって、入っていけないから。印象に残っているシーンで、まず安心していただくことが大事だと思っています。

最初の方で「あっ、これは大丈夫だ」ってわかってもらうというか。で、そこからどんどんこちら側に引きずり込んでいく(笑)。

「会社員監督」でアカデミー賞

――2022年にフジテレビを退社されるまで、会社員だったというのもユニークな経歴だと感じます。

会社員時代は自分の仕事を選べないじゃないですか。「どんな球が来ても打たなきゃいけない」という環境でやってきました。

ずっとドラマをやっていたから、もう何百時間、ヘタしたら何千時間も撮影しているんですよ。撮影時間が長いから、いっぱいミスもしている。そうすると、「あっ、こういうことをすると怪我をするんだ」とか、逆に「こうすると感動するんだ」というツボはやっぱり、知っているというか。

そういうツボのサンプルを引き出しながら、無茶振りにも応えてきましたね。だから、難しい球はもちろん、打つのは難しいんだけど、打てた時の快感がね、大きいので。

――長く演出に携わられましたが、映画のメガホンを初めて取ったのは2009年公開の「のだめ」劇場版のとき、40代になってからと伺っています。

「のだめ」は元々連続ドラマがあって、スペシャルの長編ドラマがあって、映画になっているから、意外とスムーズに、ドラマから映画にスライドできたとは感じています。テレビがヒットして、そのまま映画になっていったという流れだったので。劇的に変わったというよりも「気がついたら映画を撮っているぞ」という感じでした。

――今回の『はたらく細胞』のテーマには「組織の中での自分の役割を果たすこと」もあると感じました。会社員としての経験も生かされているでしょうか。

そうですね。作中で赤血球や白血球は自分に任されたさまざまな仕事をして、時には困難にも直面します。このように、“はたらく”というのは、社会を構成する人、ある意味では地球上の誰でも同じ共感を得られるテーマだと思います。

そんな70億人全員の中に、さらに37兆個の細胞が働いている。そんなことに思いを馳せてみると、ちょっと大変なことがあっても、頑張れるのではないでしょうか。

――原作ファンでない人も、原作ファンの人も、この映画のどんなところを観てほしいですか?

この映画のキャッチコピーが「笑って泣けてタメになる」なんですね。この三つが合わさることはなかなかないと思います。この映画をぜひ劇場で観ていただいて、それをきっかけに、自分の身体を愛してほしいと思います。

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