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芸人しながら看護師の夜勤 患者さんへ意識した「返し」、番組で実る
お笑いコンビ「太陽の小町」つるさん
ライブやオーディションなど、何かと忙しい毎日を送っている芸人さん。なかには、資格が必要なバイトをしている人もいます。男女コンビ「太陽の小町」のつるさんは看護師の資格を持ち、夜間バイトを10年続けています。芸人であることが患者さんとのコミュニケーションに一役買っているといいます。(ライター・安倍季実子)
「学生時代によく行っていたお笑いライブで、若手の芸人さんが『バイトの時給が安くて生活が大変』と話していたので、下積み時代は時給が高めのバイトをして乗り切ろうと思い、看護師を選びました」
そう話すのは、男女コンビ「太陽の小町」のつるさん。幼い頃からドラマや映画が大好きで、コメディ俳優を目指していたそうです。
看護師専門学校を卒業後、1年間だけ看護師の正社員として働き、翌年の2009年にNSC大阪女性タレントコースに入学しました。
タレントコースからお笑いへ路線変更し、卒業後はピン芸人として活動しはじめ、2014年に安田一平さんと「太陽の小町」を結成しました。
2015年に上京後、看護師資格を持つ知り合いの芸人に紹介された病院で、夜勤バイトをはじめました。バイト歴は今年で10年目になります。
点滴管理や採血・内服薬の管理、食事の介助にオムツ交換など仕事はさまざまです。
「忙しさは日によってバラバラで、凪のように静かで何もない日もあれば、緊急で入院患者を受け入れた途端に、ほかの入院患者さんが興奮して騒ぎ出すこともあって、バタバタ過ごす日もあります」
月に10日出勤のシフト制で、勤務時間は休憩を含む16時半~翌朝の9時まで。翌月のライブのスケジュールが決まってからシフト希望を出すので、芸人活動と両立しやすいそう。
「シフト制のバイトは、急なオーディションや仕事が入ったら休まないといけないので、芸人からは避けられがちですよね。今のバイト先は、急な休みにも対応できる体制を組まれています。それに、撮影などが入ったとしても16時半に間に合えばいいので、マネージャーさんにも相談して、双方で調節してもらっています」
患者の命にかかわる仕事なので、バイト中は余計なことは考えず、無駄のないようテキパキと働きます。
「決められたことを時間内に終わらせるように、段取りを組んで取り組むのが好きなんです。昔は手の空いた時間にネタ作りをしようと思ったこともありましたが、いつ何が起こるのかわからない仕事なので、バイト中にネタ作りを持ち込むのは諦めました。でも、そう割りきったことで、仕事以外の時間にネタ作りに集中できるようになりました」
夜間は看護師3人体制で、約30人の入院患者のお世話をしています。そのほとんどが70歳以上の高齢者で、バイト中に芸人気質が生きていると感じることが多々あるといいます。
「けっこう口の悪い人が多いんです(苦笑)。高齢になると感情の起伏も激しくなるので、自分の思い通りにいかなかったときに暴言を吐かれることもありますし、嫌味を言われることもあります(苦笑)」
そんなシーンでも、芸人として活動するつるさんは、「いかにこの場を面白おかしく乗り切れるか」を考えるそうです。
「どんな時でも、つい笑ってしまうような返しをしようと意識しています。そもそも関西人なので、キツイ冗談には同じレベルの冗談を返すことが当たり前という環境で生きてきたというのもあると思います(笑)」
一方で、「ごくまれに、患者さんに冗談が通じなくて怒らせてしまうことがあるので、その時は反省します」と苦笑します。
そんな「返し」を意識してきたことが、ひとつの大きな仕事につながりました。それが、深夜のバラエティ番組『キョコロヒー』(テレビ朝日)内の「いじわる選手権」です。
視聴者から寄せられた、誰かに言われたいじわるに返す「いじわるフレーズ」を考える企画で、毎回つるさんのピリリとした回答が光ります。
このコーナーが生まれたきっかけは、ルームシェアをしているヒコロヒーさんとの何気ない会話でした。
「ある日の夜、いつものように過ごしていたら『今日、こんないじわるなことを言われた』とヒコロヒーが話してきたので、そこはちゃんと返さなアカンやろうということで、即興でいじわるを返すやりとりをしたんです。ヒコロヒー的に、その時の私のいじわる返しが良かったみたいで、番組内のいちコーナーに採用してもらえました」
自分では気づかなかった意外な特技が見つかり、さらに、たくさんの人に楽しんでもらい、「ヒコロヒーには感謝してもしきれない」といいます。
「とてもありがたいですし、次は自分たちの力で何とかする番だという気持ちになれました。漫才師なので、やっぱりネタを見てほしいんです」
本来は、夢がコロコロ変わりやすいタイプだというつるさん。今は漫才をやりたいと話します。
「お芝居をやったり、本を書いたりすることにも興味はあるんですが、今は漫才中にお客さんが笑ってるのを見る時が一番楽しいです。それに、この10年一緒にやってきた相方と、これからも変わらずにやっていきたいです」
現在は、月に10本前後のライブに出演している太陽の小町。今後の賞レースやオーディションに向けて、自分たちにしかできない漫才を見つけるため、試行錯誤を繰り返しています。
「今までは『男女コンビ』を意識したネタを作ることが多かったのですが、賞レースでの結果が振るわなかったのもあって、いろいろと悩んだ時期がありました。コンビで話し合った結果、性別は関係なく、それぞれの個性が出ていて、それで面白かったらいいのではないかと。それからは、お互いがボケ・ツッコミを言い合えるネタ作りを意識するようになりました」
つるさんのもうひとつのテーマは、自分らしさを出すことです。
「私はしっかり者とか真面目という風に見られがちなのですが、実際はそうでもありません(苦笑)。今後は、本当の私らしさを出していって、それが太陽の小町らしいネタに生きればいいなと思います」
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