「おくすり飲めて偉いね」そんな言葉を2歳になる我が子にかけている時、ふと感じた「なぜ飲めるのか」という疑問。その答えが「シロップで甘いから」だとしたら、あれ、子ども用の薬には砂糖がたくさん入っている?虫歯の可能性もある? 取材すると、かねてから注意喚起されているテーマであることがわかりました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
保育園に通う2歳半の我が子は、接する人が増えたためか、かぜとまではいかないものの、よく鼻をぐずぐずさせるようになりました。子どもが鼻をかめるようになるのは一般的に2~3歳と言われ、うちでも練習を始めましたが、まだ上手にできません。
鼻水をティッシュを使って(体になるべく負担のないように)しぼるように出したり、鼻吸い機を使って出したりしていますが、対症療法感は否めません。気になる時はかかりつけ医を受診し、鼻の通りをよくするシロップの飲み薬を処方してもらうこともあります。
最初はイヤがっていた我が子ですが、なだめすかし、飲めたら「おくすり飲めて偉いね」とほめそやし……という親の努力により、薬を飲めるようになりました。よかったよかった――とホッとしたところでふと疑問に思ったのが、「なぜ飲めるのか」ということ。
好き嫌いがあり、例えば果物などもちょっとでも酸っぱいと食べない、このアンコントローラブルな生き物が、すんなり薬を飲むのはおそらく「シロップで甘いから」でしょう。
あれ、ということは、子ども用の薬には砂糖がたくさん入っている? 飲んだら歯磨きしなきゃいけない?
薬の成分表をチェックしてみると、そこにはやはり「白糖」「カラメル」といった文言が並んでいました。ちなみに、このような砂糖類は薬の有効成分以外に当たるため、医薬品添加剤として記されます。ただし、添加物であるため、この砂糖類が何g含まれるか、何kcalかなどは、添付文書にも明記されていません。
そのままでは飲みづらい薬の味を整えるために、調剤に用いられる「単シロップ」という製品(これは医療用医薬品に該当します)には、1ml中白糖0.85gが含まれます。カロリーにすると、1mlあたり約3.4kcalになります。
薬にもよりますが、仮にうちの2歳の子どもが飲むシロップの量を5mlとすると、白糖約4.3g、17kcalということに。もちろん、実際には希釈されたり他の成分を添加されたりして、シロップをそのまま飲むわけではないので、これはあくまで最大量の目安ということになるでしょう。
実際の薬にはどのくらいの砂糖類が含まれているかについては、1996年と古い報告(※)ですが、シロップ液状総合感冒薬10社12種類を調査したところ、9社10種類は23%から48%のスクロースを含有しており、1社で製造されている2種類にはスクロースもグルコースも含まれていなかったということです。
※日本で市販されている小児用シロップ液状総合感冒剤の歯垢内酸産生性 - 東北大学歯学雑誌Vol.15,No.2,1996
このような薬を、処方によっては1日数回服用し、「就寝前の服用」が指示される場合もあります。白糖のような砂糖類は、もちろん、虫歯の原因になります。子どもが「寝る前にスティックシュガー1本分の砂糖を口にする」と考えた場合、親としては当然「虫歯になりそう」「歯磨きをさせなければ」という発想になるはずです。
少なくとも、小児用の薬の「甘味」のもととなる物質が何なのか、保護者による添付文書の確認が必要であると言えるでしょう。
また、前述の研究では、摂取後に水で7回うがいしても、虫歯の歯垢pHは低下したままだったということです。このように、「うがいだけでは効果が乏しい」という落とし穴もあるため、複数の歯科医師に話を聞くと、歯科領域ではかねてから注意喚起されているテーマであるようでした。
虫歯(う蝕)が起きるメカニズムは、まず、う蝕原性細菌である「ミュータンスレンサ球菌」が砂糖(スクロース)を基にグルカンという物質を産生し、このグルカンを利用してバイオフィルム(細菌が身を守るために形成する膜)を作ります。
さらにこれを基に他のさまざまな細菌や物質を取り入れて歯垢(デンタルプラーク)が作られます。ミュータンス菌は歯垢の中で食物中などの糖類を代謝して酸を産生し、この酸により歯の表面が脱灰(カルシウムが溶出する現象)され、う蝕を発症します。
なお、デンタルプラークは、その中で産生される酸が唾液により希釈されたり、拡散されたりすることを妨げるので、デンタルプラークの直下でう蝕が発症するのは、そのためだということです。
星野さんは「薬に入っているからといって、砂糖などがう蝕の原因にならないという根拠がありません」「糖類は多くの細菌のエネルギー源であり、これを代謝してエネルギー源としており、その結果として酸を産生してしまうので、う蝕の原因となる可能性があると考えるのが自然です」と説明します。
「大人は錠剤で飲むので、糖衣錠だったとしても口腔内に留まる時間が短く、食後などに服用したとしてもその後に歯磨きをするので、ほぼ影響はないと思います。
一方で、子どもは粉だったり、シロップだったりで口腔内にとどまる時間が錠剤・カプセルに比べると長く、発熱してぐったりしているときに飲ませる場合は歯磨きができないなどの問題があり、大人に比べるとう蝕になるリスクは高くなると思われます」
前述の研究では、「摂取後に水で7回うがいしても、虫歯の歯垢pHは低下したままだった」とされています。これはつまり、歯垢の中のミュータンス菌がスクロースを材料に盛んに酸を作っていること、うがい程度では簡単に虫歯を予防できないことを意味しています。
また、この研究では、うがいで口の中のスクロースを洗い流しても、菌の中に取り込まれたスクロースにより酸が作られ続けることが示唆されています。
星野さんは「該当するような服用薬がある場合は、服用後必ず歯磨きをしてもらうことが虫歯予防のためには重要になります」と指摘します。
「低年齢の子どもの場合は食後すぐに眠くなってしまうことも多いので、食事から薬の服用、歯磨きまでの流れを一連にしてしまうのが良いでしょう。また、錠剤やカプセルでの服用が可能な子どもの場合には、シロップや粉薬からの変更が可能な場合には変更してもらうのも一つの手段と思われます」
このように、飲ませた後にはしっかり歯磨きをする必要がありそうですが、うちの子は歯磨きが苦手で毎回、大騒ぎ。うっかり飲ませ忘れて2回、歯磨きをさせる惨事が引き起こされないように、親も注意しなければ、と気を引き締めた次第です。