SNSで著名人のなりすましアカウントによる偽広告が問題になる中、「『パパ活』で犯罪者に?」との広告を配信していた、“東京都庁”を名乗るInstagramアカウントがありました。怪しい点が複数ありましたが、東京都に取材すると、これは本物。取材後、アカウントの内容が変更されました。識者は「本物でも情報発信の質が低いと、なりすましと見分けがつかなくなる」と指摘します。(デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
“東京都庁”と名乗る、ID@tokyotocyouのInstagramアカウント。東京都庁戦略広報課アカウント(@tocho_koho_official)のような公式マーク(認証バッジ)はなく、“都庁”のローマ字表記も一般的な“tocho”ではなく、“tocyou”です。
投稿数は0、フォロワー数も前述の東京都庁戦略広報課アカウントの1.8万人と比べ、73と少なくなっていました(10月23日時点)。プロフィールには「本アカウントは広告専用でございます」との断り書きがありました。このアカウントは東京都公式SNS一覧のページには記載されていません。
このアカウントが配信していたのが、『「パパ活」で犯罪者に?』という広告。悲しげな表情の中年男性のイラストと『「パパ活」で犯罪者に?』という文言、そして“詳しくはこちら”というテキストリンク(URLの詳細がクリックするまでわからないテキストのみのリンク)が貼られた簡素なものでした。
SNSでなりすましアカウントによる偽広告がはびこる中、10月末には有名人をかたるSNSの偽広告を巡り、InstagramやFacebookを運営するメタ社が全国の5地裁で一斉提訴されています。
行政も被害に遭っており、2月には東京都が「東京都交通局を装った偽メッセージについて」として、なりすましアカウントへの注意喚起をしていました。このときは「不審なメッセージを受け取った場合は、URLをクリックしたり、添付ファイルを開封したり、返信もしないようお願いいたします」と呼びかけていました。
国民生活センターによれば、SNS上で著名人などになりすました偽広告をきっかけとした消費者トラブルは急増しており、今年5月、2023年度の相談件数が1629件となり、前年度から約9.6倍に急増したと発表しています。
センターは偽広告かどうかのチェックポイントとして、「サイトのURLの表記が、ブランドの正式な英語表記と少しだけ異なる」「日本語の字体、文章表現がおかしい」ことなどを挙げます。
なりすましアカウントや偽広告の被害に遭わないようチェックポイントを参照するほど、「パパ活」にまつわる広告を出したアカウントは怪しく思われます。本当に東京都のものなのか、都を取材しました。
都庁内でいくつかの部署に確認してもらうと、このアカウントはなりすましではなく、生活文化スポーツ局が運用するものであることがわかりました。同担当者によると、都ではSNSに起因する青少年の性被害防止のため、2021年度からインターネット広告を実施しており、このアカウントはそのために作成・運用されていたものとのこと。
前述のテキストリンクをクリックすると、都が運営する「STOP! 青少年のSNS性被害」というサイトに移動します。近年、SNSの不適切な利用による青少年の性被害などが深刻化していることを背景に、その対策として、危険性の啓発や危険な行動の抑止を目的としたサイトです。
「SNSに起因する青少年の性被害防止のための広告であり、 一般に都民に対して広く拡散させる必要がある東京都公式SNSアカウントとは別にしております。なお、広告専用のアカウントの管理は各事業所管で判断することとなっており、統一的な広告専用アカウントのルールはありません」
実際、都のDXを推進するデジタルサービス局も、公表している行動指針において、「東京都におけるデジタルサービスは各局がバラバラに開発・運用しており、目指すべきサービス水準や品質管理が一定ではない」と明記しています。
東京都公式SNS一覧に掲載されていない理由については、「『東京都SNS公式アカウント運用指針』の対象は『各局等が広報を目的として作成したアカウント』であり、広告アカウントは対象外となっています」と説明します。
では、なぜ“tokyotocyou”という、一般的ではない表記だったのでしょうか。これについては「受託事業者においてアカウントを作成しています」とした上で、「ご指摘を踏まえて分かり易いものに変更しました」と回答。11月7日時点で、アカウント名は「東京都庁都民安全課」に、IDは@tokyo_toan_officialに変更されていました。
広告内容は「第32期青少年問題協議会(専門部会)答申を踏まえ」たもので、「2021年8月からターゲティング広告を実施しており、広告素材については、この時に制作したものを継続して活用しています」といいます。
ターゲティング広告とは、ネット上の書き込みや検索のキーワードなどに応じて配信される広告のことです。
どのようなSNSユーザーにこの広告を配信していたのか確認すると、「『地域、年齢およびキーワード・興味関心分野』 と連動したウェブ広告となるよう、年度ごとに設定しています」と説明。ただし、「具体的なキーワード等についてはお答えを差し控えます」ということでした。
だまされまいとするほど、疑わしく思えてしまう、“本物”の広告。ネット上の偽情報や広告の問題に詳しい桜美林大学教授(リベラルアーツ学群)の平和博さんは、このアカウントや広告の内容について「わかりやすさの点で、行政の発信する情報として質が高いとは言えない」ため「現在の情報環境の中で、本物なのかなりすましなのかの区別がつかない状態になっている」と指摘します。
その上で、「都民サービスとしての品質管理には全庁的に取り組むべき」と指摘。「目指すべきサービス水準や品質管理が一定ではない」と明記した前述のデジタルサービス局の行動指針は「半ば開き直りのようにも感じられる」といいます。
なりすましアカウントによる偽広告が問題になる中、広告主側も「わかりやすく、誤解されず、信頼される情報発信」が必要だとします。
「どこがどういう趣旨で出稿している広告なのか、行政として、誰が見ても一目でわかる形で行うのが望ましいのでは。サービスとしての設計を一度、しっかり見直すべきではないでしょうか」
ただし、この問題への対策の前提として、「利用者側のリテラシーに頼るのではなく、そもそも疑わしい広告がはびこる現状を、InstagramやFacebookのようなプラットフォーム側が是正することも重要」としました。
「今後、生成AIなどのテクノロジーがさらに発展すれば、一般ユーザーが情報を見極めるハードルはさらに高くなります。なりすましアカウントや偽広告については総務省の検討会でも議題になっており、プラットフォームにはその責任を果たすことがさらに求められるのではないでしょうか」