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見落とされがちな死産の「手続き」と「費用」勤め先にも気づかれず…

こども家庭庁の案内ページ
こども家庭庁の案内ページ 出典: 流産・死産等を経験された方へ

目次

流産を経験する割合はおよそ7人に1人、死産はおよそ50人に1人――決して少なくない数である一方、自分が当事者家族になると、情報の乏しさやアクセスの悪さに驚きます。昨年、死産を経験した妻と私は、やや時間が経ち、ちょっとしたきっかけから、死産の「手続き」や「費用」について振り返る機会がありました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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「これ、該当するかも…」

第一子の緊急帝王切開をきっかけに、記者は親になった気づきを発信しています。第二子の死産から半年以上が経ったある日のこと。スマホで何やらネット検索していた妻が「これ、該当するかもしれん」と言い出しました。

ちょっと困ったような表情が気になり、何のことかと尋ねると、それは社会保険の「出産手当金の支給」についてでした。

通常の出産では、産休中は公務員以外は給与の支払いがない場合が多いため、その場合、働く女性は産休中、この出産手当金を受け取ります。

出産の日以前42日から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間を対象として支給。原則として、賃金の3分の2に相当する額になります。

こども家庭庁によれば、働く女性が流産・死産した場合も、一定の条件下で、出産手当金が支給されるということです。

条件とは、まず、妊娠満12週(85日)以降の流産・死産であること。そして、健康保険の被保険者であり、出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合です。

これが流産・死産でも同じように計らわれる、ということでした。医療従事者でもある妻は、死産を経験した人を対象にした制度について調べていて、偶然、この情報にたどり着いたと言います。

申請先は勤務先を通じてその健康保険組合になりますが、妻は死産後、特に勤務先から案内などは受けていなかったそう。後日、勤め先の担当部署に相談に行きました。

その結果、いくつかの事情が重なっていたものの、勤め先としてこれまで対応したことがないケースで、死産のときに出産手当金を支給するためのフローが整っていなかったことがわかりました。

全国健康保険協会によれば、申請の時効は2年。申請書に必要事項を記入し、マイナンバーカードのコピーあるいは住民票等+身元確認書類のコピーを添付して申請すれば間に合うということでした。

妻がちょっと困った顔をしていたのは、出産手当金が支給されたとして、どのような使い道にすればいいのか、という思いがあったからだそう。

基本的に、出産手当金は、出産前後に仕事を休んだ場合に、その生活を保障するもの。

自分たち夫婦や第一子のために使うと考えてしまうと、ためらわれる気持ちがありますが、社会保障の一つの形なので、そこは考え直すことに。

死産した第二子を送り出すために、葬儀などにかかった費用もあり、慌しかった死産当時のお金のことを整理する機会にもなりました。

当事者になって初めて知る

出産費用の保険適用の議論が話題になり、出産育児一時金についてもあらためて注目されました。

私自身、子どもを持つまでは詳しくわかっていませんでしたが、今のところ正常分娩の出産は保険適用でなく、自由診療で医療機関を受診し、全額自己負担するのが原則です。そのため、出産する人の経済的負担を軽減する目的で、健康保険が出産育児一時金を給付しています。

自己負担分と一時金でトントン、あるいはその前後になるのが一般的な出産と言えるでしょう。

自分たちが死産の当事者になって初めて知ったことですが、妊娠満12週(85日)以降の流産・死産の場合も、この出産育児一時金が給付されます。たしかに、流産・死産という精神的な苦痛がある上、こうした給付もなく完全に出費だけになってしまったら、負担が大きすぎると感じます。

実際に死産自体の医療的処置や入院にかかった費用は、第一子の出産時よりは少なかったのですが、死産に至るまでの妊娠中の健診(自費/東京都在住の我が家の場合、補助券があっても1回1万円以上になることも)や、その後の母体の診察を合わせると、通院は第一子の妊娠時よりかなり多くなりました。

死産に至る児や母体の状態にもよるのでしょうが、我が家の場合は自己負担分と一時金が同じくらいになりました。

それ以外にも、東京都に住む我が家は、死産だった第二子についても、いわゆる「赤ちゃんファースト」のギフトを受け取ることができます(“​​流産や人工妊娠中絶、死産となられた方、出産後にお子様がお亡くなりになられた方も交付対象となります。”と明記されています)。

しかし、これは現物支給なので、受け取るべきか、受け取るとして何を受け取るのかが悩ましいです。

日本における妊娠満12週以後の死産の数は年間約1万5000人と報告されています。流産を経験する女性はおよそ7人に1人、死産はおよそ50人に1人の割合と、決して誰もが無関係ではありません。

一方で、妻の勤め先の対応や、当事者になる前の自分自身の認識も然りで、流産・死産の場合の制度などへの社会の理解は、進んでいるとは言えない状況です。

妻や、自分の心の整理がついていくことが前提ですが、同じような経験をすることがあった人のためにも、こうした情報発信の必要性を、あらためて感じています。
 

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