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続くお笑い芸人の海外進出、「出演」と「活躍」の〝リアル〟な温度差

世界的サッカー選手と「TTポーズ」を決めるチョコレートプラネットの2人=2019年、内田光撮影
世界的サッカー選手と「TTポーズ」を決めるチョコレートプラネットの2人=2019年、内田光撮影 出典: 朝日新聞社

目次

今年もチョコレートプラネットらが世界的なオーディション番組『ゴットタレント』に出場し注目を浴び、“海外進出”という見出しで大いに国内のメディアを賑わせた。しかし、そんな華々しい姿と、これまで海外で活動してきた、国内では必ずしも有名でない芸人たちの姿には、温度差もある。「海外で活躍する」とは実際のところ、どういうことなのか。過去の例を振り返りながら、お笑い芸人の海外進出について考える。(ライター・鈴木旭)
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『ゴットタレント』出演者は増加

昨今、お笑い芸人が人気オーデション番組『ゴットタレント』に出演し、国内のメディアを賑わせることが多くなった。

同番組は世界各国で放送されており、とくに2010年代中盤からジワジワと日本の芸人たちが顔を見せている。2015年に真顔のタンバリン芸で知られるゴンゾーがアジア版に出演。そのゴンゾーからの誘いで2017年に同版のシーズン2に挑戦したのがおなかを使ったパフォーマンスで知られるコンビ・ゆんぼだんぷだ。

2018年には、かねてテーブルクロス引きなどの瞬間芸を得意とし、Twitter(現・X)にアップした動画が海外でバズっていたウエスPがフランス版から声がかかり、決勝に進出。股間に布とティーカップを乗せてドローンで引っ張ったりする“危険なテーブルクロス引き”で大いに会場を沸かせた。

この反響を得て、ウエスPと同じ吉本興業の芸人が次々と『ゴットタレント』に挑戦するようになっていく。2019年にはゆりやんレトリィバァがアメリカ版に登場、昨年2023年にとにかく明るい安村がイギリス版で決勝進出、今年は安村とともにチョコレートプラネットが「TT Brothers」としてアメリカ版に出演している。

事務所は異なるが、同シーズンのアメリカ版に臨んだシューマッハは犬のお面を使った瞬間芸を披露し、日本人コメディアンとしては異例のゴールデンブザー(審査員特別賞)を獲得。国内のメディアを賑わせたことも記憶に新しい。

こうしたニュースを報じるネットメディアでは、「海外進出」との見出しをよく見かけた。しかし、『ゴットタレント』出演後、海外での継続的な活動につながっている芸人は限られる。

例えば、これまで各国の『ゴットタレント』に出演してきたとにかく明るい安村は、今年のアメリカ版の準々決勝敗退を最後に「挑戦は一区切りにしたい」と発表。

安村に密着した今年7月21日放送の『情熱大陸』(TBS系)によれば、オーディション番組への出場は優勝しなければギャラが出ないのに加えて、その都度、各会場のスタッフに音響や照明のきっかけを伝え、現地の言葉を覚えてパフォーマンスする労力もかかる。国内外での反響を考えれば、十分すぎるほどの挑戦だったとも言える。

現地に根付き、芸をローカライズさせて人気を得るには、それ以上の柔軟性とパワーが必要だろう。その意味でも、今月からアメリカを拠点とした活動を発表しているゆりやんレトリィバァは注目の存在だと言える。
 

過去の海外進出の事例は

過去にも、本格的な海外進出を図った芸人はいる。例えば、かつて「平成の明石家さんま」との触れ込みで活躍したぜんじろうもその1人だ。

司会を務めた関西ローカルの深夜番組『テレビのツボ』(毎日放送)が大ヒットし、鳴り物入りで東京へと活動拠点を移したものの、当時のテレビ関係者の求めるものと自身の芸風との間にギャップが生じ、仕事が激減。そんなときに頭に浮かんだのが、舌鋒鋭い話芸で知られる師匠・上岡龍太郎から聞いていたスタンダップコメディーだった。

当時のバラエティーの雰囲気にも違和感を覚えていたぜんじろうは、1998年に単身アメリカへと渡り、現地のコメディークラブなどで修業を積んだ。2001年の帰国後は、オファーがあれば海外に出向き、国内でスタンダップコメディーを根付かせるべく活動している。

変幻自在のコメディアン・清水宏も海外志向が強い。2011年から英語コメディーグループ「Tokyo Comedy Store」に所属し舞台に出演する一方で、スタンダップコメディアンとしても活動をスタート。イギリス、アメリカ、カナダ、韓国などに出向いて現地語で海外公演を重ね、2015年にカナダのフェスティバルで最優秀外国人パフォーマー賞を受賞している。

翌2016年には、ぜんじろうらと「日本スタンダップコメディ協会」を設立。長らく会長を務めスタンダップコメディーの発展に尽力したが、今年4月に「スタンダップコメディの名前を広めていくのに一定の役割を果たし終えることができた」などの理由から解散を発表。とはいえ、以降もスタンダップコメディアンとして精力的に活動している。

2人に共通するのは、英語圏の国で主流のスタンダップコメディーを体得し、それぞれのやり方で海外の笑いに挑戦してきたことだ。彼ら以外にも、決して国内での知名度が高いとは言えない芸人が、各国で地道な活動を続け、着実に基盤を築いてきた、という経緯もある。
 

吉本興業の海外戦略は?

一方で、最大手の吉本興業が、2010年前後から積極的に海外戦略を進めてきたのも事実だ。それまでにも、新喜劇や落語の海外公演のほか、ガレッジセールがオランダ・アムステルダムで現地向けのライブを開催していたが、この時期にさらなるグローバル展開をスタートさせている。

中国最大級のマスメディア企業「上海メディアグループ(SMG)」と事業提携し、両社共同で映像コンテンツを制作しているほか、昨今では「上海国際コメディーフェスティバル」に所属タレントが出演し、吉本新喜劇、コント、漫才を披露している。

また、アメリカのシカゴでコメディー劇団とスクール、常設劇場を運営する「セカンドシティ」と事業提携し、2014年からセカンドシティの即興コメディー(アメリカのコメディー3大ジャンルの1つ「インプロ」)のメソッドを取り入れたプロジェクトがスタート。今も都内で開催されているコメディーショー「THE EMPTY STAGE」へとつながった。

2015年からは、台湾、タイ、インドネシアなど7つの国で所属芸人が現地のスターを目指し活動する「アジア住みます芸人」がスタート。インドネシアでは、浦圭太郎、濱田大輔、山口健太からなるトリオ芸人「ザ・スリー」が、翌2016年に同国の人気オーディション番組にリズムネタで挑戦し準優勝。これをきっかけに現地の人気者となった。

吉本興業が土壌を育み、流れができてきた中で、ウエスPが『ゴットタレント』で注目を浴び、事務所がさらに後続の芸人を後押しすることになったのは、想像に難くない。
 

COWCOW多田「住まないと意味ない」

国内と海外、ともに高い知名度を誇る芸人もいる。例えば、インドネシアで大人気になった芸人コンビがCOWCOWだ。

2009年に始まったソフトバンク主催の「S-1バトル」など、VTR用のネタを作る流れの中で、2011年に「あたりまえ体操」を発表、子どもたちを中心に虜にした。2013年にはインドネシア語版が現地で大ヒット。2015年にはインドネシア、タイ、マレーシアでアジアツアーを開催している。

今夏、筆者が「週刊プレイボーイ38号」(集英社)のインタビューの中で「その後、なぜタイやインドネシアで公演しなかった?」と尋ねたところ、多田健二からこんな答えが返ってきた。

「僕、たまたまインドネシア大統領のジョコ・ウィドドさんに顔が似てて、それもすごいウケたんです。最初はそれでいいと思うんですけど、言葉を覚えないとトークやネタに広がりが出ないじゃないですか。当時、“住みます芸人”が稼働し始めたのも見てるから、よけいに『住まないと意味ない』っていうのがあったんだと思います」

2021年には、COWCOWの楽曲「これができたらきっと、これもできる」がインドネシアの大手銀行のCMソングに採用されるなど、今も根強い人気がうかがえるだけに、説得力のある言葉だった。

実際、前述のザ・スリーはインドネシアに住み、徐々に現地の言葉を覚える中でブレークした。しかし、インドネシアではグループのうち1人が番組に呼ばれる傾向が強く、その後は見た目に愛嬌がありもっとも現地語の上達が早かった山口だけが、みるみるテレビスターへと駆け上がっていった。

さらには、現地で芸能事務所「MOP」を運営する大人気のコメディアン・司会者のルーベン・オンスから「うちの事務所に入れ」と誘いを受け、山口が吉本興業を離れることになり、2019年に解散。浦は翌年に帰国し、現在は広告関連の企業に勤務。濱田はインドネシア向けのYouTubeチャンネルを開設し、現地で知名度が高い日本人へのインタビュー動画が1000万回再生を記録するなど奮闘している。

当然だが、各国ごとに芸能界があり、そこでもふるいにかけられる。三者三様のザ・スリーの歩んだ道のりが、“海外進出のリアル”だと感じるのは筆者だけだろうか。

「アジア住みます芸人」の特徴として、なかなか日本で芽が出なかった若手芸人が志願して各国へと移り住んだ点が挙げられる。すでに国内で有名だった渡辺直美が「アメリカ進出」と注目されるのとはだいぶ温度差があるようにも思う。

このように、一口にお笑い芸人の海外進出と言っても、ターゲットとする国も違えば、企業や芸人によっても理想とする着地点は異なる。

現状では、すでに有名なタレントがさらなる栄誉を、伸び悩んだ芸人がブレークを求めて『ゴットタレント』に挑戦し、むしろ国内の番組を賑わす逆転現象を感じなくもない。

はっきりしているのは、海外進出を目指す芸人が、インフルエンサー的な手法で他国での知名度をキープしバランスを見て活動するのか、デーブ・スペクターやボビー・オロゴンのように“外国人タレント”として異国の地で人気者になるのかの違いだ。

また近年では、国内で一口にお笑い芸人と言っても、漫才師やコント師、テレビタレント、YouTuberと、どの分野に注力しているかでスタンスに違いを感じるように「海外で活躍するコメディアンか」どうかは、見る側の認識次第で変わってもくるだろう。

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