連載
#60 イーハトーブの空を見上げて
社殿の扉から登場したラジカセ 境内で「奉納」するのはラジオ体操
午前6時、気温1度。
日の出前のまだ薄暗いなか、住民が白い息を吐きながら集まってくる。
近くに住む主婦工藤光子さん(73)が、神社の境内にある小さな「社殿」の扉を開ける。
中に祀(まつ)られているのは、昔なつかしいラジカセだ。
「さあ、みなさん、今日も元気よく、ラジオ体操を始めましょう!」
午前6時半、ラジオからなじみの音楽が流れ始めると、社殿前には笑顔が広がり、参加者は思い思いに体を動かす。
人呼んで「体操神社」。
盛岡市住吉町で暮らす老若男女の住民らが毎朝、元気にラジオ体操を「奉納」している。
この地域でラジオ体操が始まったのは2012年6月。
高齢者の健康維持のほか、少子化や核家族化で近隣のつながりが薄れつつあるのを防ごうと、女性たちが中心となって始めた。
地元の住吉神社も活動を後押しした。
活動場所として神社を使うことを認めただけでなく、境内の一角に体操神社を「創建」し、住民が毎朝、重いラジカセを持ってこなくても良いようにとりはからってくれた。
毎日が「礼拝日」だ。
「雨が降っても雪が降っても、嵐の日も毎日やっています」(工藤さん)
年末年始の6日間を除き、夏も冬も、住民らは休まずにラジオ体操を続ける。
主婦の今井冴子さん(85)は「10年間、風邪をひいたことがないんです。これも体操神社の御利益です」とうれしそうに話す。
(2022年11月取材)
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