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「木」で「汁物」を表現…進化する木彫り作家、40日かけた最高傑作
SNSでは「理解できない」と混乱する声も
本物そっくりの木彫り作品をSNSに投稿し、多くの人を驚かせている木彫りアーティストのキボリノコンノさん(@kibori_no_konno)。木彫りを始めて3年。今度は「木」で「液体」を表現してしまいました。SNSに投稿された動画を見ても「木彫りだと理解できない」人が続出しています。
キボリノコンノさん(以下コンノさん)は、2021年から木彫りを始め、作家として活動しています。これまでに洋菓子ブランド・ヨックモックの「シガール」やたこ焼き、カステラなど様々な食品をモチーフに作品をつくってきました。
今回新たに挑戦したのは、「お吸い物」です。
コンノさんがInstagramに投稿した動画は、一見お吸い物……と思いきや、中に入っている具材の三つ葉やかまぼこがひとつずつ外されていき、お椀だけが残ります。液体が入っているように見えたのに、実際お椀のなかは空っぽです。
「こんなの見たのは初めて!」「湯気まで出てるような気がする…」「最後まで見て意味が分からなくて、ん?ってなって木彫りって理解してもう一回見て、やっぱり理解できなくてまた見てる」といったコメントが寄せられ、7万件近い「いいね」がつきました。
最高傑作ができました!
— キボリノコンノ (@kibori_no_konno) August 23, 2024
木彫りの「お吸い物」です。
透明な汁から湯気まで木彫り&着色で表現しました。#木彫り #woodcarving pic.twitter.com/nXSs9FvF4x
コンノさんは「以前から『汁物』をつくってみたい気持ちがありました」と話します。「『お味噌汁をつくって』という声もいただきましたが、お味噌汁は汁の中が透けていないのでつくれそうな気がしたんです。そこで、透明なお吸い物に挑戦しました」
緑茶やコーヒー、ビールをつくったことはありましたが、いずれも木に色を塗ったり、木目を生かして透明に見せたりしていました。
「どうやったらお吸い物をつくれるか考えるところから始まりました。お吸い物の水面を平らに彫ってつくってしまうと、中の具材は『絵』で表現することになってしまいます。それは違うと思い、立体で透明感を出したい気持ちがありました」
そんなとき、たまたまSNSのタイムラインにお吸い物の写真があがってきたといいます。「水面の周りに輪っかのようなハイライトが入っていて、お吸い物が透明に見える要素はこれかとひらめきました」
「透明な部分を彫らない」作品は初めてのこと。水面の境目にハイライトを入れ、液体が入っているお椀部分の色を濃く塗って調整しました。ゆげも描き、周りの壁が反射して水面に映っている様子も表現したといいます。
「いつも透明な部分を彫って表現していたのに、今回はあるべきものがないというところに新しさがあります」
ポイントになっているのは、お椀自体もいちからつくっている点です。地元の材木店に足を運び、お店の人にイメージを伝えながら材料を選んだといいます。
「お椀をつくるための機械も設計しました。彫った跡を見えないようにするなど、リアルな表現にするためには違和感をいかに消すかが大切です。以前家具のデザインの仕事をしていたので、その経験も生きました」
具材の三つ葉とかまぼこは、配置や着色にこだわりました。
三つ葉はバラバラなようで全てつながっていて、1枚の板からできています。「それが浮遊感を出している」とコンノさん。配置も計算してつくったそうです。
葉っぱの部分の色も、水中に沈んでいる部分は濃く塗り、葉脈を伝って水がのぼっているように見せました。
かまぼこも液体のなかにある想定なので、実際よりも発色を抑えた色を塗っているそうです。
コンノさんは実際に本物のお吸い物を何度も作り、どのような配置で沈んで見えるのか、光が当たっているのか、試しながらつくっていったといいます。
制作にかけたのは40日間。普段は1~3日でつくることがほとんどのため、いつも以上に「一切の妥協をしない」と決めた作品だったそうです。
完成したとき、自分でも「もう悔いはない」と思うほど満足したというコンノさん。
家族や知人に作品の動画を見せると、「え? どういうこと?」と理解が追いついていないような反応が多かったそうです。
SNSでの反応も驚きの声だけでなく、これまであまり寄せられなかった「天才」という言葉がいくつも書かれていたといいます。
「今回はとんでもないものを作ってしまったんだなという実感がありました。これまで実験を繰り返してきたからこそたどり着けた〝ひらめき〟だったのかもしれません」
今回が最高傑作だというコンノさん。書籍の発売や全国での展示会、子どもたちへのワークショップなど幅広く活動していますが、今後は何を目標に進んでいくのでしょうか?
「めざすものも夢も全くないんです。ただ自分がいまできるおもしろいこと、みんなが驚くことをやりたいだけ。これまでも木彫りの活動で目標は決めていませんでした。だからこそ自分がたのしいと思うことに全力で飛びつけて、可能性が広がっていったのだと思います」
SNSのフォロワーや展覧会のお客さんたちとのコミュニケーションを大事にしながら、引き続き「見た人を驚かせる、納得感のあるリアルな作品」を追求していくそうです。
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