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#66 イーハトーブの空を見上げて

わんこそば全日本大会、最高記録は何杯?5分で競い合う「食士」たち

必死にそばを食べる参加者ら
必死にそばを食べる参加者ら
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
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イーハトーブの空を見上げて

岩手の「三大麺」は…

岩手で取材をしていると、時々、「なんだ、こりゃ?」と頭を悩ませるような出来事に巡り合う。

たとえば、「わんこそば全日本大会」。

岩手には「三大麺」と呼ばれる麺があり、曰く、それらは「盛岡冷麺」「じゃじゃ麺」「わんこそば」であるらしい。

盛岡冷麺は、朝鮮半島北部の出身者が盛岡に移住して作った麺で、牛骨や鳥肉などを煮込んだ透明なスープと、小麦粉と澱粉による強いコシの麺が独特の歯ざわりを生み出す銘品。

キムチの量で辛さを調節し、ゆで卵や季節の果物などがそえられて、本当においしい。

「岩手の人は、焼き肉店に行っても焼き肉を食べず、冷麺だけを食べて出てくる」と言われるが、私も最近は焼き肉店で冷麺だけを食べることが多い。

じゃじゃ麺は、中国北東部の麺を参考に有名店「白龍」が屋台から始めた麺らしく、「炒めみそうどん」という意味らしい。

特製の味噌と麺を混ぜ合わせ、おろししょうがやお酢、にんにくやラー油を加えて食べる。

桜山神社前の「白龍」の前には今日もずらりと観光客が並んでいる。

「はい、じゃんじゃん」「はい、どんどん」

わんこそばは全国的にも有名で、一口大に小分けしたそばを客が食べ終わった瞬間に、隣の給仕さんが「はい、じゃんじゃん」「はい、どんどん」と言いながら、器に絶え間なくそばを盛る、見ていても楽しい麺である。

でも個人的には、どちらかというと「観光客向け」のイメージが強く、地元の人はあまり肩入れしないように感じていた。

ところが……。

太鼓とメガホンで大声援、熱気に包まれる会場

「はっけよい、はじめ!」

花巻市文化会館の大ホールに威勢のいい行司の掛け声が響き渡ると、壇上に並んだ出場者たちが一斉に、おわんに盛られたそばを勢いよく口の中へと放り込んでいく。

花巻市で開かれた「第66回わんこそば全日本大会」。

会場に入ると、あまりの熱気に圧倒された。

約180人の出場者たちが1玉10グラムのそばと格闘する間、満員の会場からは絶えず、競技者の食欲を後押しするため、太鼓がドンドンと打ち鳴らされ、応援の友人たちがメガホンで大声援が送っているのだ。

「やった~、勝った~」

「すごいぞ、新記録じゃん!」

腹を押さえて満足げな競技者も、応援する観客席も、皆大騒ぎなのである。

制限時間5分で競い合う「食士」たち

大会関係者によると、わんこそばの歴史は約400年前にさかのぼり、南部家第27代利直公が江戸に向かう際、花巻に立ち寄って名産のそばを何杯もお代わりしたことにちなむ。

花巻の名物にしようと第1回大会が1957年、そば店の2階で開催された。

相撲をまねて行司をつけ、参加者を力士ならぬ「食士」と呼ぶ。

当初、制限時間は15分だったが、第11回から5分に短縮され、現在は小学生と団体の部は3分、個人の部は5分で、その間に何杯そばを食べられるかが競われる。

これまでの最高記録は第58回の258杯。

第44、45、49回大会では女性横綱が誕生し、それぞれ187杯、222杯、225杯食べた。

たくさん食べるコツは、①かまずに飲む②リズム良く食べる③つゆは飲まない④必要以上におわんを動かさない、ことらしい。

出場した地元の小学5年生は「おそばは大好きだけれど、25杯でおなかがいっぱいになった。でも、おいしかったし、楽しかった」と嬉しそう。

どんなにそばがおいしいとしても、地域の食文化を愛しているとしても、それを競技にして全国大会を開き、客席から太鼓やメガホンで大声援を送る……。

私にはまだまだ「岩手」の勉強が足りないようだ。

(2024年2月取材)

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

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