2022年の「ツギクル芸人グランプリ」で優勝を果たした漫才コンビ・ストレッチーズの高木貫太と福島敏貴。「一躍ブレーク」といった派手さはないが、NHKの密着ドキュメンタリーが放送されたり、10月からレギュラーのFMラジオ番組がスタートしたりするなど、着実に活躍の場が広がっている。そんな彼らに、「M-1グランプリ」や大学のお笑いサークルの後輩・令和ロマンに対する思い、地元・埼玉で活躍したい理由など、現在の率直な心境を語ってもらった。(ライター・鈴木旭)
<プロフィール>ストレッチーズ
太田プロダクション所属の高木貫太と福島敏貴からなる漫才コンビ。埼玉県立浦和高等学校のバスケットボール部で出会い、進学した慶應義塾大学のお笑いサークル「お笑い道場O-keis」での活動を経て、2014年正式にコンビを結成。2022年に「ツギクル芸人グランプリ」で優勝。2023年に「ABCお笑いグランプリ」決勝進出。『千原ジュニアの座王』(カンテレ)や『くりぃむナンタラ』(テレビ朝日系)など多くのバラエティー出演のほか、10月6日からはレギュラー番組『YOI-KARA』(FM NACK5)がスタートする。
――「ツギクル芸人グランプリ」優勝後、だいぶ生活は変わりましたか?
高木:あの後いろんなバラエティーに出させていただいて、あんまり結果が出せないまま今に至ってます(苦笑)。僕ら最終学歴が慶応義塾大学ってこともあって、クイズ番組に呼んでいただく機会が多かったんですけど、単純にクイズでも爪痕が残せなかったんですよ。例えば『Qさま!!』(テレビ朝日系)でうなぎの映像が出て「うなぎ」って答えるだけの問題で、福島が17秒ぐらい黙ってとんでもない空気になったりとか。
福島:オンエアーを見たら、そこはちゃんとギュッとなってました(笑)。やっぱずーっとテレビで見てきた錚々たる芸能人さんを見たら緊張しちゃって。それこそ「うなぎ」の問題のときも、同じチームの伊集院(光)さんが「大丈夫だよ! キミが思ってるそれだから」って優しい言葉をかけてくれてるのに「あの伊集院さんに応援されてる!」って思ったら、逆にテンパって真っ白になっちゃうみたいな。
高木:相方は、デカい番組だとテンパりやすいんですよ。逆にめちゃくちゃ嬉しかったのは、僕らを密着してくれた『ドキュメント 20min.』(NHK総合)。中学時代のあこがれだった市川由衣さんがナレーションを担当してくださったんですけど、僕らもオンエアーでサプライズ的に知ったので、ビックリしたのと同時に「ここで芸人辞めたら一番キレイなんじゃないか」ってぐらいテンション上がりました(笑)。
福島:あれは最高でした(笑)。別撮りではあったんですけど、画面越しに僕のあだ名を呼んでくださったりして。僕ら最初、市川さんをきっかけに仲良くなったんですよ。同じ高校のバスケ部で自己紹介的に「好きな俳優を言おう」となって、2人とも被ったから今があるようなものなので感慨深かったです。
あと、『マルコポロリ!』(カンテレ)で東野(幸治)さんにお会いできたのも感動しました。『ドキュメント 20min.』の自宅の密着取材で、スタッフさんから「普段良く見る番組をつけといてください」と言われてテレビに映してたくらい『旅猿』(日本テレビ系)が好きなので。本番はド緊張でしたけど、そんなふうにテレビで見てた憧れの人とちょっとずつでもご一緒できること自体が嬉しいし、ありがたいですね。
――昨年の「M-1グランプリ」で準々決勝敗退。2年前、初の準決勝進出を果たしただけに悔しかったのでは?
高木:この10年で僕ら、けっこうスクスク育ってきたつもりだったんですよ。M-1敗退が決まった瞬間からネタの反省点を考えて、「じゃあ来年はこうしてみよう」みたいな目標に向かって一歩ずつ前進してきた感じというか。それが去年崩れたから、「あ、ヤバい」と思って。「もう成すすべないかも」って気持ちに初めてなりましたね。
福島:去年の準々決勝は想像以上にウケなくて。「もうちょっと笑いきてほしいな」と思ったまま終わっちゃったから、前向きな反省もできない感じだったんですよね。
高木:相方と話し合っても具体的な策が出ないから、「シンプルにいっぱいネタ作ってみるか」ってことになって。それで、今年は新ネタ6本披露するライブを6カ月連続でやったんです。僕らに期待してくれてるお客さんは、「今年のストレッチーズは本気だ!」みたいに言ってくれたんですけど、実際のところは「パニックになったから」っていう(笑)。ただ、いっぱい作り過ぎて、M-1のネタをどれにするか絶賛悩み中です。
福島:去年までは、決めた1本をずっとやってたんですよ。1週間あったら、昨日も今日も明日もやってネタを仕上げていく感じで。でも、今年は数が多いから、ライブにかける配分もまばらになって正直はかり切れてないところがありますね。とはいえ、何とか間に合わせたいと思います!
――新ネタライブ「漫才工房」で切磋琢磨する先輩には、M-1王者のウエストランドがいます。何かアドバイスをもらったりすることはありますか?
高木:井口(浩之)さんは背中で見せる先輩で、マジメなことは滅多に言わない。少し前に「漫才工房」ではない普通のライブで一緒になったんですけど、井口さんって楽屋入りから「はいー、敗北者ばっかり! おかしいじゃん、僕だけ芸能人でさ。お客さんがおかしくなっちゃってるよ、見方がわかんないもん」とかってずーっと言ってくるんです(笑)。楽屋だけじゃなく、ライブ中も。
福島:けど、今もすっごいテレビに出てて寝る時間もないはずなのに、けっこう僕ら後輩の情報をチェックしてる。「なんかお前、趣味やってんなぁ」みたいな感じで井口さんがイジってくれたときに「うわー、よく見てくださってるな」と思います。だから、たぶん気にはしてくれてるんだけど、歪な形で表現してしまうっていう(笑)。
高木:悲しい人なので、井口さんは(笑)。基本的には嫌なことばっかり言ってきて、僕らを奮い立たせてくれる方ですね。本当にたまにどうしても聞きたいことがあって飲みの場で話すと、真剣に答えてくれたりもしますけど……そういうのあんま言いたくないな。とにかくめちゃくちゃお世話にはなってますね。
――一方で、昨年は大学のお笑いサークル「お笑い道場O-keis」の後輩・令和ロマンがM-1王者となりました。
高木:悔しかったですね、さすがに。「ついに後輩が優勝する芸歴になってきたか」っていう。正直、「おめでとう」って気持ちよりも焦りのほうが大きかったです。
福島:やっぱサークルの先輩である真空ジェシカの川北(茂澄)さんが先に決勝に行って、その後に僕ら、それで令和ロマンっていうイメージではあったので。ただの年齢の順番ですけど、そこを覆されたなっていう。
バラエティーでもその感じを引きずってます。今年、『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系/AbemaTV)の「立ち上がれ!高卒芸人!!」の回に生徒側で出させてもらったんですよ。そしたら、ほとんど何にもできず「もうちょっと前に出たほうが……いや、あれで良かったのか」みたいな葛藤を抱えたまま終わっちゃって。
そんな中、少し前に令和ロマンが教師側で出たんです。しかも、僕らが出てた「高卒芸人!!」に反論する回でけっこうぶん回して、だいぶネットを賑わせてた。だから、もうM-1だけじゃなく、それ以外の活動も「このまま負けてはいられない」って感じですね。
高木:毎年正月に実家に帰るんですけど、母親がお笑い好きでタイミング的にやっぱM-1の話をしてくるんですよ。錦鯉さん、ウエストランドさんが優勝したときも「今年のM-1も面白かったわ」ってテンション高かったのに、今年はあんまりM-1の話をしてこなくて(苦笑)。たぶん令和ロマンが僕らより後輩だと理解してたんでしょうね。母親に気を遣われるのは、いよいよヤバいと思うので頑張らなきゃと思いました。
福島:ただ、(令和ロマンが)「今年もM-1に出る」っていうのは止めてほしかった(笑)。さすがに枠を譲ってほしいというか。
高木:基本的には出ないでほしい(笑)。けど、個人的にはもう1回戦ってみたい気持ちもあります。僕ら令和ロマンと決勝で戦ったのって去年の『ABCお笑いグランプリ』ぐらいで、そのときも準優勝ながら会場の沸かせ方がすごくて「実力の差を見せつけられた」って感じがしたんです。リベンジを果たす意味でも、今年はM-1決勝を目指そうと思います!
――10月からは生放送のラジオ番組『YOI-KARA』(FM NACK5)がスタートします。
福島:僕らと同じ事務所のパーマ大佐がNACK5でレギュラーをやってるんですけど、代打で何回か出させてもらったことがあって。そのときに聴いてくれてたスタッフさんが、「ストレッチーズいいな」みたいに思ってくれてお話がきたみたいです。
高木:あと、NACK5は埼玉の放送局なので、僕らが埼玉出身っていうのも大きいと思います。めちゃくちゃありがたいです。
福島:今のところ、テレビよりはラジオ向きかなって思うんですよ。出演する機会も多いですし、今回みたいに番組が決まったりもするので。何より、自分たち2人とスタッフさんだけだからテンパらないですし。
高木:相方のほうが多いと思うんですけど、たまに僕も「声がいいね」って言われるんですよ。あと、2人とも活舌が悪いタイプではないから、そのへんもラジオ向きかなと思います。でも、2時間半の生放送は経験ないから、果たしてリラックスしてできるのかなっていう。未知の領域なので、そこの不安はかなりありますね。
福島:それを察知してか、打ち合わせでスタッフさんが気を遣ってくれて、だいぶフリートークの時間が短くなりました。「20分……15分でもぜんぜん」みたいな感じで、「じゃあ15分で」ってことになって(笑)。
高木:本当に最初は「10分……7分とかでもぜんぜん」みたいな感じだったから、「いや、もうちょいできます」と(笑)。だいぶ優しいスタッフさんのもとでやらせていただけそうなので、そこは安心感しかないです。
――番組では、埼玉出身の著名人をゲストに迎えてのトークが予定されています。現時点で話してみたい方はいますか?
福島:フォークデュオのサスケさん。「青いベンチ」は中学生のときに周りが全員聴いてた世代だし、ほかの曲も大好き。実際に大宮で路上ライブやってるのを見かけたこともあります。やっぱ青春のアーティストだし、打ち合わせで恐縮しながら「あの僕……サスケさんが好きで」って提案したら、「ぜんぜんいけます」ってすぐ返ってきて(笑)。
あまりに即答だったので、そのときは拍子抜けしたんですけど、「本当に会えちゃう」と思ったら逆に緊張してきました。ご本人に会ったら絶対テンパりますよ、「青いベンチ」を「赤いベンチ」とか言っちゃうかもしれない(笑)。さすがにそれは失礼なので、せめて曲名は間違えないように気を付けたいです。
高木:僕は、元AKB48のこじはる(小嶋陽菜)ですかね。そんなこと言って、蓋開けてみたら(太田プロの後輩の)センチネルの大誠とかがくるだけかもしれないけど(笑)。いずれにしろ、いろんなジャンルの方とお話できるのを楽しみにしてます。
福島:やっぱ地元の番組に出ると、親が一番喜ぶんですよ。NACK5のレギュラーが決まったときも、お母さんから「大宮に毎週くるんだね」ってLINEがきましたし。それってたぶん息子が近づくっていうのが嬉しいんだろうなと思って。テレ玉の番組に出たら必ず見てくれるし、僕自身も嬉しい。だから、もっともっと埼玉の番組に出たいですね。
高木:「埼玉で仕事してる」と思うとテンション上がりますからね。「大宮駅」とか「南浦和駅」って駅名を聞くだけでもそうだし、学生時代に過ごした街に仕事で帰ってくるって本当に気持ちが軽くなる。
あと、「埼玉の人は、東京の人よりもストレッチーズを知ってる」みたいな“埼玉認知度”が高い芸人になれたらいいなと思って。埼玉だけで売れてるってことじゃなく(笑)、北関東で番組を持ちながら東京でも活躍するU字工事さん、カミナリさんのように、僕らも“埼玉のヒーロー”になれるよう頑張りたいと思います!