話題
剥製師「もう一度、動物に命を吹き込む」1万点を製作、仕事の魅力は
動物が輝いていた瞬間を再現し、もう一度命を吹き込む――。そんな「剥製師」の仕事を知っていますか? 博物館などの剥製をこれまで1万点以上つくってきた剥製師は、ひとつひとつの剥製を見るたび、当時のようすを思い出すそうです。ふだんはなかなかメディアに登場しない職人に、話を聞きました。
剥製師が働いているのは、東京・文京区にある尼ヶ崎剥製標本社。訪ねると、1階の壁にはシカやクマ、魚や鳥といった剥製がずらっと並んでいました。
部屋の中央には製作中の牛の剥製も。皮を張り合わせて、乾かしている最中とのこと。いくら製作中とはいえ、皮もつやつやとしていてまるで生きているようでした。
「動物が輝いていた瞬間を再現し、もう一度命を吹き込む。それが剥製師の仕事です。職人の技は、剥製の表情に出てきます」
3代目社長の尼ヶ崎研さん(70)はそう話してくれました。尼ヶ崎剥製標本社は明治時代の創業と長い歴史があります。
尼ヶ崎さんは高校を卒業した後、家業だった剥製師の道に入りました。
でも、初めて剥製を作ったのは中学生のとき。小鳥の剥製を、父親が作業しているのを見よう見まねでつくりました。
これまでに手がけた剥製は、骨格標本と合わせて約1万点にのぼるといいます。
東京・上野の国立科学博物館(科博)では3〜6月までの3カ月間、特別展「大哺乳類展3」が開催されていました。その中に展示されていた600点のうち、3分の1ほどは尼ヶ崎さんが手がけています。
会期中に特別の許可をとって、閉館後の展示室で写真を撮影しました。ここでは、尼ヶ崎さんの剥製愛がとまりませんでした。
「ジャイアントパンダは耳の形にこだわった」
「ミナミゾウアザラシは皮下脂肪が多くて大変で……」
「あのタテガミオオカミは耳がピンっと立っていてかっこいいでしょ」
一つひとつの剥製を見るたび、制作時の思い出がよみがえるそうです。「どれが一番印象に残っているかって? もちろん全部だよ」と話します。
剥製をつくるには、まず肉や内臓を取り除き、その後、皮に防虫や防腐の処理を施します。牛やアザラシのような大きい動物だと、完成までに1カ月以上はかかるといいます。
どういう姿勢にしようか。どんな表情がこの動物らしいか――。図鑑や解剖学の書籍を読んで、骨や筋肉のつき方、血管の通り方まで調べるそうです。
最後の作業は、動物の顔に義眼をそっと埋め込みます。すき間にパテを埋め、まつげやまぶたを調整して表情を決めていきます。自分自身の感性に頼りながら、「りりしく、きりっと」仕上げます。
「うまくできあがった剥製を見ながら飲む一杯は、何物にも代えがたいです」
◇
現在、福岡市博物館で8月25日まで開催されている「大哺乳類展」では、尼ヶ崎さんが手がけた剥製標本、骨格標本が展示されています。
1/8枚