MENU CLOSE

連載

#61 イーハトーブの空を見上げて

空を翔けるような「介添奉行」流鏑馬の迫力 盛岡八幡宮、秋の例大祭

手放しで馬に乗って駆け抜ける介添奉行
手放しで馬に乗って駆け抜ける介添奉行
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。
【PR】指点字と手話で研究者をサポート 学術通訳の「やりがい」とは?
イーハトーブの空を見上げて

週に1度はおみくじを…

自宅のアパートがすぐ近くにあるため、盛岡八幡宮には毎日のように足を運ぶ。

市民の多くがそうしているように、大鳥居の前でお辞儀をし、境内を進んで石段を登り、拝殿でお賽銭を入れてから、お祈りをする。

週に1度はおみくじを引く。

拝殿前にはひょうたんがつるされ、境内に置かれている狛犬らしき石像もどこか可愛い。

荘厳な山車を引き、街を練り歩く

普段は木々に囲まれ、鳥のさえずりが聞こえる静かな境内が、年に数度、多くの参拝客で賑わう。

その最大の催しが、秋の例大祭(盛岡秋まつり)だろう。

毎年9月14日、法被姿の老若男女が荘厳な山車を引き、笛やカネを奏でながら、盛岡八幡宮周辺の商店街や住宅地などを練り歩く。

1709年9月14日、南部藩の街づくりが完成したのを祝い、若者が趣向をこらした丁印(自治的組織の標識)などを盛岡八幡宮に奉納して、目抜き通りを練り歩いたのが始まりだ。

翌15日は、子どもたちの健やかな成長を願う「お稚児さん参り」。

きらびやかな衣装を身にまとった子どもたちが、八幡宮前の商店街を親に連れられて行進する。

扇をかざし、射手を追走する介添奉行

翌々日の16日は、馬上から矢を放つ勇猛な「流鏑馬」(やぶさめ)だ。

盛岡八幡宮の流鏑馬は、鎌倉時代に南部家によって伝えられたものとされ、特徴の一つが「介添(かいぞえ)奉行」の存在だ。

射手が馬上から的を射抜き、詰めかけた市民から大きな拍手が上がった直後、手放しで馬に乗った介添奉行が日の丸の扇をかざしながら射手を追走し、「よういたりや~」と褒めたたえる。

見ていた地元の男子中学生は「馬上で弓を操る射手もかっこいいけど、手放しで馬に乗り、高速で空を飛ぶように馬場を駆け抜ける介添奉行も超かっこいい」と興奮気味だ。

小正月には伝統の「裸参り」も

短い秋が過ぎ、雪がちらつき始めると、初詣に向けた準備が始まる。

小正月の15日には、伝統の「裸参り」。

気温零下の夕暮れの境内を、地元の消防団員らが無病息災などを祈り、上半身裸で腰に縄を巻き、白い紙を口にくわえながらお参りする。

終了後、参加者も取材者も、みんなで震えながら温かい甘酒をすする。

受験シーズンには合格祈願。春の結婚式に秋の七五三。

私は地域の神社やお寺が好きだ。

そこには街の歴史と、人々の暮らしへの祈りが刻まれている。

三浦英之:2000年に朝日新聞に入社後、宮城・南三陸駐在や福島・南相馬支局員として東日本大震災の取材を続ける。
書籍『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』で開高健ノンフィクション賞、『牙 アフリカゾウの「密猟組織」を追って』で小学館ノンフィクション大賞、『太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密』で山本美香記念国際ジャーナリスト賞と新潮ドキュメント賞を受賞。
withnewsの連載「帰れない村(https://withnews.jp/articles/series/90/1)」 では2021 LINEジャーナリズム賞を受賞した
 

「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。

連載 イーハトーブの空を見上げて

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます