お金と仕事
「会社で働くのは憂鬱…」高校生の印象 オフィス訪問で変化したこと
「個性がつぶされない環境で働きたい」
「働くことへのイメージは、『会社に行くのが憂鬱』。会社では机がまっすぐ並べられて、スーツ姿の人がパソコンカタカタしてて……」――。
高校生が抱いた、こんな「働く」への画一的なイメージを、実態にそった形で感じて体感してもらおうと企画されたプログラムが7月、都内の外資系企業で行われました。5時間ほどにわたるジョブシャドウを経験した高校生たちの感想は……?
7月下旬、経費精算システムを手がける外資系企業「コンカー」(東京・千代田区)を、東京成徳大学中学・高等学校の高校生5人が訪問しました。1対1で同社の社員に同行して仕事を知る「ジョブシャドウ」を行うためです。
社内会議やオンラインでの営業の様子などをつきっきりで見学したほか、コミュニケーションを取りやすく設計されたオフィスを案内されました。
「外から見られても問題なく、透明性のある経営をしていることを示すため、会議室はガラス張りです」
「コミュニケーションをとりやすくするため、フリーアドレス(定位置はなし)。机の向きもランダムにしています。お菓子が振る舞われる社内イベントもあります」
社員による説明に、高校生は口々に「やばい」とつぶやき、真新しいオフィスの様子や、多言語が飛び交い、あちこちで社員同士が議論を交わす様子に圧倒された様子。
3年生の山本優菜さんは「設備面だけでなく、社員さん同士が笑って雑談をしている様子だけで、とても雰囲気の良い会社だということが伝わってきた」と話します。
このプログラムは、公益社団法人ジュニア・アチーブメント日本が主催し、コンカーが協力したもの。
ジュニア・アチーブメント日本の事務局長・黒木自子さんによると、高校生を対象としたジョブシャドウの事業は、10年以上前から続き、夏休みを中心に年20回ほど行っています。参加する高校は東京を中心に、福岡や大阪などにもあり、香川県高松市などからの参加もあります。
プログラムは、「社員が仕事をする姿を見ることで熱気や緊張感を感じ、働くことを肌身で感じる」ことを目的としています。事業の趣旨に賛同する企業の受け入れ体制に応じて、高校生をオフィスに招待。黒木さんは「ジョブシャドウの目的は仕事内容のみの把握ではありません。『働く』ということの実態を知ってほしい」と話します。
例えば、会社に入った瞬間にスイッチが切り替わる表情や、パソコンに向かう後ろ姿、会議で議論を交わす様子……。そういった、「リアル」を感じ取ってほしいといいます。
「生活の中でも、店頭に立つ人など人目につきやすい仕事に触れることはあるかもしれません。しかし、目に見える仕事だけが仕事ではありません。オフィスに入り、様々な業種や立場の人同士のコミュニケーションを見て、初めて働くということがもっと広い意味のものだとわかると思います」
3年の山本さんは、進学希望先の大学でマーケティングを学ぼうと考えています。
「会社、まして外資系の企業に触れる機会はめったにない」とイベントに参加。
ドラマなどから「会社に行くのが憂鬱で、スーツ姿の人がパソコンカタカタしてて……」とイメージしていた、会社員としての働き方とは全く印象が違ったそうです。
会社員は「ちゃんとしていないといけないというイメージ」でしたが「こんなに自然体でいいんだ」と思ったといいます。
「こんな風に個性がつぶされない環境で働きたい。働くのが楽しみになったし、早く大人になりたい」
1年生の楠田万侑さんは、両親とも専門職ですが「二人とも疲れて帰ってくるので、働くことへのイメージは『疲れる』が大きかった」と話します。
高校に進学してから、進路のアンケートなどが増え、必然的に大学や将来の仕事について考える機会が増えたといいます。
そんな中、学校からジョブシャドウの案内が届きました。母親からも「何事もチャレンジしてみたら」とアドバイスされ、「本当に働くことは疲れるだけなのか」と実態を知りたかったそうです。
今回、初めてオフィスという空間に足を踏み入れた楠田さんは、働く人の生き生きとした表情が印象に残ったといいます。PR担当の社員について仕事を見学しましたが、社内に貼ったポスターを、他の社員が足を止めて見つめる様子を見かけ「細かな作業にも意味があると思った」と振り返ります。
黒木さんによると、これまでこのプログラムに参加した人の中には、外資系企業を見学後に留学を決めたり、起業を志したりする生徒がいたといいます。
「学校の勉強は無駄ではなく、『学校で学んだことはこんな風に使うんだ』と気付くきっかけになるかもしれない。『こんなことをやりたい』と心に火をつける効果があるのではないでしょうか」
働き方の一端を見た生徒たち。黒木さんは「すべての企業が今回の会社と同じ雰囲気ではないけれど」と留意点を示しつつ、「大人の働く姿を通し、選択肢を広げてほしい」と話しています。
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