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#36 親になる

残暑の蚊に〝シュッ〟も…殺虫剤、子どもや妊婦への影響は?国も調査

自分が刺されるのもイヤだが、自分の子どもを刺した蚊はいっそう許し難い。※画像はイメージ
自分が刺されるのもイヤだが、自分の子どもを刺した蚊はいっそう許し難い。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

残暑が続く時期、暑さ以外にもうっとおしいのが、嫌な音と共に現れて血を吸い、かゆみを引き起こす「蚊」です。特に家に小さい子どもや妊婦がいる場合、刺されてほしくないだけでなく、殺虫剤を使用していいかも迷うところ。実は、その影響について国も調査していました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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猛暑は蚊もバテている?

2歳を過ぎた我が子の発話は、自分の意思を伝えてくれる場合と、おうむ返しをしている場合が入り混じるため、大事なことを確認したい場合、親としては少し困ります。

残暑が続く時期、保育園の帰りに自宅のある集合住宅のエアコンの効いたエントランスに飛び込み、私から「涼しいねえ」と声をかけると「すずしい ねえ」とニコニコしながら返してくれました。きっとこれは自分の意思でしょう。

しかし、そんな憩いの場のエントランスには、残念なところも。最近になって、蚊が大量発生しているのです。我が子はあまり肌が強くないので、なおさら刺されてほしくありません。

「刺されてない?」「かいかいじゃない?(かゆくない?)」と声をかけると「さされて ない」「かいかい じゃない」と返すので、安心して家に帰って確認すると、ばっちり刺されてしまっていることも。これはおうむ返しだったか、それとも幼いがゆえにかゆみを感じるまで時間がかかっているのか……。

気温が下がる日も増えてきて、同時に蚊が増えていると感じる人は多いようです。「9、10月も蚊に注意」と啓発するニュース記事は、同意を示すコメントと共に、SNSで盛んにシェアされています。

虫よけや駆除剤といった虫ケア用品などを製造・販売するアース製薬を取材すると「蚊は気温25~30度のときが一番活発」「35度を超えると動きが鈍くなる」という回答がありました。少し気温が下がってきたことで、猛暑で日陰に潜んでいた蚊を、見かける機会が増えているかもしれません。

そんなある日、ベッドルームで子どもを寝かしつけ中の妻から「ぷーんという羽音がする」とメッセージが。ついに我が家にも蚊が侵入してしまいました。子どもができてからは一層、気をつけていたので、初めてのことでした。

「腕を刺されてる」「せっかく寝たのに起こしてしまいそうで、うかつに退治できない」と妻。うちの子はかゆいと肌をかき壊してしまうこともあるので、早めの対処が必要だと判断しました。

近くのスーパーを訪れ、「シュッ」とひと吹きスプレーするタイプの殺虫剤を購入。結局、起きてしまってぐずる子どもを抱っこでベッドルームの外に連れ出してもらってから、「シュッ」。二人は部屋に戻り、一件落着かと思われました。
 

「使用上の注意」には…

しかし、寝かしつけを終え、ベッドルームから出てきた妻から「小さな子どものいる部屋に使ってよかったの?」「妊婦だったら?」「(使っていいなら)それはどうして?」と質問が。妻は医療従事者なので、普段からこうしたことにしっかり気を配っているタイプです。

私はパッケージ裏面の「妊婦や小さな子供がいる部屋でも使用できる」「噴射する際は噴射する人以外の入室を避ける(薬剤を直接は吸い込まないように)」という主旨の説明を読んだだけで終わっていました。

購入時は比較もできなかったので、使用後ではありますが、有名メーカーの複数の同様の殺虫剤の使用上の注意点を、公式サイトなどで確認してみました。基本的には、妊婦や小さな子どもがいる部屋での使用はOK。ただし、どのメーカーも、「薬剤を直接は吸い込まない」ように注意していました。

では、殺虫剤の成分は、健康に影響するのでしょうか。実は、環境要因が子どもたちの成長・発達にどのような影響を与えるのかを明らかにするための国の調査と、その解析結果に、関係するものがありました。

前述の目的で、環境省は2011年から毎年、10万組の子どもたちとその両親が参加する大規模な疫学調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を実施しています。

研究は、子どもが生まれる前から13歳までの成長する期間を追跡して調査する「出生コホート」と呼ばれる手法で行われます。胎児期や小児期の特定の成分などへの暴露が、子どもの成長と健康にどのように影響しているかなどを調査します。

そして、その2019年のデータを解析し、2020年7月に名古屋市立大学特任助教・松木太郎さんらの研究チームが発表したのが、「妊娠期における母親の殺虫剤・防虫剤の使用と新生児の体重・身長の発育との関連」という研究※です。

※妊娠期における母親の殺虫剤・防虫剤の使用と新生児の体重・身長の発育との関連 - 国立研究開発法人国立環境研究所
https://www.nies.go.jp/whatsnew/20200731/20200731.html

殺虫剤の影響はわずか

結論から言うと、妊婦の殺虫剤・防虫剤の使用と子どもの体格の発育の各指標(出生時体重・身長、生後1カ月までの体重増加量・身長増加量)との関連について、特定の殺虫剤・防虫剤の使用は出生時体重や身長増加量の減少と関連していましたが、個人レベルで見るとそれらの影響は大きくはありませんでした。

どのくらいの程度かというと、「妊婦が燻煙式殺虫剤を使用した場合、使用しなかった場合に比べて、子どもの出生体重の推定平均値が約12g減少する」「妊婦が蚊取り線香/電気式蚊取り器を毎日使用した場合は一度も使用しなかった場合に比べ、子どもの身長の推定平均値が0.11cm小さくなる」というものでした。

ここで、燻煙式殺虫剤とは、ゴキブリなどの駆除を目的に、もくもくと部屋中に白煙が広がるような商品ですから、蚊の駆除を目的にプッシュするだけの商品とは、成分量なども異なるでしょう。

もちろん、研究には限界もあり、チームは「殺虫剤・防虫剤をそれぞれどの程度使用したかについての妊婦の自己記入式質問票の回答に基づくため、実際の化学物質のばく露量はわからなかった」「殺虫剤・防虫剤に含まれる成分のうちどれが子どもの体格の発育と関わるかについての検討は困難」とコメント。

さらに「これらの影響が子どものその後の体格の発育を含む様々な発達とどのように関わっていくのかについてはまだ十分に解明されていません」とし、今後のさらなる検討の必要性を強調しています。

また、エコチル調査は「因果関係を推論するための一つのエビデンス(科学的根拠)であり、因果関係を明らかにするためには、エビデンスを重ねていく必要がある」とされます。

こうしたことを踏まえても、虫を駆除する成分を使う以上、リスクがあるのは仕方のないことです。そもそも、殺虫剤のパッケージに使用上の注意があるように、リスクを把握し、それを上回るベネフィット(恩恵)があると判断して使用するのは、こうした殺虫剤であれ、例えばワクチンのような医薬品であれ、重要なことでしょう。

同時に、前提として、その使用上の注意のような情報にアクセスしやすいことも大事なことだと感じました。

毎年発表されるエコチル調査を解析した研究のテーマには、他にも「妊娠中の自宅内装工事(増改築を含む)や職業上の有機溶剤の使用と、先天性形態異常の発生」といった気になるものもあり、子育ての当事者として、あらためて注目したいと思います。
 

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