MENU CLOSE

IT・科学

「運動ギライが筋トレ始めた」ダイエットに〝推し〟が効く医学的理由

“推し活”の効果は運動ひいてはダイエットにも……。※画像はイメージ
“推し活”の効果は運動ひいてはダイエットにも……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

運動ギライで、筋トレをする人を斜めに見ていたはずの友人が、ころりと筋トレを始めた――その理由は意外なことに、アイドルの“推し活”でした。ダイエットをテーマに追いかける記者から見ると、それは医学的にも理に適った変化だと言えそうで……運動と“推し”の親和性の高さについて考えます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)

運動ギライの友人の劇的な変化

先日、数年ぶりに会った同世代(30代後半)の女性の友人が、「筋トレを始めた」と言うので驚きました。運動が好きなタイプではなく、どちらかと言うと筋トレが好きな私のような人間を「脳筋」と斜めに見るタイプだったからです。

何事かと尋ねると、ファッションが好きな彼女は、年齢を重ねて、好きな服を好きなように着るためにも、筋肉をつけることの必要性が身にしみてきたそう。そんな折、彼女に衝撃を与えたのが、世界的人気を誇る韓国発の男性アイドルグループBTS(防弾少年団)が公開した、いわゆる筋トレ動画だったのです。

コロナ禍にBTSのファンになった彼女。BTSのファンには、BTSをきっかけに、音楽や韓国語だけでなく、メンバーの関心領域である絵画などの芸術や、心理学、歴史や政治まで学んだという人もいます。誰かを“推す”ようになり、運動ギライだった私の友人をも動かしたということになります。

肥満を解消しようとするとき、医学的には、主な原因である「過食」と「運動不足」を解消するために、食事の量を減らし、運動の量を増やすことが指導されます。※太りやすさには体質も関わり、肥満を伴う遺伝病もあります。

しかし、後者の運動は、好き嫌いが分かれやすい活動でもあります。2019年の『国民健康・栄養調査』によれば、運動習慣の改善について、「関心がない」「やる気がない」という人の割合は、男性で37.8%、女性で37.4%に上ります。運動が「楽しくない」人は4割で、むしろ多数派です。

その主な理由は「仕事や家事などで忙しい」(36.9%)「面倒くさい」(27.7%)といったものでした。
 

「面倒くさい」を超える“推し”

では、運動が好きになれる人と、そうでない人を分けるものは何なのでしょうか。​​「面倒くさい」といったネガティブな思考を超えて行動に移すポイントが「主観的な楽しさ」だとする研究(※)が、2022年2月に発表されました。

この研究は広島大学精神神経医科学の香川芙美さんらのグループによるもの。個人の客観的な身体活動量と、その主観的な楽しさの関連を明らかにした上で、日常生活の行動特徴との関連について検討しました。

その結果、運動の楽しさの感じ方には個人差があり、活動の量ではなく「主観的な活動の楽しさ」のような活動の質が個人の思考・行動パターンの改善に大きな影響を与えることがわかったのです。

つまり、運動をたくさん行ったからといって思考・行動パターンが改善されるわけではなく、楽しんで運動をすることが重要というわけです。

※Decreased physical activity with subjective pleasure is associated with avoidance behaviors - Sci Rep. 2022 Feb 18;12(1):2832.

そのため、冒頭の友人のBTSの例のように、運動自体が楽しくなくても、“推し”の力を借りる=運動に自分が楽しめるような付加価値をつけることで、運動を楽しく行うことができる可能性があります。

かつてはアイドルファンなどの間で使われることが多かった“推し”という言葉ですが、現在は流行語にもなっています。「推ししか勝たん」などのフレーズは、今や普通に使われる言葉です。

ここで、“推す”の原義的なアイドルや、マンガやアニメなどのキャラクターのファン活動を考えてみます。ポイントは「好き」が高じれば、「面倒くさい」という心理的ハードルを超え、たとえ忙しくても時間を作ってその活動をするようになる、ということです。

今やYouTubeにはたくさんの「筋肉系」「フィットネス系」YouTuberがいて、まさしく推されています。Instagramでは、いわゆるインフルエンサーたちがトレーニングの前後や、最中の姿をアップする姿をしばしば見かけることでしょう。個人が推し、推される関係の中で継続して発信できるシステムができ上がっているのです。
 

「フィットネス推し活」の利点

インストラクターが幕張メッセで約1000人の前で歌い、踊り、参加者を励ます様子
最近では、フィットネス事業者の中にも“推し”の要素を取り入れ、運営しているところがあります。いわゆる「暗闇系フィットネス」と呼ばれる業態です。クラブのような空間の中、爆音で流れるヒット曲に合わせてバイクを漕ぐFEELCYCLEや、ボクササイズをするb-monsterなどがあります。

もちろん、ストイックにバイクを漕ぐ・ボクササイズをすることや、音楽に合わせて運動すること自体を主な目的とする利用者も、裾野が広がったことでそれほど熱心でないライトユーザーも、多くいます。

同時に、そのインストラクターがスポットライトを浴びるアーティストやモデルのような存在になる文化も形成されています。

この効果は医学理論でも説明できます。人が体に良い行動をするために必要なものを示す「健康行動理論」によれば、運動を続ける要因は以下の7つです。

a. 運動をすることが自分にとって本当に「良い」ことだと思うこと
b. 運動をうまく行えるという「自信」があること
c. このままでは「まずい」と思うこと
d. 運動をする上で「妨げ」が少ないこと
e. 「ストレス」と上手く付き合っていること
f. 運動をする上で周りから「サポート」が得られること
g. 健康になれるかどうかは社会的要因や運もあるが、自分の「努力」によっても左右されると思うこと

これらと照らし合わせながら、運動における“推し”の効果を分析してみます。まず、“推し”のレッスンを受けることは、ファンにとって「本当に『良い』こと(a)」でしょう。逆に、運動をしないと推しとの接点がなくなるため、「このままだと『まずい』(c)」のも明白です。

ここで、推しはフィットネスの指導者なので「運動をする上での『サポート』(f)」がむしろ本業。スタッフとして日々のコミュニケーションで「運動をする上での『妨げ』(d)」を発見し、それを解消する方向に導くことができます。

また、推しの指導に合わせて運動をすることで、「『ストレス』と上手く付き合う(e)」ができるのも大きいでしょう。それだけでなく、ファンの経時的な変化にも注目し、レッスン毎にほめたり、励ましたりといった推しからのサポートは、「運動をうまく行えるという『自信』(b)」にもつながります。

こうして通い続ければ結果的に「健康」に近づいているため、「自分の『努力』によっても左右される(g)」という自信もつきやすくなる、という効果があります。流行りの「推し活」は、ダイエットとの相性もいいものといえるでしょう。

関連記事

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます