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IT・科学

手が不自由でもゲームやPC作業 3Dプリンターでオーダーメイドも

障害があって通常のマウスやスイッチが使いづらい人向けに販売されているマイクロソフトの「アダプティブアクセサリ」。ボタンは上部の部品が取り外しやすく、3Dプリンターで印刷したものを付け替えられます
障害があって通常のマウスやスイッチが使いづらい人向けに販売されているマイクロソフトの「アダプティブアクセサリ」。ボタンは上部の部品が取り外しやすく、3Dプリンターで印刷したものを付け替えられます 出典: 水野梓撮影

目次

障害や病気の影響で、パソコンやマウスがうまく使えない……。そんな悩みに対応しようと、マイクロソフトでは、追加できるアクセサリを販売し、障害にあわせて使い方を変えられるような部品の3Dプリントデータも配布しています。専門家は「デジタルツールが使えないと情報格差が起きてしまう。アクセシビリティのツールがもっと知られてほしい」と語ります。(withnews編集部・水野梓)

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「Xbox」コントローラー発売がきっかけ

昨年12月6日、国内で販売が始まった日本マイクロソフトの「アダプティブアクセサリ」。

一見するとシンプルな黒いスイッチは、上部の部品が簡単に取り外せる仕組み。自分の使いやすさにあわせた部品を付け替えて使うこともできます。

アダプティブアクセサリ。手前がアダプティブハブ、奥はアダプティブボタン。ボタンは上部の部品が付け替えられるようになっています
アダプティブアクセサリ。手前がアダプティブハブ、奥はアダプティブボタン。ボタンは上部の部品が付け替えられるようになっています 出典: 水野梓撮影

技術統括室のエンジニア・千葉慎二さんは「指先が震えてしまうという方は、すべりにくい溝をつけた部品をマウスにつけると使いやすくなります。手が不自由な方は、おわん型の部品をつけて、あごで操作することもできます」と語ります。

指先が震えてしまう人向けに、マウスにつける部品。3Dプリンターで印刷できます
指先が震えてしまう人向けに、マウスにつける部品。3Dプリンターで印刷できます 出典: 水野梓撮影

このアダプティブアクセサリの開発のきっかけは、ゲーム機「Xbox」用のXbox Adaptive Controller(アダプティブコントローラー)が2018年、米国で発表されたことでした。

「通常のコントローラーではボタンが小さくて押しづらい」といった人でも、指の代わりに足や手の甲などを使ってボタンを押して楽しめるようにとつくられた製品で、大きなABボタンがついています。

Xbox Adaptive Controller(手前)。スイッチを端子でつなぐこともできます
Xbox Adaptive Controller(手前)。スイッチを端子でつなぐこともできます 出典: 水野梓撮影

計22個の端子差込口もあり、ユーザーがふだん使っているスイッチなどをつなぐこともできます。

2021年に日本でも販売が始まり、2022年にグッドデザイン賞を受賞しています。

3Dプリンターで印刷、部品を付け替え

パソコンと無線でつなぐアダプティブアクセサリの「ハブ」は、コントローラーと同様に端子が4箇所ついています。

また、マイクロソフトは、ホームページに3Dプリンターのデータを公開。その人の手や症状・障害にあわせて使いやすい部品のデータをダウンロードし、3Dプリンターで印刷すれば、自分の困りごとに合わせて付け替えてスイッチやマウスを使うことができます。

「アダプティブアクセサリ」をより多くの人に知ってほしいと話す千葉さん
「アダプティブアクセサリ」をより多くの人に知ってほしいと話す千葉さん 出典: 水野梓撮影

千葉さんは「3Dプリンターは家庭用のものがあったり、今はネットサービスで頼んだりすることもできます。データさえあれば、部品を取り換えることは簡単です」と話します。

病気や障害の困りごとにあわせて、パソコンやタブレットを使いやすくできるアダプティブアクセサリですが、マイクロソフトのオンラインストアでしか購入できず、認知度が課題だといいます。

ゲーム・パソコンができる「選択肢」知ってほしい

国立病院機構北海道医療センターの「神経筋/成育センターリハビリテーション室」の田中栄一さんは、作業療法士として働きながら、筋ジストロフィーなど筋力が低下してしまう病気の人たちにもゲームを楽しんでもらおうと取り組んでいます。

肢体不自由の人がゲームを始める時の支援の手引書なども制作(https://go-esports.jp/)しています。

1998年から作業療法士として働き、当時は通常のゲームのコントローラーを独自で改造していました。

しかし、Xboxのアダプティブコントローラーを皮切りに、任天堂スイッチでも2020年にライセンス商品としてフレックスコントローラーが発売され、2023年にはソニーのプレイステーションでもアクセスコントローラーが発売されました。

田中さんは「ここ数年ほどで、アクセシビリティへの考え方は急速に進んできていると思います。きょうだいや友達のゲームを見るしかできなかった子どもが、自分も遊べるようになって『ゲームがあったから一人にならずにすんだ』と話していたのが印象に残っています」と語ります。

「障害のある人は『自分にはできない』と諦めてしまって、そもそも『ゲームを楽しむ』『パソコンで作業する』といった選択肢を持っていません。アダプティブアクセサリなどの選択肢があることが、もっと広まってほしい」

年齢を重ねたら「できないことが増える」

一般社団法人「日本支援技術協会」の事務局長・田代洋章さんは、「デジタルツールを使えない障害のある人や認知・身体機能の低下した高齢者には、情報格差が起きてしまっている」と指摘します。

協会では3年前から、障害のある人たちのデジタル活用をサポートする「デジタルアクセシビリティアドバイザー」を養成しています。

出典:デジタルアクセシビリティアドバイザーのサイト

アドバイザー認定試験は、作業療法士といった医療職のほか、企業で障害者雇用を担当する人も受験しているそうです。

「便利なツールがあっても、困りごとにはやはり個別性があります。仕事、学習、買い物などの生活全般で何をしたいのかというニーズと、そのニーズを満たすためにどのツールをどうやって使えばいいのかという解決方法をつなぐのに、重要なのは『人』です」と語ります。

田代さんは「年齢を重ねれば、誰しもできないことが増え、障害はひとごとではありません。デジタルにアクセスするためのツールも自分事として、関心を持ってほしい」と呼びかけています。

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