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リアルすぎるAEDふろく「電気ショックを行いました」30秒音声も
「こういう付録、本当に大事」SNSで話題
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「こういう付録、本当に大事」SNSで話題
駅やショッピングモール、コンビニ、マンション……街中に設置されているAED(自動体外式除細動器)。心臓のリズムを電気ショックで元に戻す医療機器ですが、使い方を知っていますか? 親子で慣れ親しんでもらおうと、この夏、幼児雑誌のふろくに〝AED〟が登場しました。出版社が告知を始めると、SNSでは「こういう付録、本当に大事」と話題に。担当者に話を聞きました。
AEDがふろくになっているのは、小学館(東京都千代田区)の4~6歳児向けの雑誌「幼稚園」10-11月号です。
医療機器メーカー・日本光電(東京都新宿区)監修のもと、AEDをペーパークラフトで再現しました。実際に使われているAEDとほぼ同じ約25センチのサイズ。レバーを引くとふたが開くつくりで、内部のスイッチや電極パッド、説明のイラストといったデザインは、リアルさを追求したそうです。
担当した幼児誌編集室「幼稚園」編集者の今村祐太さん(35)は、「AEDは子どもにとって何か分からないものでもあり、触りたいと思っても触ることができません。本物に近いふろくに触れることで存在に慣れ親しんでほしいです」と話します。
雑誌では、倒れた人がいたときに身の回りの安全確認をして救急車を呼び、AEDを取り寄せるといった対処方法や、AEDの使い方、街のどこにAEDが設置されているかが描かれています。
AEDの音声ガイダンスで流れる「胸骨圧迫(心臓マッサージ)」という言葉は、未就学児には特に耳なじみがありませんが、「言葉を知ってほしい」という日本光電の思いから使用したそうです。
「実際に使う状況」を念頭におき、ふろくは細部にもこだわりました。まず、パッドはシートからはがすような仕様になっています。
いざAEDを使う状況では焦ってパニックになり、パッドをシートからはがさず素肌に置いてしまう人もいるため、とのこと。
体の絵が描かれたポスターもついていて、そのパッドを置いて遊べるようにしました。
実際の現場では、倒れた人がネックレスなど金属のアクセサリーを付けていた場合、電気ショックの効果の低下ややけどのおそれなどがあるため外さなければいけません。
そのケースも想定し、ポスターには切り取り式でネックレスのパーツも組み込みました。
街にあるAEDは、ふたを開けたり、電源を入れたりすると音声ガイダンスが流れ、パッドを貼る位置や心電図の解析、電気ショックのボタンを押すタイミングなど使い方を示してくれます。
このふろくには、その音声を最大のポイントとして盛り込みました。「使い方を知らなくても音声で教えてくれるから、とにかく使うという選択肢を持っておいてほしい」と、メーカーの日本光電も強く願っているそうです。
「パッドを青いシートからはがして、図のように右胸と左脇腹に貼ってください」
「点滅ボタンをしっかりと押してください」
「電気ショックを行いました」
「ただちに胸骨圧迫を始めてください」
ふろくのスイッチを押すと、ガイダンスが30秒間、流れます。実際の音よりは短い時間ですが、音声機能を付けたふろくとしては30秒の長さは珍しいそうです。
「AEDの実際のガイダンスは音量も大きく、初めて聞くと焦るかもしれません。でも、幼い頃から聞いていると慣れますし、いざというときにパニックになるポイントを減らせることが重要だと思います」と今村さんはいいます。
音声の合間には「プップップップッ」という機械音も聞こえますが、この音は胸骨圧迫をするリズムを表しているそうです。
「音声の速度は本物と同じですが、ふろくのほうは子どもが行動に移せるタイミングにこだわって音声を編集しました」
「幼稚園」ではこれまでも公衆電話やATM、セルフレジなど、街中で子どもが触ってみたいと興味を持つものや、子どもに使い方を知ってもらいたいものをふろくとして出してきました。
今村さんによると、AEDを企画したのは2024年に入ってから。もともと編集部会議でふろくのテーマとして上がっていましたが、日本光電の協力を得て、9月9日の「救急の日」に合わせて発売することになったそうです。
6月に発売を告知すると、SNSでは「こういう付録、本当に大事」「かあちゃん頑張って作るよ」「大人も一回買って触ってみてもいいんじゃないかな」と注目されました。
ちょうど2024年は、市民がAEDを使えるようになって20年のタイミングでもあります。
今村さんは自動車教習所や大学の授業でAEDの講習を受けたことがありましたが、編集部内で話していた際、AEDに触れたことがない部員もいることを知りました。
「市民が使えるようになって20年なので、世代によってはAEDに触れたことがない人もいるのかもしれません。いま親になっている世代も、使い方を知らない人がいるのではないかと思いました」
今回のふろく「おやこで!AEDたいけんセット」は、親も遊んで改めて使い方を確認してもらうことを想定しています。
「一緒に遊んだり、読み聞かせをしたりして、『いざというときはAEDを使ってみようね』『AEDがあそこにあるね』と会話をしながら楽しんでもらえるとうれしいです」
直接、人の命に関わるふろくはこれまであまりなかったといい、今村さんは遊びを中心に「命の大切さを考える機会」になればと願っています。
「お子さんには使い方も覚えてほしいのですが、一番はAEDという機器があることを頭の片隅に残しておいてもらいたいです。お医者さんごっこのように遊んだり、本来の使い方ではないけど例えば冷蔵庫に貼ってみたり、しっかり遊び倒してほしいなと思います」
今村さん自身、「ふろくを担当してからAEDのマークにも目が行くようになり、設置されているAEDにも気づくようになりました。意識付け、経験は大事」と実感しています。
「AEDは映画館、遊園地、マンション、いろんなところにありますが、あまり意識をして見たことはないと思います。ふろくで遊ぶことによって街で気づく機会が増えると、いざというときの対応が変わってくるのかなと思います」
「幼稚園」10-11月号は8月30日発売。税込み1390円。
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