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ハイチュウ50年 コロナ禍乗り越えた唯一無二の「かみ心地」

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森永製菓のソフトキャンディー「ハイチュウ」が今年、発売から50周年を迎えました。コロナ禍の打撃、さらに最近のグミ・ラムネブームなど、市場が激変する中で、半世紀も愛され続けることができた理由は何なのか。森永製菓の担当者に聞いてみました。
かむほどにジューシーな味わいが広がる唯一無二のかみ心地。パリッとした食感やモチモチした食感の商品もあります。
フレーバーはグレープやストロベリーだけでなく、ドリアン、パッションフルーツ、ドラゴンフルーツ、いちご大福、わたがし、ももの缶詰、柿、梅、柚子など200種類以上にのぼるといいます。
なぜハイチュウは、50年もの間、愛され続けてきたのでしょうか。
森永製菓菓子マーケティング部の堤崇将さんは、「それぞれの時代にあわせてブラッシュアップし続けてきたことが大きい」と話します。
「ハイチュウを愛してくださる皆様の気持ちに寄り添いながら、ブランドとして残すべきところと進化すべきところを整理して、時代のニーズに合わせて試行錯誤しながら作り上げてきたのが今のハイチュウです」
ハイチュウは、創業者の森永太一郎さんがアメリカで学んだキャラメルから発展した商品で、最初は「大人向けのお菓子」という位置づけでした。
当時は箱入りで、粒は上下が白く真ん中にフルーツ色のキャンディーを挟んだ3層構造でした。
1986年、現在と同じスティックパックになりました。さらに、3層構造から、内側の生地を外側の生地でまく二重構造の「あんこ巻き」に変えました。
ハイチュウの生地は繊細です。原料が砂糖のため、ちょっとした加減ですぐ生地がべたべたしてくっついてしまいます。
砂糖やゼラチンなど原料の配合バランス、水分の含ませ具合、練り上げ時間や温度、空気の含ませ方など綿密に調整する必要があり、二重構造を作るのは容易ではないそうです。
現在の形になったのは2013年です。それまでは、フルーツの色の層が内側にありましたが、内と外の層を逆転させました。濃厚なフルーツの味わい層を外側にすることで、かみ出しから広がるフルーツ感が強化されました。
そして2025年2月、50年の歴史の中で初めて三つの味をひと粒にした「ハイチュウ 王道ミックス」を発売しました。グレープ・ストロベリー・グリーンアップル味がひと粒で楽しめるハイチュウです。
二重構造でも難しいのに、どうやって三つの味をひと粒にしたのか。
これまで培ってきた技術を最大限に駆使して、外側の生地を二つの味で作ることで実現できたといいます。
5月には第2弾としてマンゴー・パイン・キウイの「南国ミックス」を発売。今もお店で買えます。
小さな工夫が、大きな成果につながったこともありました。
2000年、それまでの10粒入りから2粒増やして12粒に増量しました。値段は据え置き。売り上げは約1.4倍にアップしたといいます。
増量の背景にあったのは、売り場で目立っていたガムとの比較です。
当時を知るコーポレートコミュニケーション部の田村和世さんは、次のように振り返ります。
「キャンディーやガムの中で、ハイチュウは埋没してしまっていました。当時のハイチュウ担当者は品質には手ごたえを感じていたので、手に取ってもらうために、どうしたら売り場で目立たせることができるかを考える毎日だったそうです。お客様に驚きと分かりやすさを伝えたいと試行錯誤し、たどりついたのが2粒増量でした」
2粒増やしたパッケージはガムより明確に大きくなりました。
「『たかが2粒』と思われるかもしれませんが、この2粒が大きかったのです。2粒増量したハイチュウはとにかく目立ちました」
コロナ禍では、ハイチュウの売り上げも深刻な打撃を受けました。
子どもたちの遠足や家族連れのレジャーなど行楽需要がほとんど0になった影響が大きく、2021年3月期の売り上げは、2020年3月期に比べて約85%まで減少しました。
キャンディーやガム・グミ・錠菓(ラムネなど)などの市場をめぐる状況も一変しました。
ガムはコロナ禍前から縮小傾向が続き、キャンディーも横ばい~減少で推移。錠菓もコロナ禍の影響で2019年をピークに減少に転じました。一方で、ヒット商品が出たグミが台頭しました。(出典:インテージ 「知るギャラリー」2023年6月9日公開記事)。
そんな逆風の中でしたが、ハイチュウはコロナ禍を経て売り上げをV字回復させていました。鍵となったのが「食感」の変更です。
森永製菓の堤さんは「食感の研究はずっと続けていましたが、改めてこの環境下で私たちに何ができるのかを考えました」と話します。
外出自粛で外に出られない中で、かむことによるストレス発散という機能に着目しての改革でした。2022年、ハイチュウの食感が25年ぶりに大幅に変わりました。
かみ出しの部分を更にソフトにすることで、ハイチュウらしい味わいをもっと楽しめる形になったといいます。
2024年には、ブランドロゴをカタカナのハイチュウから、「HI-CHEW」にリニューアルしました。
これによって「ハイチュウ=子どものお菓子」というイメージだったものが、Z世代に「新ロゴがかっこいい」と発信され、売り上げ増につながりました。
ただ、カタカナのハイチュウに愛着を持つ人たちにも寄り添い、右下に小さく「ハイチュウ」のカナ表記は残っています。
2024年3月期には、コロナ禍前の売り上げを上回りました。
ハイチュウは海外でも展開しています。
2008年にアメリカで現地法人を設立。「HI-CHEW」を発売し、アメリカ西海岸での販売を強化しました。
その前から、在米日本人向けに「ハイチュウ」が輸出されていましたが、アメリカ西海岸にある日系人向けのスーパーでは、森永製菓の他の菓子に比べ人気だったそうです。ハワイでは現地の人も購入していたといいます。
当初は販路が日系スーパーなどに限られ、認知が広がらず苦労していましたが、2014年ごろ、全国規模のスーパーに置いてもらえることになり、認知度が向上。たまたま同時期に、メジャーリーグの日本人選手がチームにハイチュウを差し入れたことで広まり、人気が加速したそうです。
2024年度の米国事業の売上高は約200億円まで伸び、現在では日本の売上高を上回っています。
アメリカでの成功を経て、現在は欧州市場に挑戦しています。
海外市場では現地の事情を考慮して、砂糖の使用量を通常より減らした「健康意識型」や個包装をなくした「環境配慮型」の商品も開発し、販路は世界30カ国以上に広がっています。
森永製菓の堤さんは、次のように夢を語ってくれました。「ハイチュウは日本のお客様にとっては昔なじみの友だちのような存在になれたと思います。世界のみなさんにとってもそんな存在になれたらと思い、これからも進化を続けてきたいです」
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