流行しては廃れる、さまざまな“ダイエット法”。最近ではSNSやメディアで「塩抜きダイエット」が流行っているようです。またいい加減な……と思いきや、「『塩抜き』は(「控える」程度なら)体に良いのでは?」「でもそれってダイエットと言える?」という疑問が湧いてきます。効果があるのか、本当に“ダイエット法”になるのか、ダイエットをテーマに追いかける記者がこれまでの取材から考えます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
夏を迎えるとSNSやメディアを賑わすのがダイエット情報です。暑いため、どうしてもボディラインを意識せざるを得ない装いをする機会が多くなるからか、例年さまざまな“目新しい”ようで、実際には似たり寄ったりのダイエット方法が紹介されます。
今年、SNSやメディアで見かけたのが「塩抜きダイエット」というもの。たくさんのバリエーションがあるようですが、共通するのは「塩分が入った調味料を控える」「塩分を排出するカリウムの多い野菜を摂る」といった方法でしょうか。これで「体重が2、3kgはストンと落ちる」などとうたわれています。
またいい加減なことを……と思いきや、少し考えてみると、「塩抜き」自体は「控える」程度なら体に良い面もあります。また、それにより、体重が短期間で落ちることもあり得るでしょう。ただし、それが“ダイエット”なのかというと、正直、疑問が湧いてきます。
まず、「塩抜き」自体について、考えてみます。よく言われることですが、実は日本人は、もともと塩分を摂りすぎています。
厚生労働省が定めた『日本人の食事摂取基準』(2020年版)では、人体に必要なミネラルであるナトリウム(実際には食塩の形で摂取される)について、「通常の食生活では不足や欠乏の可能性はほとんどない」ため、むしろ「過剰摂取による生活習慣病の発症及び重症化を予防する」ことを目指すと位置づけられています。
目標量は食塩相当量で成人1人1日あたり男性7.5g未満、女性では6.5g未満と設定されており、高血圧および慢性腎臓病の重症化予防のための食塩相当量の量は、男女とも6.0g/日未満とされています。
一方、近年の日本人の成人1人1日あたりの摂取量は、食塩相当量で男性11g程度、女性9g程度であり、これを減らすことは悪いこととは言えないでしょう。ただし、人体に必要なミネラルであるため、完全に塩分を断ってしまうことは健康を損なうおそれがあります。「控える」くらいなら、ということは、再度、強調しておきます。
では、なぜ「塩抜き」により体重が落ちるのでしょうか。人間の体は「水分」「たんぱく質」「脂質」「ミネラル」の4つの主要成分で構成されています。このうち、短期間に変動しやすいのが水分です。そして、水分の変動はミネラルの影響を受けます。
水分が体の中に貯留してしまう状態が「浮腫」いわゆる「むくみ」です。浮腫は“組織(血管内、リンパ管内、細胞内を除くスペース)に生理的な代償能力(元に戻る力)を超えて過剰な水分が貯留した状態”と定義され、その原因の一つが「塩分過多」です。
塩分を多く摂ると、それだけ体の中に水分が溜め込まれ、体重は増えます。逆に、塩分を控えれば、溜め込んだ水分は排出されます。
平均的な成人で、通常1日に体の水分量の10%が排出されることがわかっており、成人では体重の約60~65%が水分です。例えば体重60kgであれば、そもそも体には約40kgの水分が含まれ、そのうち4kgの水分が汗や尿などで排出されていることになります。
このように、体の水分の変動には、もともと1日で数kg分のインパクトがあるのです。塩分を摂りすぎていた人であれば、塩分を控えることで、「体重が2、3kgはストンと落ちる」は、もちろんやや大げさではあるのですが、あながちウソとも言えない表現です。
ただし、この体重の変動は、もちろん脂肪の減少によるものではありません。医療現場で参照される、日本肥満学会が発行する『肥満症診療ガイドライン2022』には、「体重減少のためには、食事摂取エネルギーの減量が必要である」「運動療法は減量(体重減少)にはあまり効果的ではない」と明記されています。
ここで言う体重減少は、肥満解消のための体重減少なので、水分の変動は当てはまりません。つまり、前述のガイドラインの言葉を借りれば、食事摂取エネルギーを減量させないと、脂肪を減少させて体重を減少させることはできない、つまり、本質的に肥満を解消する=ダイエットすることはできないのです。
とはいえ、ダイエットという言葉に明確な定義があるわけではありません。むくみもまた気にする人の多い悩みであり、むくみを解消することでフェイスラインやボディラインが変化することは十分に起こり得ます。これを“ダイエット”と呼ぶかどうかは、人によるところでしょう。
そんなわけで、むくみの解消には効果がある「塩分を控えること」(ただし塩を完全に断つのは健康に悪いし、とても難しい)。脂肪の量は変わらないことは踏まえておけるなら、取り組むのは悪いことではない、と言えそうです。