東京で子育てをする我が家。第一子が大きくなるにつれ、意味がわかってくるのが「手狭」という感覚です。今後、第二子も考えるにあたり、検討を始めたのが今後の引っ越しプランです。早速「子育てに必要な部屋」の広さを調べてみると、国の計算式があるとわかりました。しかし、その結果は驚きのもので、さらに高騰する東京の家賃を加味すると、やはり「東京脱出」も現実味を帯びる見通しに――。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
子どもが2歳になり、保育園にもすっかり溶け込んでくる頃、親もまた子育てのコミュニティとの関わりの度合いが増すことになります。この夏の週末は保育園の親友(おやとも)とのBBQに明け暮れています。
子どもを連れて行きやすいBBQ場に、都内在住で家のあるエリアを同じくする大人たちが集えば、話に出るのは……そう「東京の家賃が高い」という話。第二子以降の苦労話も聞きながら、引き続き、東京で子育てをしていくというのは、果たして現実的なのか、考えてしまいました。
国土交通省が住生活基本法に基づいて策定した「住生活基本計画」では、「居住面積水準」を知るための計算式が示されています。この水準にはまず「最低居住面積水準」があり、これは「健康で文化的な生活を送るために最低限必要とされる部屋の面積」です。以下の計算式で算出できます。
<最低居住面積水準の計算式(2人以上の世帯)>
10平方メートル×世帯人数+10平方メートル※3歳未満は0.25人、3歳以上6歳未満は0.5人、6歳以上10歳未満は0.75人として換算
我が家のように、大人2人と2歳の子ども1人であれば、10平方メートル×2.25+10平方メートルで、32.5平方メートル以上のスペースがあれば、「最低居住面積水準を満たす」ということになります。
しかし、32.5平方メートルで子どもと3人暮らしというのは現実的ではありません。最低居住面積水準は、あくまでも「最低限必要とされる住宅の面積」です。
一方、「豊かな住生活の実現の前提として多様なライフスタイルに対応するために必要と考えられる住宅の面積」である「誘導居住面積水準」もあり、以下の計算式で算出できます。
<誘導居住面積水準の計算式(2人以上の世帯)>
都市の中心およびその周辺の共同住宅の場合:20平方メートル×世帯人数+15平方メートル
都市の郊外および都市部以外の一戸建て住宅の場合:25平方メートル×世帯人数+25平方メートル※10歳未満は最低居住面積水準と同様に換算
上記の計算式から、都心部およびその周辺のマンションに、我が家のような大人2人と2歳の子ども1人が住むのであれば、20平方メートル×2.25+15平方メートルで60平方メートル以上の面積がある部屋を選ぶとよい、という目安が分かります。
このあたりは自分の生活実感とも合致するのですが、問題はもう1人、子どもが増えた場合です。4年後にもしもう1人、家族が増えているとすると、20平方メートル×3+15平方メートルで75平方メートルの面積がある部屋が望ましい、ということになります。簡単に言ってくれるな、という数字ですね。
というのは、東京の住宅にかかる費用は、分譲でも賃貸でも、増加の一途を辿っているからです。
不動産情報会社アットホームの2024年6月の調査によれば、首都圏における「中古マンション」の価格動向において、東京23区は2017年1月以降最高額を更新、東京23区の最高額更新は11カ月連続でした。
東京都23区の平均価格は5330万円、平均占有面積は53.0平方メートル、平均平方メートル単価は100.6万円でした。例えば、さいたま市と比較すると、それぞれの数字は3293万円、66.9平方メートル、49.2万円。東京都23区内に中古分譲マンションを買うよりは、ベッドタウンの方が現実的ではありそうです。
また、同じ6月の調査によれば、全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向において、東京23区のマンションの平均募集家賃は、全面積帯で前年同月を上回りました。
東京都23区の面積帯別の賃貸マンションの平均家賃において、50~70平方メートルの面積帯は22万1794円、でした。これもさいたま市と比較すると、10万8908円とほぼ2倍の結果になりました。
これでも子どもが2人なら誘導居住面積水準を下回り、“手狭”な面積ですが、次の面積帯は「70平方メートル以上」と上限なくひと括りになり、それは文字どおり“住む世界が違う”ため、この面積帯の数字で計算します。
たとえ共働きで世帯年収が手取り1000万円を超えていたとしても、ボーナス(仮に年2回かつ月収1カ月分とする)を考慮すると月収に均して60~70万円。家賃に毎月22万円を支払うとすると、残り40~50万円。
総務省統計局の「家計調査年報 令和5年(2023年)」の調査結果によると、夫婦と未婚の子供1人の3人家族の生活費平均は1カ月でおよそ35.6万円。ここから子どもの学費の蓄え、自分たちの老後の蓄えのための貯金を捻出するとなると、ほとんど余裕がなくなることに気づきます。
さいたま市のマンションに引っ越すと、家賃だけで言えば月10万円分が浮いて貯金ができることになります。ただし、東京では無料の第二子の保育料は、さいたま市では半額の扱い。このように、子育て全般の出費で言うと、必ずしも引っ越して余裕が生まれるとも限らないのが難しいところです。
もう1人、子どもができたら、70平方メートル以上が部屋の目安になりますが、東京の住宅費用が高騰する中、はたしてこの広さの部屋を、東京で確保しようとする意味があるのか……。
こうして少し解像度を上げてみるだけでも、前述の保育料といったそのほかの子育ての費用もにらみつつ、支出のバランスをより一層、意識しなければいけないことがわかり、子育ては一筋縄ではいかないことを痛感するのでした。