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「これだけは知っておいて」インドネシア人が後輩に伝えた日本の現実

「日本に来たセンパイが伝えたい一番だいじなこと」来日8年目インドネシア人デデさんの場合
「日本に来たセンパイが伝えたい一番だいじなこと」来日8年目インドネシア人デデさんの場合 出典: withnewsYouTubeより

目次

日本で暮らす外国人が増えています。慣れない言葉や文化、環境の中で日々、手探りして暮らしながら「気づいた」こと。来日したばかりの「後輩」たちに伝えたい「これだけは知っておいた方がいい」というアドバイスを聞いてみました。東京で介護福祉士として働くインドネシア人男性が挙げたのは、日本の住宅での「びっくり」と、「騒音問題」。そこには、異文化での切ない体験がありました。

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「〝現実〟の世界へようこそ!」

インドネシアから来た男性は、デデ・ジュネディさん(29歳)。2017年に来日して、都内の特別養護老人ホーム(特養)で働いています。同じく来日したインドネシア人の妻、ギナ・レスタリアさんも介護福祉士で、2人で働きながら日本で生まれた2歳の息子・キナン君を育てています。

日本生活、8年目。

この経験をもとに、先月、インドネシアから来日したばかりの「後輩」たちの前で話をしました。タイトルは「〝現実〟の世界へようこそ! 日本生活で気をつけること」。

後輩たちは、これから日本の介護施設で働くタマゴたちで、東京で研修を受けている最中ですが、「日本生活に夢を持っている皆さんに、これから待ち構える〝現実〟について教えたい」と語り始めました。

デデさんが約3時間にわたって話したのは、働きながら介護福祉士の国家試験の勉強をする大変さや、職場での人付き合いのコツ、イスラムの戒律に合わせて食事を探す難しさなどなど盛りだくさんの内容。

その中で、特に筆者が意外に思ったのが、「住環境」の話でした。

来日したばかりの後輩たちに日本での経験を話すデデさん
来日したばかりの後輩たちに日本での経験を話すデデさん

デデさんはインドネシア語で語ります。

「いいですか、みなさん。これから住む日本の住宅ですが、壁は、思っているよりも、薄いですよ。少し大きな声で話すと、隣の人に丸聞こえになります。気をつけてください」

「後輩」たちは、衝撃を受けて、ざわつきます。

デデさんは、「騒音問題(そうおんもんだい)」と日本語を交えつつ、隣人トラブルにもなると注意を呼びかけ、「恥ずかしながら、私も警察を呼ばれたことがあります」と明かしました。

「セメントじゃない!」

何がインドネシアと違うのか、後日、デデさんに詳しく聞いてみました。

「あれは日本で働き始めて、すぐのことでした」。デデさんは初めて暮らす日本の木造アパートで、「隣人の話す声が聞こえてきて、びっくりした」と振り返ります。

壁を見ると、どうも、インドネシアと造りが違うことに気づきました。インドネシアの住居の壁は、レンガを積み上げて、その表面を、セメントに砂などを混ぜたもので塗り固めています。それに比べると、日本の木造の壁は「薄い」のです。

それでも、隣近所から聞こえる音は、デデさんにとっては気になるものではありませんでした。

インドネシアでは、家の前の路地で、昼夜問わず「タフタフ~(豆腐豆腐)!」と叫ぶ豆腐売りや、鍋を打ち鳴らす屋台が行き交います。井戸端会議をするご近所さんの笑い声が響いています。

「故郷では、家の中にいてもいつも誰かの声が聞こえてきて、他人の生活を感じるのが当たり前でしたから」

「薄い壁」よりも驚いた「静寂」

そんな国から来たからこそ、「薄い壁」よりも、デデさんをひどく悩ませたのは「孤独感」でした。

都内の住宅街に暮らしているのに、「少し暗くなると、何の声も音もしないでしょ。道も、人がほとんど通らない。とてもとても静か」。

仕事から帰ってきて、静まりかえるアパートで妻とふたりきり。

寂しさが募る中、救いになったのが同郷の先輩や友達と集まることでした。「インドネシアでは何も行事がなくても、人と集まるのが文化。忙しくても、人づきあいが最優先で、『ワジブ・クンプル(義務として集まれ)』って言われてきました」

それぞれの家に順番に集まり、デデさん宅の番。その日は10人ほどが集まり、一緒にご飯を食べ、近況報告や仕事の相談をしながら、楽しい時間を過ごしていました。

突然、チャイムが響きます。

来たのは警察官でした。「苦情が来ています」。事情を聞かれ、パスポートを調べられ、不安な思いをしたデデさん。「つい声が大きくなってしまったんですよね」と、当時を反省します。

それから、友人たちと集まる機会は減っていき、今ではほとんどなくなったそうです。

「みんなもそれぞれ忙しいですから。集まるのも面倒になってしまって」。そう話すデデさんを見て、「日本」になじむ中で「人づきあいが最優先」と語っていた「インドネシア文化」はもう薄れてしまったような気がして、筆者は寂しさを感じました。

研修を受ける介護福祉士候補生たち(後ろ)を激励する先輩たち(前列)。これから日本各地に暮らし、介護施設で働く
研修を受ける介護福祉士候補生たち(後ろ)を激励する先輩たち(前列)。これから日本各地に暮らし、介護施設で働く

「日本が合う」人

インドネシアの人びとの間では、「日本は、内向的な人には合う国」と言われているそうです。

もともと「プライバシーがほしい派」だというデデさんも、日本の暮らしに順応していっており、これからも長く日本で暮らしたいと望んでいます。

理由の一つに挙げたのは「子育てのしやすさ」。社会保障制度が整い、予防接種など医療も経済状況による格差がなく受けられることの素晴らしさを語ります。

社会保障制度が発展途中のインドネシアでは、濃厚な人づきあいを通し、互いの暮らしを支えあっていました。それは「助け合わないと生きていけなかったから」。その反面で「おせっかいが過ぎる」ため、「関係のない人が子育てにアドバイスしてきたりして、わずらわしくもあるんですよね」とデデさん。

直面した「現実」

今、デデさんは、介護福祉士として、その「整った」日本の社会保障制度の一端を担っています。

デデさんは日本とインドネシア政府が結んだ「経済連携協定(EPA)」という枠組みで来日した人の1人。2008年の枠組み開始以来、日本にはインドネシア人だけで4259人が、介護や看護を担う人材として、デデさんと同じように来日しています。

デデさんは来日前にインドネシアで看護学校を卒業し、訪問看護で高齢者のお世話をする仕事もしており、日本の「介護」の大変さは知っているつもりでした。

それでも、やはり「現実」は厳しかったと言います。仕事も残業も予想以上に多かったのです。

「どこでも介護業界は人材不足ですから」

筆者はインドネシア語が理解できるので、インタビューの大半を母国語のインドネシア語で答えていたデデさん。しかし、この言葉はとても流暢な日本語で語ったことの一つでした。

家族3人で日本で暮らすデデさん
家族3人で日本で暮らすデデさん 出典: デデさん提供

守りたいこと

日本に来たばかりの「後輩」たちを先輩が助ける、週1回のオンライン勉強会では、後輩たちからこんな質問が寄せられます。

「介護福祉士の教科書に載っていることで、現場では実践できないことがあります。どうしたらいいですか?」

たとえば「食事介助」は「ゆっくり」と「飲み込みを確認して」というのが介護のセオリー。けれど、人手が足りない現場では1人で5人~10人もの介助を担うこともあり、「そんなに丁寧にしていられない」という悲痛な叫びでした。

デデさんは来日から4年後、日本の国家試験に合格して、正式な介護福祉士になりました。いまでは、多忙な介助の傍らで、施設の「事故防止委員会」に参加して、職員向けの研修を企画したり、利用者向けの「敬老会」や「ハロウィン」などのイベントも計画したりしているそうです。

「認知症になった人の『権利擁護』。権利を守らないといけない」
「1人の人間として尊厳を持って接すること」

デデさんがインタビューで流暢な日本語で口にする言葉の端々に、人手が足りない〝現実の世界〟で、日本の介護福祉士として守りたいことへの意思の強さを感じました。

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