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障がいのある子どもへ「トイトレに一筋の光」 超音波で「排尿」予測
開発のきっかけは異国での〝失敗〟
子どもがトイレに行きたいことを教えてくれないーー。障がいのある子を育てる親にとって、トイレのサポートは悩みごとの一つです。そんな悩みをテクノロジーの力で軽減する「排泄(はいせつ)予測デバイス」が注目されています。
自閉スペクトラム症やダウン症、知的障がいなどがある子どもたちのなかには、意思表示ができない子もいます。
「トイレに行きたい」と伝えてくれない子どもを持つ親のニーズが高まっているのは、排泄予測デバイス「DFree(ディフリー)」です。
幅約5cm、重さ26gのデバイスで、装着用シートを使って下腹部に貼ります。超音波センサーを発して膀胱内の尿のたまり具合を計測。排尿のタイミングを予測し、スマートフォンや専用のタブレットに通知が届きます。
たまり具合は10段階で表示して「トイレに行くタイミングを見える化」し、子どもが「トイレに行きたい」と言えなくても親がタイミングを把握できるそうです。
知的障がいや発達障がいのある子どもの、トイレの自立に向けたサポートやトイレトレーニング(トイトレ)は難しい傾向にあります。
「DFree」を企画開発したDFree社(東京都港区)と病気や障がいのある子どもたち向けの情報サイト「ファミケア」が、2024年5月にトイレの悩みについて調査を実施(n=206)。回答者の72.1%が、トイトレやサポートの経験はないと答えました。
背景には、子どもが意思表示できなかったり、排泄について理解していなかったりする事情があります。
トイレの困りごとについて尋ねた項目では、「子どもがトイレに行きたいことを教えてくれない」(33.7%)がもっとも多く、「トイレを理解していない」(22.3%)、「トイレへの移動が間に合わない」(11.4%)が続きました。
回答者の子どもの平均年齢は6.8歳で、およそ9割が知的障がいや発達障がいでした。
そもそも、「DFree」開発のきっかけは代表取締役・中西敦士さんの苦い経験にあります。
2013年にアメリカに留学していたとき、急な便意に襲われて大便を漏らしてしまった失敗から、排泄を予測するアイデアにたどり着いたそうです。
広く排泄に悩む人に向けて研究開発を始めましたが、当初は障がい児のいる家庭のニーズを把握していなかったといいます。
2015年に「DFree」の開発に向けたクラウドファンディングをした際は、高齢者の排泄のタイミングを知ることができると、介護施設や医療機関の関係者からも大きな反響がありました。
中西さんは、「介護における排泄ケアの課題は、我々のデバイスで解決できることがあると気づいた」と振り返ります。
その後、障がい児を育てる家庭の「トイレでおしっこをしてほしい」「小学校入学までにおむつを卒業したい」といったニーズを知り、今年から子どもの福祉機器展に参加しました。ブースには長蛇の列ができたそうです。
障がい児を育てるユーザーからは、「トイレに行く習慣ができた」といった喜びの声が寄せられているといいます。
自閉スペクトラム症の6歳の男児は、おしっこのタイミングを適切に伝えることができず漏らしてしまうことが多かったといいます。漏らすことをためらって水分を取らず、脱水になることもありました。
しかし、「DFree」の通知をもとにトイレへ誘導すると漏れる回数は減り、数値化されていることで子ども自身も納得してトイレに行けるようになったそうです。
保護者も、それまでは常にトイレを気にして生活していましたが、必要なタイミングのみトイレに連れていけばよくなったといいます。
中西さんは、「尿がたまっている感覚を教えることは難しいのですが、『DFree』では『この感覚のときにトイレに行くんだよ』と伝えることができます。『諦めかけていたトイトレに一筋の光が見えた』という声もいただきました」と話します。
今後も障がい児育児関連のイベントに積極的に参加し、周知していくそうです。
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