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IT・科学

「ダメ会社員」を救ったネット 〝普通の人〟に情報発信を勧める理由

noteプロデューサーの徳力基彦さん=2024年10月8日、朽木誠一郎撮影
noteプロデューサーの徳力基彦さん=2024年10月8日、朽木誠一郎撮影 出典: 朝日新聞社

目次

「あえて自分がする理由もない」「炎上してしまうのでは」――ネットが普及し、誰でもできるようになったからこそ、そんな懸念からためらってしまう人もいる情報発信。そんな中で、あるベテランブロガーが、会社員として働きながら1000日連続のブログ更新を達成しました。徳力基彦さんに、そのチャレンジの理由をたずねました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)

<プロフィール>徳力基彦(とくりき もとひこ)
1972年生まれ。名古屋大学法学部を卒業後、新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログとSNSのおかげで人生が救われる。その際の経験を元に、書籍『普通の人のためのSNSの教科書』を出版し、現在はnote社でビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当している。また、ブロガーとして、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメ業界のデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを、Yahoo!ニュースやYouTubeで紹介している。
 
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「1000日連続更新」した理由

――徳力さんは20年以上、ブログを続けるベテランですが、9月にnoteでブログの「1000日連続更新」を達成しました。

達成したのは最近なんですが、実は「1000日連続更新」に最初に挑戦しだしたのは、ちょうどnoteに入社した直後なので、5年前でした。

勝手に人生の師匠と仰ぐでもあるさとなおさん(コミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之さん)が、ご自身のアニサキスアレルギーの闘病とあわせた「1000日チャレンジ」を開始したタイミングで、私もメンバーのさとなおさんの私塾の仲間と、1000日間、何かを続けてみようという企画でした。

これは「世界のアイデアを日替わりで」をキャッチコピーに、海外のユニークなサイトを紹介していたブログ「100shiki.com」を、自分なりに受け継いだ挑戦でもあって。「100shiki.com」はこのテーマ一本で、18年間毎日更新という偉業を達成して、2018年にその歴史に幕を閉じました。

私はたった1000日連続更新を達成する過程でも2回ほど挫折しているので、あらためて「100shiki.com」はすごかったと身をもって感じました。

――徳力さんもブロガーとして記事執筆の手が早く、また、量も多いことでメディア業界内で知られています。

私にとってブログやnoteの「記事」はあくまで「おしゃべり」をしている、という感覚なんです。

ブログやnoteの記事によって、自分の分身をネット上に増やしている。それによって自分がどんな人間なのかを知ってもらって、接点が増えていく。

毎朝、ビジネス系のニュースサイトやSNSをバッと見てまわって、興味がある記事や投稿を読んだり見たりして、一番、興味があったものを「こんなのあるよー」って昼飯のときに誰かに紹介するぐらいのノリ、メモで記事を書いているわけなんですよ。

昔はそれにトラックバックがついたし、今だったらSNSでコメントが届いて、そこからネット上に会話が生まれていく。リアクションが生まれるのってうれしいし、楽しいじゃないですか。

私は元会社員ですし、ビジネスの休憩中のコミュニケーションみたいな感覚で、noteを書いたり、SNSや最近はYouTubeにも投稿をしたりしているだけなんです。

未だに一般的な会社員の方だと、「ブログやSNS禁止」みたいな雰囲気がありますが、それってやっぱりもったいないと思うんですよね。小説家やエッセイストでなかったとしても、普通の人にも、情報発信をしてほしいと思います。

会えない人にも会えてしまう

――最近、更新された記事のテーマを見ると、Netflixの『極悪女王』『SHOGUN 将軍』『地面師たち』、Number_iやSnow Manといった男性アイドルグループ、K-POPのNewJeansやATEEZ、ディズニー、ゲームなど、エンタメを中心に多岐にわたっています。エンタメ全般が好きなのですか?

もともとゲーマーなので、エンタメは好きです。ただ、私が紹介しているのはエンタメ自体というよりも、「エンタメ業界のデジタル活用」というつもりでいます。

日本は、旧ジャニーズ事務所所属のタレントさんの例がわかりやすいですが、長らくエンタメ業界がネットから距離を置いていました。それが今、どんどんネットに進出して、ファンもその使い方が上手になっている。配信のヒットチャートやYouTubeの再生数をSNSで伸ばしていく、みたいに。

海外では一般的な「撮影OK」の国内のアーティストライブも増えていますよね。こういう変化が面白いなと感じて、取り上げています。

――XGやNew Jeansのライブや、SKY-HIさんが代表のBMSG主催のフェスにも参加されていますよね。

そうやって面白がっているうちに、深く知ることで、好きになっちゃったんですよね。以前は「当たるかわからないのに抽選に申し込むなんて面倒くさい」と思っていて、自分でライブのチケットを買ったことは全くなかったんですが。やっぱり、何事にも好奇心を持って触れてみると、意外と自分の違う面も見つかります。

エンタメの記事も、数年前まで書いていなかったんです。そんな自分が、最近では『SHOGUN 将軍』のエミー賞受賞にあわせてNHKのニュースからコメント依頼を頂いたり、経済産業省の研究会の委員になったり、SKY-HIさんとセガ社長の杉野行雄さんのトークセッションのファシリテーターをしたりしている。

こんなふうに、会えないはずの人にも会えてしまうので、「好き」を発信するって大事だな、ブログとかnoteみたいな情報発信ってすごいなと、やっぱり思います。

「腹黒い」と自ら語る狙いは

――では、「書いていなかった」エンタメ業界の記事を書きだしたのは、なぜだったんですか?

5年前に「ネットが少しでもポジティブなものになるような記事だけを書こう」と思った時に、「エンタメしかない」ってなっちゃったんですよね。

もともと、私はデジタルマーケティング支援会社にいたので、企業のソーシャルメディア活用が進むように、ネットの炎上事例の解説記事をよく書いていたんです。炎上には炎上が起きる理由がある。単純に言えば「悪いことをするから」とか、「初動対応を誤ったから」とか、「謝らないから」とか。

でも、最近はもう、悪いことをしなくても炎上してしまう例が増えていると感じます。というよりも、言葉の定義というか、「炎上だ」と誰かが騒ぐと炎上しているように見えてしまうというか。そこには取り上げるメディアの責任も大きいと思いますが。

炎上事例の解説記事を書く意味を見失っていたときに、前職のアジャイルメディア・ネットワーク株式会社から現職の株式会社noteに移りまして、それを機会にあらためて、ポジティブなものだけを書こう、と決めたんです。でも、それにはちょっとズルい意図もあって。

私はやっぱり、もっと多くの人にネットで情報発信をしてほしいと思っているんですよね。「好きなことを発信していると、こういういいことがありますよ」って見せることで、ネットの情報発信が増えるといいなという、ある意味で腹黒いアプローチをしているつもりなんです(笑)。

――ネットを少しでもポジティブなものにしたい、という理由は、どのようなものなのでしょうか。

それはやっぱり、私はブログに人生を救われたと思っているからです。

20年前、大企業を飛び出してベンチャーに入ったものの、やることなすことうまくいかなくて、オンラインゲーム廃人になっていた。当時の私は本当にダメ会社員でした。

その後、ゲームの代わりにエネルギーをぶつけるように始めたブログがきっかけで、人とのつながりができたり、視野が広がったりで、前職の立ち上げに携わって、社長や、取締役、上場も経験できました。

でも、これって運がよかっただけなんです。もしあの頃、ブログブームが来ていなかったら、今の自分はありません。だから、その恩返しをしたい、同じように壁にぶつかっている人がいたら「こういうやり方もある」と見せたい、というのが一番ですね。

感覚は“定年後再雇用”の今

――今はnote社に勤務する会社員なんですよね。経営者を経て、また会社員に戻られた理由は?

はい、週に4日は会社員として勤務しています。私はまだ50代ですが、感覚としては定年後の再雇用に近いですね(笑)。

私は自分の能力的にも、ブロガーとしては専業では成り立たないと思っています。ブログだけで生活しようとすると、PV(閲覧数)や課金を求めるあまり、どんどん発信する情報が過激になったり、偏ったりしてしまう。

それはもしかすると、メディアも同じかもしれません。メディアのビジネスモデルに興味があるのはそんな理由です。

だから、「会社を辞めてブログで独立しよう」と言うつもりは一切ないです。あくまで、会社員をしながら情報発信をすることにも、たくさんメリットがありますよ、とおすすめしています。

――確かに、近年の徳力さんの情報発信はいつも穏当というか、優しいアプローチで、過激なものはほとんどありませんね。

情報発信がクルマの運転にたとえられることがありますが、やっぱり過激なものは目立ちます。信号無視やスピード違反は注目されやすく、それがネットではマネタイズにつながってしまう。

クルマの運転は免許制ですが、情報発信は言論の自由から免許制にはできませんし、そうするのも不健全ですよね。でも、現状のままでいいんですか、というのは問いかけたいです。

北風と太陽のたとえですが、いくら「ダメ」と言ってもあまり効果がないかもしれない。それなら、好きなことを発信し続けることで、私自身にうれしい、楽しいことが起きていることも含めて、伝えていきたいな、と。

一方で、穏当な情報発信では影響力を持ちにくい、広げにくいという面があるのは事実でしょう。副業的なブロガーならよくても、専業のメディアには苦しい時代だと思います。

私は今はまた、「ブログで恩返しをする」ができる場所で、会社員をしながらブロガーとして活動できるようになりました。情報発信が「一部の特殊な人のもの」ではないと多くの人に感じてもらえるように、そのどちらも頑張っていきます。
【イベント開催します!】

徳力基彦さんも登壇する、withnewsの10周年イベント「【withnews10周年記念】ウェブメディア激動の10年 令和の温故知新フェス!」を、10月19日にオンラインで開催します。参加無料。

イベントページ

3部構成で、徳力さんがNHKコンテンツ戦略局副部長の足立義則さんと「ウェブメディア総論」について語る第1部は、14時からの開催を予定しています。

徳力さんたち出演者への質問も受け付けています。

【申し込み・詳細はこちら】https://withnews10th.peatix.com/

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