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#22 #令和の専業主婦

〝短時間正社員〟の求人、じわじわ増加 企業と働き手のニーズが合致

ニーズはあるけど一気には進まない…企業側の事情

短い労働の時間でも「正社員」としてはたらく「時短正社員」の求人が増加傾向です。写真はイメージです=Getty Images
短い労働の時間でも「正社員」としてはたらく「時短正社員」の求人が増加傾向です。写真はイメージです=Getty Images

目次

1日8時間を週5日ではなく、もっと短い時間でも「正社員」として働けたら――。子育てや介護など、ケアワーカーが働き方の選択肢に入れたい、「時短正社員」。人材系企業の調査でも、企業側がその雇用に前向きになっている傾向がうかがえます。短時間正社員の求人を始めた法人に聞くと、優秀な人材の確保のためには、柔軟な働き方の提示が不可欠だという事情が見えてきました。

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短時間正社員の求人、2倍になったところも

短い時間の労働でも、パートタイムやアルバイトなどの非正規ではなく、正社員と同等の給与体系や福利厚生制度のもとで働く「短時間正社員」(時短正社員)の求人がじわじわと増えています。

人材紹介サービスの「スマートキャリアAGENT」(ビースタイル運営)によると、2024年1月から6月の短時間正社員の求人数が前年の同期間に比べて2.19倍に増えているそうです。

パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」がとりまとめた、8月の短時間正社員の求人数は、前年同月比で1.3倍になっているといいます。

doda編集長の桜井貴史さんは、「確かに短時間正社員の募集は増えていますが、短時間勤務のみの募集が増えているというよりも、一般求人の中に『短時間でも相談可能』という件数が増えている感じです」と話します。

「短時間正社員の活用は政府でも推進しており、これから伸びていく採用方法だと見込んでいます」と桜井さんは言います。

「働き続けたい」「ワークライフバランス」

桜井さんによると、現在の伸びの理由には、働き手のニーズと企業側のニーズの合致があるといいます。

「まず、働き手については、出産・育児などライフスタイルの変化があっても、働き続けたいというニーズの高まりがあります。その際に短時間正社員として働くメリットとしては、家庭環境が落ち着いたあとにフルタイムに戻る将来を展望しやすく、キャリアを断絶せずに働き続けられることがあります。さらに、働く上での制度が整っているという安心感もあるでしょう」

桜井さんは、働き手には「ワークライフバランス」を整えたいというニーズもあると指摘します。

「若い世代を中心に、残業時間をなくし、プライベートな時間を確保しながら生活をしたいというニーズがあります。さらに副業をしたいというニーズの高まりもあり、『時短正社員プラス副業』という組み合わせも少しずつ増えている実感があります」

企業側が短時間正社員の求人を増やす理由は、なんといっても人材不足の打開策としての「採用競争力の強化」。特に専門職や優秀な人材は短時間でもパフォーマンスを発揮できると見込み、そのスキルを自社で生かしてほしいという思惑がのぞくといいます。

さらに、社内へのブランディングとしても有効で、短時間正社員の採用をすることで「多様な働き方に向き合っている」「社員を大事にしている」というメッセージを社員に伝え、関係の維持につながるといいます。

WLBの観点から、短時間の労働を選択する人も。写真はイメージです=Getty Images
WLBの観点から、短時間の労働を選択する人も。写真はイメージです=Getty Images

足元の採用で手いっぱい…でも中長期的に見ると

政府も、厚生労働省の「多様な働き方の実現応援サイト」の中に「短時間正社員」の説明ページを設け、「導入マニュアル」を整備するなど、企業に推進していることがわかります。

ただ、厚労省の2023年度の雇用均等基本調査の「育児のための所定労働時間の短縮措置などの制度の導入状況」をみると、「短時間勤務制度」は2022年度の71.6%から直近の2023年度は61.0%と減少しています。

質問が、制度導入理由を「育児」だけに絞って聞いているため、全体感は異なる可能性がありますが、桜井さんも「短時間正社員の導入はまだまだこれからという感じ」といいます。

今後、短時間正社員という雇用形態が広がっていくには、企業側の人事評価や報酬制度などの整備が必要だと桜井さんは指摘します。

「現在は目の前の人材不足に対応するため、内定辞退の防止などで人事はいっぱいいっぱいです。ただ、短時間正社員など多様な働き方を準備することは、中長期的な人材不足解消に効いてきます。そこにどれだけのパワーを割けるか、会社の向き合い方が問われています」

また、桜井さんは「若い世代は、パラレルワークやマルチジョブなど、複数の仕事を並行して行う働き方が身近になっています」といいます。彼らが結婚・育児など生活の変化に直面する今後10年以内には、さらに短時間正社員としての働き方のニーズは高まると見込んでいます。

「若い世代は複数の仕事を並行して行う働き方が身近になっています」という声も。写真はイメージです=Getty Images
「若い世代は複数の仕事を並行して行う働き方が身近になっています」という声も。写真はイメージです=Getty Images

「勤務時間については相談に乗ります」

求職者からのニーズに応じて、今年初めて「短時間正社員」を雇用したところもあります。

社会保険労務士法人ガルベラ・パートナーズの代表・中嶋美緒さんは、6年ほど前から採用活動を担当しています。キャリアを積んできた30代を採用したくても、子育ての都合で柔軟な働き方を希望していることに気づいたといいます。

「30代の求職者から、『子育てがあってフルタイムで働けない』『時間の融通はききますか』などと聞かれることがありました」と話します。

フルタイムで働ける人材として、子育てが一段落した世代の採用をしたこともありましたが、業務のIT化に即応できなかったケースもあったそうです。

その結果、「ITリテラシーの高い若い世代の採用」を達成するため、募集内容を「勤務時間については相談に乗ります」という姿勢に変えました。

そうして無事採用につながった初の短時間正社員の女性は、未就学の子ども2人を育てながら、週5日、1日5時間の勤務で働いています。

仕事の割り振り見直し、働きやすく

一方、短時間正社員となると、フルタイムで仕事をする人との業務バランスや内容の違いが気になります。

中嶋さんの会社では、ひとりひとりの裁量権が大きい業務内容で、取引先企業ごとにメインの担当がつき、その企業にかかる業務は基本的にはメインの担当者が請け負っていたそうです。

ただ、これまで通りの業務で時短勤務の社員が担当になった場合、時間外の対応ではフルタイムの社員のカバーが恒常的に必要な状況が想定されました。

それを防ぐため、同社では業務の担当を大幅に変更し、企業ごとではなく内容ごとに担当をつけることにしたそうです。
例えば、給与計算の場合は夕方以降に再計算が必要になることも想定されるため、フルタイムの人が担当。一方で、社会保険の手続き業務など、日中に終えられるものは時短勤務の社員の担当としました。

「スケジュールに融通をきかせやすい仕事を、時短社員に担当してもらいます。そうすることで、フルタイムの人が通常業務にカバー業務が付加されるような状況にはならないようにしました」と話します。

現在、短時間で働いている社員について、中嶋さんは「短時間正社員として採用したというより、いまは子育てがあるので時短勤務をしてもらっているという考えです。環境が変わって希望があれば、ぜひフルタイムで働いてもらいたいと思っています」と話します。

就労ニーズに追いついていない

短時間正社員の求人が2倍を超えたという調査結果を発表した人材紹介サービス会社「ビースタイル」は、主婦層の働き方についての調査も「しゅふJOB総研」として実施しています。
その視点から、「『短時間正社員』は、就労志向の主婦層が最も希望する雇用形態ですが、実際に経験したことがある方はわずか13.3%に過ぎず、従来の短時間勤務制度だけでは、希望する全ての人をカバーしきれていない」(ビースタイル)とし、働く意欲をすくいきれていないていないと指摘しています。

また、しゅふJOB総研の研究顧問でワークスタイル研究家の川上敬太郎さんも「働き手側の短時間正社員ニーズは高い。上手く業務を切り分けられれば、職場の中に潜在的なポジションがたくさん埋まっていると言えるのではないでしょうか」と話します。

 ◇

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