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お金と仕事

スマホリングが自助具に 当事者がくれた「さりげなく」の視点

諦めそうなときに浮かんだ「待ってくれている人」の顔

日本クロ-ジャーの「スマホリング+キャップオープナー」。キャップにはめたまま立てるとスマホスタンドにもなる
日本クロ-ジャーの「スマホリング+キャップオープナー」。キャップにはめたまま立てるとスマホスタンドにもなる

目次

ペットボトルのキャップなどを手がけるメーカーが「スマホリング」を制作しました。スマホスタンドとしても使えますが、実は本来の機能は「別にある」とのこと。困っている人の力になりたいと開発された経緯を取材しました。

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キャップメーカーが作ったスマホリング

@withnews 記事は明日22日の朝、withnewsで配信! withnewsで🔍 #スマホ #スマホリング #自助グループ #障害 #病気 #ペットボトル#ペットボトル ♬ Take me (feat. reina) - voquote Remix - Snowk & voquote

スマホスタンドとしても使える「スマホリング」を今年から売り出したのは、飲料や調味料、生活雑貨などのキャップを手がける業界大手の「日本クロージャー」です。多くの飲料・調味料メーカーなどとの取引があります。
なぜ「キャップ」の企業がスマホリングを販売しはじめたのでしょうか?

スマホリングというと、スマホの背面に粘着テープなどで取り付け、スマホを片手で持つ時に指を通して安定させたり、スマホスタンドとして使ったりできるものです。

しかし同社のスマホリングは、中心部分がペットボトルキャップにぴったりとはまる設計になっている「キャップオープナー」の機能もそなえているのです。

キャップをはめてスマホごと回すと、少しの力でキャップを開けることができます。

手に障害があったり、高齢で筋力がなかったりする人にとって自助具の役割も果たせる製品です。商品名は分かりやすく「スマホリング+キャップオープナー」です。

アイデア出しに苦戦、特命組織の2人

このリングを開発したのは、営業推進部の大久保雄祐さんと、三野宏さん。二人は2021年4月、「既存事業の発展」というミッションのもと新たに発足した市場開発グループのメンバーとして集められました。といっても、当初はなかなかアイデアが出てこなかったそうです。発足から5カ月が経ったある日、二人の頭の中にふと浮かんだのは「開栓ジグ」(以下、ジグ)でした。

同社では、製品の性能を確かめるため、飲料を詰める作業を行う工場で一日に何百本とキャップを開ける作業をすることがあります。その際、手のひらに収まるくらいの大きさの円形の金属「ジグ」を使います。中央に開いた丸い穴にキャップをはめ、時計回りに回すと、少しの力でキャップを開けられる道具です。 このジグ、持ったときの大きさがスマホとほぼ同じだといいます。
三野さんは「これ、なんか面白いんじゃないか」と想像を巡らせ、「スマホにジグがついていたら、楽に開けられる。スマホリングにできないか」と、商品案にたどり着きました。

営業推進部の三野宏さん(左)と大久保雄祐さん
営業推進部の三野宏さん(左)と大久保雄祐さん

リウマチ患者にインタビュー「買いたい」

商品化に向けては、最初に類似の商品がないか調べることから始めました。

インターネットで調べると、類似商品はなく特許出願も可能とわかりました。さらに、複雑な形状ではないため、新たな技術を投入する必要がないこともメリットに感じたといいます。

次に行ったのは「ニーズ調査」。本当に求めているユーザーがいるかを確かめるため、リウマチ患者の方と別商品案のヒアリング中に、余談としてスマホリング案を提示してみたそうです。

すると、本題以上に反応があり、「製品があったら買いたい」とまで言ってくれたことに背中を押されたといいます。

三野さんは、「その方は『さりげなく開けられるのがいい』と言ってくれました。その『さりげなく』が大事なんだなと感じました」と振り返ります。

商品の価値、障害のある人たちが認めてくれた

その後も握力に不安があったり、手に障害があったりする人たち数十人にインタビューを重ねる中でも、「さりげなく」というキーワードは何度となく聞いたそうです。

話を聞いた人たちは、もともと自助具としてキャップオープナーを持ち歩いている人がほとんどでした。

新しく開発したオープナーの役割を備えるスマホリングは、「キャップオープナーを別に持つ必要がない」という点が評価されたそうです。

さらに、三野さんは「自助具を取り出して使うことで『できない人』と思われることを嫌だと感じる、という方が結構な数いました」と振り返ります。

「『さりげなく使える』という視点は、我々だけの打ち合わせでは絶対に出てきません。この商品の価値を、実際に必要とする方々が認めてくれたんだと思いました」と、二人は声をそろえます。

キャップにつけた状態で立てると、スマホスタンドにもなります
キャップにつけた状態で立てると、スマホスタンドにもなります

「やめます」と言ったら世に出せない

当事者へのインタビューは社内プレゼンでも大きな支えになったといいます。

それまでは「どうやってこれでもうけるのか」「どうせ安価でしか売れない」と商品化に難色を示していた社員たちも、当事者の声を伝えると「これは良い商品なんだ」と理解し、「初めて仲間になってくれた」と感じたそう。

さらに、「我々にとって当事者の方々の声が支えになったんです」と大久保さんは言います。

「僕らが『やめます』と言ったら、この商品は世の中に出せなかった。諦めそうなときに、この商品を待ってくれてる人たちの顔が本当に浮かんできたんですよね。それで、やらなきゃだめだねってなれたんです」

三野さんも「『買う』って言ってもらった以上、出さなきゃいけないという気持ちになりました」と話します。

いつもは「当たり前」の仕事だったのが

日本クロ-ジャーは、企業同士の取引をメインとする、いわゆるBtoBのメーカーで、一般消費者との接点は限られています。ただ、今回の商品の開発で、生活者の具体的な顔が見える仕事ができたと二人は振り返ります。

大久保さんは、「メインの商品の『キャップ』は、あって当たり前、中身が漏れなくて当たり前。既存事業ではなかなか『助かった』『うれしかった』といった声を聞くことができなかったんです」と話します。

「でも、このスマホリングでは困っている当事者の方が感動してくれたんです」と、やりがいを熱く語ります。

そして今年6月、無事商品化にこぎ着けました。

展示会に出展、利用者の顔が見えた

この商品は、9月に行われた国際福祉機器展(H.C.R.)で出展し、実際に疾患を抱えた来場者などおよそ160人が購入したといいます。

その中には、現状の手帳型のスマホケースから、スマホリングを使うためのケースに買い替えると言ってくれた人、説明だけ聞いて一度その場を離れたものの「やっぱりほしい」と戻ってきてくれた人もいました。

スマホリング+キャップオープナーは、一般社団法人日本難病・疾病団体協議会(JPA)のECサイトをはじめ、ネット通販の楽天市場などで購入できます。今後、より多くの利用者に届けられるよう、販路拡大に向けて調整を進めているそうです。

営業推進部の三野宏さん(左)と大久保雄祐さん
営業推進部の三野宏さん(左)と大久保雄祐さん

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