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#23 #令和の専業主婦
駐在帯同を機に7割退職…当事者団体が専業主婦に調査 就労望む声も
駐在員に同行し専業主婦・主夫として生活している人の7割は、同行を機に退職している一方で、多くがキャリアに悩みを抱えている――。そんな調査結果を非営利団体「キャリアカフェ中国」がまとめました。現地の駐在員向けセミナーで結果を伝えると、「『パンドラの箱』すぎて、話すことができない」と、30代の駐在員本人からも苦しい胸の内を打ち明けられたといいます。
「キャリアカフェ中国」は2018年から、中国の駐在員の帯同家族のキャリアを支援してきました。帯同中や帰国後のキャリアの悩みや、再就職に向けた自己分析などについて、月に3回ほどのイベントやセミナーを開催。中心となる約30人のスタッフの中には、キャリアコンサルタントの有資格者や、企業の人事経験者などもいて、誰でも参加できるグループチャットの登録者330人に向けて、情報発信などを行っています。
キャリアカフェ中国は今夏、同行家族のキャリア意識の現状を把握するため、登録者らに「駐在同行家族の現状」として初めてアンケートを実施しました。
アンケートには約3週間で、235人が回答。6割が30代で、98.7%が女性。現在の就労状況を聞くと、専業主婦もしくは専業主夫と答えた人が78.3%でした。そのうち、「駐在同行をきっかけに退職した」と答えた人は、72%にのぼりました。
「9月に上海日本商工倶楽部で講演をする機会があり、その際に実情を伝えるため、アンケートをとりました」と話すのは、代表の関小百合さん。
同行によって退職した人がいるのか、キャリアにどのような変化があったのか、今後のキャリアをどう考えているのか――。
「当初は100件くらいの回答があればいいかなと思っていたのですが、蓋を開けてみると235件が集まり、それだけ自身のキャリアへの思いを伝えたいと思っている人たちがいるというのは大きな驚きでした」
アンケートでは、就労への意欲をはかる質問も。「今後の就労に対する希望」では、66%が「本帰国後に働きたい」、15%が「駐在同行中に働きたい」とし、およそ8割が就労を希望していることがわかりました。
中国では、帯同ビザで働くことは認められておらず、帯同中に働く場合には就労ビザへの切り替えが必要ですが、その切り替えについて「配偶者の会社が認めているか」という設問では、38%が「認めていない」と回答し、17%が「認めている」と回答。
関さんは「ビザの切り替えの可否を知っているということは、配偶者側の会社に確認しているということ。そういう人が55%もいるということが驚きでした」。
このことについては、商工会での講演でも話題になったそう。
「企業側としては、駐在員の家族からその都度問い合わせを受けるだけで、全体感については把握できていません。そのため、2人に1人が就労ビザの切り替えについて問い合わせをしているという事実に驚いていました」
講演の後には、駐在歴が数十年になるという参加者から「同行する家族のキャリアへの意識がこんなにも変わっていることに驚いた」という声も聞かれたそう。他の駐在員からも「妻はテニスを楽しんでいたのに」と、自身が認知していた帯同家族の様子と調査結果とのギャップに驚きの声が上がり、女性のキャリア観の変化を肌で感じていたそうです。
関さん自身も、夫の駐在に同行するため、2022年から中国で暮らしています。帯同ビザを用意する夫の会社側から「退職証明」の提出を求められ、当初は困惑したといいます。ただ、話し合いを重ね、「いまはあなたのターン。いつかは私のターンが来るからそのときはサポートをしてほしい」と約束をして、退職をしたといいます。
「最近変化を感じるのは、男性側の意識。家族を優先させたいという考えが強く、『ファミリーキャリア』の考え方も浸透してきています」
その流れの中で気になるのが、駐在員本人の心的負担だといいます。
「40代50代の方は、『時代は変わってきているよね』と理解を示す一方で、共働きの感覚が根付いていると思われる30代になってくると、『パートナーのキャリアの話はパンドラの箱過ぎて話ができていない』と話す人もいます」
「パートナーに『辞めてついてきてもらっている』という意識が強く、駐在員本人の負担感にもつながっているように感じます」
実際、「パートナーの仕事を優先させたい」と駐在打診を断る事例も見聞きしたことがあるといい、「駐在員を派遣する企業にとっては人材を十分にいかせず、同行者が所属する企業にとっては人材を失うという損失につながっている」。
今後、関さんたちは、「まずは同行者の意識が変わっていることを知ってもらいたい」と、駐在員を派遣している企業や、同行者側の企業などに向け、幅広く問題提起を続けたいと考えているそう。
「そもそも同行することに葛藤を抱えている家族がいること、そして、不本意にも退職をして同行している人がいることを知ってほしい。知った上で、議論の種にしてもらいたい」
危惧しているのは「家族を同行させること自体が面倒。それなら単身赴任で」という流れになること。さらに、帯同先での就労については、ビザ発給の要件などが国によって異なるなど、難しさは多くあります。
関さんは「企業側にももちろん悩みがあると思います。そのときに、一緒によりよい道を探るパートナーとして、今後活動していきたい」と話しています。
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