連載
#7 水の事故を防ぐ
海水浴場のライフセーバー配置、全国で2割 確保が難しい理由は
夏休みに入って、海辺のレジャーが楽しくなる時期です。そんな海の安全を守るライフセーバーがいる海水浴場は、実は全国で2割ほどにとどまっています。なぜ2割だけなのでしょうか。そこには簡単には数を増やせない事情がありました。(朝日新聞デジタル企画報道部・篠健一郎)
全国の海水浴場は、海上保安庁の調査によると、2022年時点で1028カ所ありました。一方、日本ライフセービング協会が発行する資格を持ったライフセーバーがいる水浴場(海水浴場と一部プール)は220カ所(23年)と、海水浴場全体の5分の1ほどにとどまります。
協会の佐藤洋二郎・事務局次長は「もちろん、全国に配置したいです。ただ、講習会を開催すれば受講者が現れ、ライフセーバーが配置される、という簡単な話ではありません」と話します。
実は、全国のライフセーバーの登録数自体は増えています。23年は4573人で、4年前から約1千人増加。しかし、これには地域差があり、関東や東海などでは増えています。
一方、コロナ禍で海水浴場がオープンできない間に減ったことで、近畿や四国などは4年前よりも減ってしまっています。
ライフセーバーは、資格を取得した社会人や学生が、休日に無償または有償で監視や救助に携わります。年間を通して訓練をしたり、資格を更新したりする必要があるため、人材育成と確保には難しさがあります。
協会によると、特に8月初旬までは、ライフセーバーの主力となる大学生の授業や試験期間と重なっており、全国的に人材確保が課題だといいます。
活動するライフセーバーの8割が首都圏の大学生だという、静岡県の「下田ライフセービングクラブ」では、今年から、資格取得費用を全額補助する制度を始めました。少子化による大学生の減少を見据え、4万4千円かかるという資格取得費が参加のハードルになっているとして、制度を作りました。早速高校生1人がこの制度を使って資格を得たそうです。
「ライフセーバーを派遣してもらえないか」
日本ライフセービング協会には、自治体から、こんな問い合わせがよくあるといいます。手っ取り早くライフセーバーを置くことはできないか、というわけです。
ただ、佐藤さんは「資格があれば良いというわけではありません」。海と一口に言っても、潮の流れや風の向きなど、海水浴場ごとに特徴は異なります。「住民との関係作りも含めて、数年かけて地域に根ざしたライフセーバーを育て、増やしていくこと大切です」。問い合わせがあった自治体には講習会を開くところから始めませんか、と話をするそうです。
協会では3年の有効期限があるライフセーバーの資格が失効した人向けに、講習を受けることで資格の復活できる制度を設け、近年はその周知に力を入れています。これにより年100人ほどが資格を復活させているそうです。
佐藤さんは「ライフセーバーが一気に増えるということはありません。地域ごとに地道に取り組んでいくしかない。時間をかけて育て、増やしていかなければ、本当の意味で海を守る組織にはなれません」と話しています。
1/3枚