ネットの話題
「ほしいけどほしくない」〝アニサキス入り〟ボールペン、なぜ発売?
中身を知らなければ芸術的――。SNSでとあるボールペンが話題になっています。高知県の魚屋さんが販売しているボールペンの中身は、なんと寄生虫のアニサキス。インパクト抜群の商品を売り出した経緯を聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)
軸の一部が透明なケースになっているボールペン。そのケース内には、透明な液体の中に、白い糸状の物体がゆらゆらと浮かんでいます。
実はこれ、魚介類の体内にいる寄生虫「アニサキス」を封じ込めたものだそうです。
人間が食べてしまうと、食中毒(アニサキス症)を起こすこともあるアニサキス。
SNSでは「キモいけどちょっと欲しい」「ほしいけどほしくない」「割れた日には事件」と、怖さと興味が入り交じったような反応が多くありました。
このアニサキス入りボールペンの評判は海外ユーザーの間にも広がっているようで、外国語の投稿も散見されます。
「これはウナギですか?」と質問する、本気か冗談か分からない英語の投稿もありました。
それにしても、どうしてアニサキスをボールペンに入れようと思ったのでしょうか。
ボールペンを販売している多田水産の多田拓浩社長(51)によると、このボールペンを売り始めたのは約2年前からだそうです。
「SNSの知人に、自分の胃から摘出したアニサキスをボールペンに入れている人がいたんです。作り方を教えてもらい、『これならうちでもできそうだ』と思って作り始めました」
アニサキスが浮かんでいるケース内の透明な液体は、アルコールだそうです。
「最初は自分用に作っただけで販売するつもりはなかったのですが、作ってみたら反響が大きく、店頭で販売することになりました」
販売価格は1本550円。今のところ、高知県土佐町にある本店やオンラインショップでは扱っておらず、須崎市内の「道の駅かわうその里すさき」内にある支店でのみ販売しているそう。
多田社長によると「材料のアニサキスはカツオの内臓から採取している」というホンモノだそう。
「なので、ボールペン制作本数はカツオの水揚げ次第です。1日に20本くらい作ることもあれば、1週間ほど作らない時もありますね」と話します。
厚生労働省のホームページでは、「アニサキス幼虫は、寄生している魚介類が死亡し、時間が経過すると内臓から筋肉に移動することが知られています」とアニサキスの生態を紹介しています。
魚を丸ごと一匹を買った場合は「新鮮なうちに内臓を除去する」「目視で除去する」といった対策もありますが、確実なのはマイナス20度で24時間以上冷凍」「70度以上で加熱(または60度なら1分加熱)」です。酢や塩漬け、しょうゆやワサビでは死滅しません。
多田水産ではカツオのたたきや角煮などを販売しているそうですが、カツオは内臓にアニサキスがいることが多いとされる魚の一つでもあります。
多田社長は「新鮮なカツオをさばいていると、アニサキスの多くが身ではなく内臓にいるというのは本当なんだということが実感できます」と話します。
多田社長がボールペンを店頭販売のみに限定している理由の一つは、興味を持った人に、実際に高知を訪れて欲しいという思いがあるからとのこと。
高知では今、戻りカツオの水揚げシーズンだそうです。
「ボールペンが、魚とアニサキスについて知ってもらうきっかけになればいいなと思います。『啓発活動』というと大げさですが、アニサキスを正しく恐れて、美味しい魚を楽しんでもらえたらうれしいです」
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