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源氏物語54帖、教科書で人気なのは? 67年分めくって確認したら

源氏物語図屛風の「若紫」に描かれた光る君(右)=2024年10月、京都府宇治市
源氏物語図屛風の「若紫」に描かれた光る君(右)=2024年10月、京都府宇治市 出典: 朝日新聞

目次

大河ドラマ「光る君へ」で話題の「源氏物語」、高校で学びましたか?「源氏物語」が掲載されている古典の教科書はどのぐらいあるのでしょうか。計667冊の教科書を一枚一枚めくって、それを明らかにしたデータがこの秋に公開されました。全54帖(巻)のうちの掲載が多い巻やその変遷も見えてきました。(朝日新聞デジタル企画報道部・篠健一郎)

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数カ月かけ667冊を確認

「源氏物語」は平安時代に紫式部が書いた長編小説。登場人物は200人以上おり、「桐壺」から「夢浮橋」までの全54帖で構成され、400字詰め原稿用紙に換算すると二千数百枚にもなる大長編です。

学校の教科書でもおなじみですが、実際はどの程度採り上げられてきたのでしょうか。

この問いに挑んだのが、東京学芸大学附属図書館(東京都小金井市)です。

東京学芸大は、教員を養成を担う大学として、多くの教科書をコレクションしています。その中から、戦後の1956年から2022年までの67年分の高校の古典分野の検定教科書667冊を対象としました。

司書と大学院生が手作業で、「源氏物語」が掲載されているかどうか1冊1冊を目視で確認。さらにどの巻が掲載されているのかを数カ月間かけて調べ上げました。

専門家の協力のもと、その膨大な情報を整理し、今年10月にオープンデータとしてウェブ上で公開しました。

源氏物語図屛風の「玉鬘」に描かれた光る君(右上)=2024年10月、京都府宇治市
源氏物語図屛風の「玉鬘」に描かれた光る君(右上)=2024年10月、京都府宇治市 出典: 朝日新聞

実は図書館では、事前に2000年以降の中学校の教科書も確認したそうです。

司書の瀬川結美さんは「中学校の教科書では、『竹取物語』や『枕草子』はしばしば扱われていましたが、『源氏物語』は扱われていませんでした」と高校の教科書を調査対象にした理由を説明します。

記者がデータを分析したところ、「源氏物語」が掲載されていた高校の教科書は、全体の3分の2にあたる443冊でした。教科書名自体が「源氏物語」というものもありました。

「源氏物語」が専門で、今回の調査の監修をした東京学芸大の斉藤昭子准教授は「『源氏物語』は文章としては難しいとされている。高校に入ってすぐ学ぶのではなく、仕上げの教材で、古典学習の最終到達点として位置付けられています」と話します。

「源氏物語」が掲載されていない教科書を見ると、鎌倉時代以降の中世や近世など時代別に編集され、「源氏物語」が書かれた時代とは別の時代だけを対象にした教科書が多かったとのこと。

「古典教科書においては、『源氏物語』は基本的に読むべきものとされてきたことがわかります」

「桐壺」「若紫」「須磨」で全体の4割

67年分の掲載数は計1943件でした。多かった帖(巻)でみると、トップ3は「桐壺」(318件)、「若紫」(254件)、「須磨」(199件)で、この3巻で全体の4割を占めました。

「桐壺」は最初の巻。斉藤さんは「物語の始まりを紹介するためにやはり外せません。冒頭を読むだけでも、伊勢物語や竹取物語との違いが伝わります」と指摘します。

5巻の「若紫」は、主人公の光源氏が後に妻となる少女(紫の上)を垣間見ている場面が使われているといいます。

斉藤さんは「物語を読み解くための鍵が埋め込まれている巻で、主なあらすじを構成する重要人物を説明できる。ただ、それを踏まえても、思っていたよりも多い印象です」と話します。

3位の「須磨」は、漢籍の引用も多く、その文章の美しさが特徴だとして、「須磨の美しい景色の描写と光源氏の心情が合わさる『景情一致』を味わわせたいという意図が見える」と言います。

数を減らした「夕顔」「帚木」「蛍」

掲載巻の推移をみると、トップ3の「桐壺」「若紫」「須磨」は60年以上継続的に載っていますが、2010年代はその三巻により集中していく様子がわかります。

一方、1950年代半ばにトップ3に並ぶ掲載数だった「夕顔」「帚木(ははきぎ)」や、1980年代までは一定数掲載されていた「蛍」はその後、数を減らしていきました。

時代の変遷によって、掲載巻の増減がみられることについて、斉藤さんはそもそも教科書に載せる上で下記のような2種類の編集方針があると指摘します。

①主なあらすじから離れたり、女性論や物語論などが描かれたりしたものも含めアンソロジー的に幅広く集める
②光源氏と紫の上の愛の物語といったように主なあらすじに沿ったテーマを集める

その上で、「①よりも②が増えています。結果として、あらすじに直結する『定番化』巻の採用が増え、あらすじから離れた巻を採用する『冒険』が減っているとも言えます」と分析します。

公開されたデータについて、斉藤さんは「教科書に掲載されてきた『源氏物語』は多様なテーマが蓄積され、様々な問いを立てて考察したり、紙面の図版をたのしんだりすることができます。教科書を作り上げるためのさまざまな工夫、豊かなアプローチがデータから非常によく浮かび上がっています」と言います。

「教科書掲載データは、『源氏物語』の学び方におけるアイデアの宝庫とも言えるのではないでしょうか」と話しています。

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