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ドバイの建物なぜ奇抜?「世界で最も美しい博物館」デザイナーに聞く

「世界で最も美しい博物館」の一つに選ばれたドバイの「未来博物館」。そのデザイナーに話を聞いた。
「世界で最も美しい博物館」の一つに選ばれたドバイの「未来博物館」。そのデザイナーに話を聞いた。 出典: 写真提供:ドバイ経済観光庁

目次

とにかく高層だったり、華美な外観だったり――そんなイメージのあるアラブ首長国連邦・ドバイの建物。その理由をナショナル・ジオグラフィック誌で「世界で最も美しい博物館」の一つに選ばれたドバイの「未来博物館」のデザイナーに聞くと、ドバイ首長国の成り立ちや目指すところと意外な関係があることがわかりました。(ライター・我妻弘祟)
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ドバイの街を実際に歩くと…

世界最大級の人工島「パーム・ジュメイラ」。(写真提供:ドバイ経済観光庁)
世界最大級の人工島「パーム・ジュメイラ」。(写真提供:ドバイ経済観光庁)
ドバイって、奇抜でユニークなデザインの建物が多い、というイメージがありませんか?

例えば、映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の舞台となった、高さ828メートルを誇る世界一の高層建築物「ブルジュ・ハリファ」や、放射状に広がる世界最大級の人工島「パーム・ジュメイラ」。どう考えても、クセが強すぎる。

筆者は昨年10月にドバイを訪問。実際、街を歩くと、「ナニコレ!?」とつっこまずにはいられない建物が多く、目を丸くした。

2018年にオープンした「ドバイフレーム」は、高さ150メートル、幅93メートルの巨大な額縁型の建物だし、2022年にオープンした「未来博物館」は、7階建ての楕円形の建物で、中央に大きな空洞がある。

外壁には、アラビア文字が窓としてあしらわれ、いやおうなしに脳裏へと焼き付くインパクトを誇る。想像している以上に、あちこちにユニークなデザインの建物があるのである。
「ドバイフレーム」。最上階までエレベーターで行くことができ、街を一望できる。(写真提供:ドバイ経済観光庁)
「ドバイフレーム」。最上階までエレベーターで行くことができ、街を一望できる。(写真提供:ドバイ経済観光庁)
なぜドバイには、次々とユニークな建物が生まれるのか? 帰国後も気になって仕方がなかった。

そこで、いくつかの疑問をドバイ経済観光庁にぶつけてみると、なんと「未来博物館」を手がけた設計会社「キラデザイン」へとつなげてくれることに! 創始者であるショーン・キラ・バイオさんは、2017年、2021年、2022年に、「最も影響力のある中東の建築家」に選ばれるなど、国際的な受賞歴を多数持つ建築家だ。
 
2015年にドバイで設立された「キラデザイン」創設者のショーン・キラ・バイオさん。ENRニュースメーカー賞、ホルシム・グローバル・サステナブル建設賞などの受賞歴を誇る。『未来博物館』のほか、『バーレーン・ワールド・トレード・センター』(風力発電機を建物に大規模に統合した世界初のプロジェクト)、『オフィス・オブ・ザ・フューチャー』(世界初の居住型3Dプリント建物)などのプロジェクトにも取り組んできた。(写真提供:キラデザイン)
2015年にドバイで設立された「キラデザイン」創設者のショーン・キラ・バイオさん。ENRニュースメーカー賞、ホルシム・グローバル・サステナブル建設賞などの受賞歴を誇る。『未来博物館』のほか、『バーレーン・ワールド・トレード・センター』(風力発電機を建物に大規模に統合した世界初のプロジェクト)、『オフィス・オブ・ザ・フューチャー』(世界初の居住型3Dプリント建物)などのプロジェクトにも取り組んできた。(写真提供:キラデザイン)
そんなビッグネームに話を聞けるとは思っていなかっただけに、ここぞとばかりに疑問を投げてみると、バイオさんはそのすべてに真摯に回答してくれた。

「ドバイの建物がユニークなデザインとして知られているのは、過去数十年にわたる一連の画期的なプロジェクトによるものです。25年前、世界初の自称7つ星ホテルである『ブルジュ・アル・アラブ』が人工島に建設されたことから始まりました。この象徴的な建物は、ドバイが世界的な場所になるという初期の野心を象徴しています」(バイオさん、以下同)
 
「5つ星」の最高級ホテルだが、自称、または世間では「7つ星ホテル」と呼称される「ブルジュ・アル・アラブ」。(写真提供:ドバイ経済観光庁)
「5つ星」の最高級ホテルだが、自称、または世間では「7つ星ホテル」と呼称される「ブルジュ・アル・アラブ」。(写真提供:ドバイ経済観光庁)
そのプロジェクトを推し進めているのが、ドバイの首長であるムハンマド・ビン・ラーシッド・アール・マクトゥーム殿下(以下、シェイク・ムハンマド)だ。ドバイの内政を理解するためにも、簡単にドバイとアラブ首長国連邦(UAE)について説明しておきたい。

UAEの成り立ちとの関わり

UAEは、その名の通り7つの首長国から構成される連邦国家だ。7つの首長国は、それぞれ独自の行政の下で政治や経済を動かしており、ドバイでは先述したシェイク・ムハンマドが首長を務めている。

意外に思われるかもしれないが、ドバイでは石油がほとんど採れない。オイルマネーを背景に発展したと思われがちだが、ドバイは石油埋蔵量が少なく、お隣のアブダビのように採油を資本にして豊かになることは叶わなかった。

そこでシェイク・ムハンマドは、石油に頼らない発展を目指すべく、自由経済特別区、いわゆるエコノミックフリーゾーンを創設することに活路を見出す。端的に説明すれば、同じエリアに同じ業種を集め、互いに自由競争させることでいいものをつくり出すことを前提としたエリアのことだ。

さらには、企業に掛かる税金をほぼゼロにし、業種ごとに必要なインフラや法律、制度を調整。その結果、名だたる企業が集まるようになり、ドバイは高い競争力を誇る世界屈指の都市へと変貌を遂げた。

こうした野心的な背景があるからこそ、ドバイは意図的に“世界で最も高い”“世界最大”といった建造物を作り、注目を集めるようにしたのである。
 
世界一の高層建築物「ブルジュ・ハリファ」の周辺には、個性的な高層ビルが林立する。(写真提供:ドバイ経済観光庁)
世界一の高層建築物「ブルジュ・ハリファ」の周辺には、個性的な高層ビルが林立する。(写真提供:ドバイ経済観光庁)
「シェイク・ムハンマドのもと、ドバイは先進的な建築を作ることで、ドバイという都市を国際的な舞台に引き上げ、住まいやエンターテイメント、文化の活気あるハブとして示すことができました。観光客を引き付けるだけでなく、世界で最も住みやすい都市の一つを作り出すことも大きな目的だったのです」

驚くことに、ユニークなデザインは建築家の提案ではなく、ドバイ政府によるものだという。

「ドバイの最も象徴的なプロジェクトの多くは、シェイク・ムハンマドの指導のもと、政府によって発注されたものです。ドバイとUAEを国際的な舞台に位置づけるためのビジョンの一環として進められています」
 

未来博物館のデザインの裏側

とはいえ、ユニーク“すぎ”やしないか。自らの提案であれば、できる・できないの判断の上に成り立つものだろうが、政府の提案ともなれば、ときに無茶ぶりになってしまう気がしないでもない。

だが、バイオさんは「どんな先進的なプロジェクトでも私たちは対応できる」と胸を張る。

「キラデザインでは、トップクラスのエンジニアと協力し、デザインの早い段階でファブリケーター(製造または構築するプロセスに関与する会社や個人。設計に指定された建物の要素や材料を担当する)と相談することで、挑戦的なアイデアでも実現可能にしています。

例えば、『未来博物館』の外観は世界初の試みでしたが、金属やガラス、石材などの部品を扱うファブリケーターと密な連携を取ることで可能にしました。建物の構造や設備、外観を最適化するために、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やパラメトリックデザインなども活用しています」
 
ドーナツのように空洞になっている「未来博物館」。斬新すぎる……。(筆者撮影)
ドーナツのように空洞になっている「未来博物館」。斬新すぎる……。(筆者撮影)
BIMとは、建物を設計・建設する際に使うデジタルモデルのこと。建物の形やサイズだけでなく、材料や設備の情報も含まれているため、関係者全員が同じ情報を共有でき、設計や施工のミスを減らすことができるそうだ。

また、パラメトリックデザインは、デザインの要素を数値やパラメータに基づいて柔軟に変更できる手法だという。建物の高さや幅を変更すると、その影響は他の部分にも連鎖するわけだが、パラメトリックデザインを用いることで自動的に調整されるそうだ。

これにより、デザインを迅速に試行錯誤でき、効率的に進めることが可能になる。デジタルの力を借りることで、「たとえ難しいデザインであっても、コストを抑え、効率のよい満足のいく建設が可能になる」とバイオさんは話す。

「『未来博物館』は、建物や構造物を建設する際にロボットを利用するロボット建設技術も導入した、世界で最も先進的な技術を施した建物の一つでもあるのです」

最先端の技術を用いるからこそ、ドバイの建物はユニークな形状を可能にする。あのユニークさは、“技術力の誇示”でもあるというわけだ。
 
「ドバイフレーム」の最上階は、ご覧のようにガラス張りになっており、地上を覗くことができる。(筆者撮影)
「ドバイフレーム」の最上階は、ご覧のようにガラス張りになっており、地上を覗くことができる。(筆者撮影)

最先端都市ザ・ラインの建設

現在、中東ではドバイを猛追するように、サウジアラビアも経済や観光の分野に力を注ぎ始めている。その最たる例が、現在建設が進行中の全長170キロメートル、高さ500メートルにも及ぶ直線型都市「ザ・ライン」だろう。

紅海沿岸から内陸の砂漠地帯にかけて建設される、この人工都市は最大900万人が暮らせるように設計し、高速鉄道により、170キロの距離を20分で移動可能にするスマートシティを目指すという。

「そんなバカな」と後ろ指をさしたくなるだろうが、ドバイの「パーム・ジュメイラ」も計画時点では、「そんなバカな」と言われていたことを忘れてはいけない。

「湾岸諸国やアラブ世界全体で、革新的なデザインを創出する共有の文化的傾向はありませんが、サウジアラビアはUAE同様にリーダーシップによる戦略的な方針があります。

野心的な建築は、彼らの国際的なイメージを再定義する役割を持っています。そして、こうした取り組みは、炭化水素ベースの経済から、持続可能な成長を可能とする経済への移行という部分も反映しています」

事実、現在のサウジアラビアは、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子指揮のもと、「脱石油」を掲げ、オイルマネーに頼らない国づくりへと舵を切っている。成功例のドバイにならう形で、エコノミックフリーゾーンや政府系ファンドを活用し、さまざまな分野に投資を行っているほどだ。

バイオさんが話すように、野心的な建物は、「国際的なイメージを再定義する役割」を持ち、雇用や観光機会を創出する。我々観光客にとっては、奇抜でユニークな建物という一面に過ぎないかもしれない。しかし、単にユニークなだけではない、多面的な意味が含まれているのである。

「ドバイは、象徴的な建物を作ることで、革新と創造性の文化を育成しています。政府は、次世代の建築家を育成するために、多くの建築プログラムを持つ教育機関に投資をしているほどです。また、ドバイの成長に向けた野心的なビジョンに貢献するため、地元の建築家を支援する意識も高まっています」

ドバイのユニークな建造物は、我々が想像している以上に多方面にインスピレーションを与えるものだったのだ。

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