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連載

#26 大河ドラマ「光る君へ」たらればさんに聞く

グランドマザー彰子さま、出産後は…天皇の後継めぐり道長とバトル?

藤原道長の邸宅があった「土御門第跡」。京都御苑のなかに看板があります
藤原道長の邸宅があった「土御門第跡」。京都御苑のなかに看板があります 出典: 水野梓撮影

紫式部が主人公の大河ドラマ「光る君へ」。彰子さまに皇子が生まれ、『紫式部日記』がつづられました。実際の彰子さまと一条天皇の関係はどうだったのでしょうか。平安文学を愛する編集者・たらればさんと語り合いました。(withnews編集部・水野梓)

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皇子が生まれるものの、一条天皇は…

withnews編集長・水野梓:今回、第36回の「待ち望まれた日」で、ついに彰子さまが出産しました。

たらればさん:道長が待ち望んだ男皇子で、のちに後一条天皇となる敦成(あつひら)親王ですね。

水野:紫式部は、道長に頼まれて出産のようすを『紫式部日記』に書きとめていくんですよね。

彰子さまと一条天皇の関係はどうなっていくんですか?

たらればさん:これネタバレ大丈夫なんですか?(笑) まぁ千年前の史実にネタバレも何もないか……。

実は、一条天皇はそれほど長く存命ではないんですよ…。そうなると当然皇位継承があるわけで、冷泉天皇の第2皇子・居貞親王(のちの三条天皇)が控えています。
水野:紫式部日記が書き始められたのが西暦1008年で、一条天皇が亡くなるのは1011年なんですね……。

たらればさん:とはいえ、今後数年間、彰子さまと一条天皇は仲むつまじく過ごし、彰子さまは翌年にのちの後朱雀天皇となる敦良(あつなが)親王を出産します。

水野:道長は、天皇になる孫が2人もできて、最高権力者の栄華にのぼりつめていくわけですね。

スペースのリスナーさんから、彰子さまと一条天皇との愛が描かれている冲方丁さんの『月と日の后』がすごくいいですとご紹介いただきました。

『月と日の后』

『はなとゆめ』

たらればさん:冲方丁先生! そうですね、冲方先生の作品といえば、清少納言と定子さまを描いた『はなとゆめ』もおすすめです。にくいところを、非常に美しい筆致で書くなぁ、と思います。2冊ともおすすめでございます。

孫を天皇にしたい道長と、彰子さまは…

たらればさん:わたくしが注目しているのは、このあと彰子さまが政治的に成熟していくところです。

「光る君へ」の序盤で政治的な影響を多大に及ぼした、道長の姉・詮子さま(吉田羊さん)並みの活躍で、グランドマザーと称されていくわけです。

「女院」となったのは、東三条院・詮子さまが日本史上一人目。二人目が上東門院(じょうとうもんいん)・彰子さまです。この二人の(帝の後継者選び、人事や執政への直接介入などの)活躍が、「摂関政治」に続く「院政」を準備したと言われています。

水野:なるほど~。今は良好ですが、彰子さまと父・道長との関係も変わっていきますよね。
たらればさん:このあと、三条天皇の次の天皇はどうするかというと、いま育てている定子さまの息子の敦康親王にするか、自分が出産した息子・敦成親王にするか、ということですね。

水野:道長にとっては、自分の血を引く敦成を天皇にしたいわけですね。

たらればさん:彰子さまは、定子さまの遺児である敦康親王を推して、道長とバトルすることになります。

水野:「光る君へ」の道長は、とても優しいので……どんなバトルになるのか……。

たらればさん:彰子さまはとても長生きするので、愛する帝やわが子たち、孫の死も経験することになります。母・倫子さまも長寿ですが、長生きの血を受け継いでしまって…。

水野:それもつらい……。

たらればさん:幼くして亡くなるのももちろんつらいですが、見送るほうもつらいですよね……。

そうした中で、『源氏物語』をはじめとした、一条帝後宮サロンで生まれた作品の数々、『枕草子』や『和泉式部日記』、各歌人たちの歌集を、彰子さまのサロンが管理していたと言われています。

彰子さまが長生きして、守り続け、伝え続けてくれたからこそ、広まったし守られた作品がたくさんあったはずです。

『源氏物語』のエピソード、どうなる?

水野:ドラマ「光る君へ」では、第1帖の【桐壺】から第5帖の【若紫】まで、一気に『源氏物語』を書く設定になっていますよね。連載仕立てで『ジャンプ』みたいになってますね。

たらればさん:このあとも大忙しですよ。【末摘花】(すえつむのはな/第6帖)が出てきて、【紅葉賀】(もみじのが/第7帖)もあって。
紫式部の邸宅跡とされる京都市の廬山寺。『源氏物語』の「若紫」の巻の絵をあしらった特別な御朱印もありました
紫式部の邸宅跡とされる京都市の廬山寺。『源氏物語』の「若紫」の巻の絵をあしらった特別な御朱印もありました 出典: 水野梓撮影
水野:【紅葉賀】といえば、「光る君へ」で実写化してほしいシーン、ナンバーワンのシーンが出てくる帖ですね。

たらればさん:光源氏と頭中将が並び立つ青海波の舞いですね。さらに、【葵】(第9帖)では光源氏の正妻である葵の上と、年上の恋人の六条御息所との「車争い」もあります。

「光る君へ」ではいろんなところで『源氏物語』のエピソードを差し挟んでチラ見せしてきましたが、ここらへんはどうするのか、すっ飛ばすのか分かる人にだけ分かるように見せるのか、楽しみです。

伊周と隆家たち、中関白家のきょうだいは…

水野:御嶽詣の道長を襲おうとしたり、彰子さまの出産を呪詛したり……、伊周(三浦翔平さん)の暗躍ぶりがすごかったですね。このころは実際に、道長を暗殺するといったウワサが立っていたんですか?

たらればさん:ロバート実資(秋山竜次さん)が出てくるかな、と思ったんですが、この場面では出ませんでしたね。「道長の御嶽詣の際に伊周が道長の暗殺を計画していた」という噂話は、藤原実資の「小右記」に書かれているんです。

「あくまでもウワサだが」、みたいに書かれています。

やっぱり政治的に負けた側というのは、悲しいですが権力もありませんし、こういう悪いウワサを流されがちですよね。『栄花物語』でも、伊周は「幼い」といったことが書かれてしまってます。
道長が頼りにしていた安倍晴明をまつる、安倍晴明神社
道長が頼りにしていた安倍晴明をまつる、安倍晴明神社 出典: 水野梓撮影
水野:ドラマでは、道長一行への襲撃は、伊周の弟・隆家(竜星涼さん)が止めてましたよね。

たらればさん:『小右記』では伊周と隆家は一緒に(道長暗殺を)計画していた、とウワサされてるんですけどね(笑)。

道長を襲おうとしたお兄ちゃん(伊周)を隆家が泣きながら止めていましたが、隆家は『枕草子』でもお姉ちゃん大好きっ子として描かれていて、とてもほほえましいです。今後、道長や実資と交流もあり、こいつ憎めないなぁ、という感じで長生きしますよ。

水野:たしかに竜星涼さんが演じる隆家は、ほんとに憎めないです(笑)。このあと、隆家は活躍するんですよね。
たらればさん:寛仁三年(西暦1019年)三月~四月に起こった「刀伊(とい)の入寇(にゅうこう)」で、日本側の司令官として活躍したのが隆家です。

「刀伊の入寇」は「元寇」に次ぐ規模の外敵侵略事件であり、平安時代最大の外交危機といえます。対馬と壱岐に海賊のような船がたくさんやって来て、九州への侵略を試みたものです。その際に太宰府で総司令官として対応にあたったのが藤原隆家です。

自身が引き連れていた武家貴族と現地の武士を統率してよく戦い、中央に顔も利くので報告や事後処理、論功行賞も迅速で適切だったと言われています。

名家のボンボンなのに北九州の武家貴族に気に入られて、愛されキャラだったんだな、というのがよく分かります。

水野:敦成親王の「五十日(いか)」の祝いの宴にも出てきて女房をくどいていましたが、今後もちょくちょく出てきてほしいですね。
◆これまでのたらればさんの「光る君へ」スペース採録記事は、こちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。
次回のたらればさんとのスペースは、10月13日21時~に開催します。
たらればさんが、朝日カルチャーセンターの講座『「枕草子」の煌めく世界―紫式部を鏡として』に登壇します。
『新訂 枕草子』の著者・河添房江さん、津島知明さんに、清少納言や「枕草子」のあれこれを聞いて深掘りします。

日時:10月26日(土)13時~

申し込みはこちら(https://www.asahiculture.com/asahiculture/asp-webapp/web/WWebKozaShosaiNyuryoku.do?kozaId=7394695)から。

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