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源氏物語54帖すべてをガラス作品に…平安文学は今もイメージの源泉
紫式部を主人公とした大河ドラマ「光る君へ」もいよいよクライマックス。そんななか、都内の美術館では平安文学をテーマにした展覧会が開かれています。なかでも目を引くのは、『源氏物語』の帖をテーマにした現代アートのガラス作品。作家は「生きているうちに54帖をモチーフにした作品をつくりたい」と語っています。(withnews編集部・水野梓)
漢詩や和歌、物語に日記など、さまざまな文学作品が誕生した平安時代。
その魅力を知ってもらおうと「静嘉堂文庫美術館」(東京都千代田区丸の内)では、「平安文学、いとをかし―国宝『源氏物語関屋澪標図屏風』と王朝美のあゆみ」が2025年1月13日まで開かれています。
国宝である俵屋宗達の「源氏物語関屋澪標図屏風」や、藤原公任の『和漢朗詠集』を書写した作品で国宝の「倭漢朗詠抄 太田切」が公開されているほか、土佐光起(みつおき)が江戸時代に描いた「紫式部図」が初公開されています。
また、1000年前の文学作品と現代美術とのつながりを表現しようと、『源氏物語』をテーマに截金(きりかね)ガラス作品をつくり続けている山本茜さんの作品2点も展示されました。
1977年生まれの山本さんは14歳のころ、学校の授業で『源氏物語』に出会いました。
「1000年前に、こんなに優美で繊細な文化があったのか」と電流が走ったような気持ちになり、ことあるごとに読み返し、学生時代は『源氏物語』を絵巻にする制作もしていたそうです。
仏像や仏画の装飾に使われる伝統技法「截金」は、とても薄い金銀箔を重ね合わせて、文様を描く手法です。
これに魅力を感じた山本さんは、1999年から独学で始め、翌年から重要無形文化財「截金」保持者の江里佐代子さんから教えを受けます。
「装飾でなく、表現の主体にするために、空間に浮遊させたい」と考えた山本さんは、ガラスのなかに截金を封じ込める技法を編み出しました。
展覧会の内覧会であいさつした山本さんは「『源氏物語』の54帖すべてをモチーフにしたデザインが天から降ってきました。慌ててスケッチブックに描き、それをひとつずつ作品にすることをライフワークにしています」と語りました。
\★新着映像公開★/
— 静嘉堂文庫美術館 (@seikadomuseum) November 14, 2024
山本茜独自の技法、截金ガラスを制作する様子を貴重な映像でご紹介!
截金をガラスに閉じ込めることで、浮遊感のある唯一無二の作品を制作している作家、#山本茜 。
見ているだけで緊張感あふれる、丁寧で美しい制作風景を是非ご覧ください。#平安文学いとをかし pic.twitter.com/VLirCvQCMF
作品のガラスは、気泡が入っていないガラスを集めて、ふたたびとかし、研磨作業をするところから最後まですべて一人で担います。
截金に使う金箔も自身で制作し、筆で1本1本、1枚1枚、ガラスの上に貼りつけていきます。
気の遠くなるような作業のようすは、展覧会の作業風景の動画で紹介されています。
今回、展示されている<第三帖「空蟬」><第四十五帖「橋姫」>は、それぞれ完成まで3年、2年半かかっているそうです。
現代のいまもアーティストにイメージを与える源泉となっている平安文学。
展覧会の学芸員は、「『源氏物語』は絵巻物などが連綿と作られ続けていて、山本先生に至るまで、現在もインスピレーションを与えています」と指摘します。
現在、54帖のうち22帖を制作したという山本さんは、「『源氏物語』に導かれて、ここまできた人生。54帖すべてを制作したいので、工房に引きこもって、全身全霊をかけ、出家するつもりでつくりあげようと思っています」と語ります。
「土佐光起の紫式部図と同じ空間に自分の作品が展示されるなんて夢のよう。『私の作品はどうですか』と伺いたい気持ちです。14歳の私に、『こんなに素敵な美術館と企画で展示してもらえるすばらしい機会があるよ』と伝えたいです」と話していました。
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