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#17 大河ドラマ「光る君へ」たらればさんに聞く

「光る君へ」で観たい枕草子シーン 短いフレーズでハッとさせる表現

金峯山に参詣する「御嶽詣」。『枕草子』で、藤原宣孝が山吹色の着物を着たと記されました
金峯山に参詣する「御嶽詣」。『枕草子』で、藤原宣孝が山吹色の着物を着たと記されました 出典: 2022年4月8日、奈良県吉野町、朝日新聞社ヘリから、白井伸洋撮影

「源氏物語」の作者・紫式部を主人公とした大河ドラマ「光る君へ」。凋落していく中宮・定子さまに捧げた、清少納言の「枕草子」も話題になっています。清少納言を推してきた編集者・たらればさんは「わたしは清少納言が大好きではありますが、(清少納言を日記で鋭く批判した)紫式部という偉大な作家がいなければ、枕草子はここまで注目されなかっただろうなとも思います」と話します。(withnews編集部・水野梓)

「日本語」が鍛えられた平安中期

withnews編集長・水野梓:前回の大河ドラマ「いけにえの姫」では、まひろ(吉高由里子さん)が結婚したばかりの宣孝(佐々木蔵之介さん)に炭櫃(すびつ)の灰を投げつけていましたね。

源氏物語の中で、光源氏の養女・玉鬘(たまかずら)と無理やり結婚しようとした黒髭大将が、妻から激怒されて灰を投げつけられるところがモチーフなのかな、と思いました。

紫式部と宣孝とのやりとりは、実際に資料に残っているんですよね。

たらればさん:はい。宣孝と紫式部のやりとりは、「本当に腹が立って破局寸前だったのか」、「いやこれはお互い(実際にはそれほど怒っておらず)いちゃいちゃしていただけではないか」といろいろな説がありますが、このふたりの(主に和歌のやり取りと詞書による背景説明での)夫婦喧嘩については、自薦集である『紫式部集』にしか資料がない、という点は踏まえて捉えたほうがいいと思います。

こうしたケンカを、宣孝の死後、後世に見せるかたちで、片方の当事者(紫式部)が主観で選んで遺したわけです。

水野:「枕草子」のオマージュと考えられる「光る君へ」のシーンでは、宣孝が御嶽詣で目立つ装束をつけていた……が出てきましたが、そのほかに、たらればさんが「枕草子」の中で、「光る君へ」で見たいシーンはどんなものがありますか?

たらればさん:「酔っ払ってえらそうに酒をつぐやつが嫌い」とか、猫の「命婦のおとど」、それに翁丸という犬が出てくる章段は出てきてほしいですね。

水野:翁丸は、棒で打ち付けられてかわいそうでしたが……。
たらればさん:枕草子は、短いフレーズで読み手をハッとさせるところが特徴です。たとえば、牛車で水たまりを通り過ぎたときに、はねた水を「水晶が砕けたようだ」とつづっていたりします。

水野:なんて詩的な表現。

たらればさん:源氏物語で「光る君へ」で見たいシーンを選んでいるときもそう感じたのですが、こうした素敵な表現が1000年前に生まれ、今に至るまで残っているのは、もちろん清少納言という作家の巨大な才能のおかげでもあるのですが、それと同時に平安中期という時代がすばらしかったんだと思います。

練りに練られた、新しい表現がものすごくたくさん出てきた時代。そこで日本語のステージがひとつ上がったというか、言語として鍛えられたんだと思います。

「光る君へ」で見たいシーンは…

水野:ほかに、見たいシーンはありますか?

たらればさん:ええと……ちょっと待ってくださいね。「光る君へ」ではこれまで、「香炉峰の雪」や「宮に初めて参りたる頃」、「和紙をもらって”枕にこそはべらめ”と答えた」といったシーンはありましたが……そのほかですよね……(熟考)。
  (※章段は『新訂 枕草子』角川ソフィア文庫より)

このあたりは出てきてほしいですね。
京都市右京区にある車折神社の「清少納言社」。清少納言がまつられています
京都市右京区にある車折神社の「清少納言社」。清少納言がまつられています 出典: 水野梓撮影

「枕草子」の解説、おすすめの本

水野:さまざまな解説の本を読んでいると、枕草子は源氏物語に大きく影響を及ぼしたという指摘もありました。

たらればさん:本人たちの思惑は置いておいて、清少納言と紫式部は、昔から比較されてきました。

「清紫比較論」といって、このふたりを比べた学問ジャンルもあるほどです。研究が積み重なっていて、千年の学びはたいしたもんだな、と思います。

水野:リスナーさんから、「源氏物語と枕草子については、研究者のなかでも、きのこたけのこ戦争(お菓子のきのこの山・たけのこの里のどっち派か争うもの)のような争いがあるのでしょうか?」と質問がありました。

たらればさん:もちろんあるに決まってるじゃないですか。そして(主に「数」において)清少納言は圧倒的に劣勢ですよ(笑)。

平安文学の古書専門店なんかに行くと、源氏物語の人気は圧倒的です。棚の面積で分かります。

水野:物語自体も長いですしね。
紫式部の邸宅跡とされる京都市の廬山寺。『源氏物語』の「若紫」の巻の絵をあしらった特別な御朱印もありました=水野梓撮影
紫式部の邸宅跡とされる京都市の廬山寺。『源氏物語』の「若紫」の巻の絵をあしらった特別な御朱印もありました=水野梓撮影
たらればさん:しかし、紫式部というこんなに偉大な作家がいなければ、枕草子もここまで着目されなかったとも思うんですよね。その意味で、どちらか片方だけが大事、というわけにはいかないと思います。

紫式部日記に悪口が書かれなければ、清少納言だってこんなに目立つことはなかったでしょうし……。とはいえ、感謝はしつつ、「あんなに悪口書くことなくない?」とは思ってます。

水野:ドラマでは、「まひろ」と「ききょう」、とっても仲のいい二人だからこそ、「立場の危うくなった清少納言を守ろうとしてウソの悪口を書いた、ということにしてほしい」というSNSの投稿もあって、わたしも「そうだったらいいな」と思いました(笑)。

たらればさん:紫式部日記における清少納言への批判の解釈はいろんな説があるので、調べていくと面白いですよ。

とはいえ、「源氏物語」よりも「枕草子」が研究対象として一段低く見られていた歴史が長いのは事実です。

水野:今年、かなり盛り返してきてるんじゃないでしょうか。ほかにも、リスナーさんからは枕草子の解説本でおすすめありますか?と質問がありました。

たらればさん:山本淳子先生の「枕草子のたくらみ」という本はおすすめです。杉田圭さんの「うた恋い。」というマンガも面白いです。3巻は清少納言巻といえます。

枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い (朝日選書) 

超訳百人一首 うた恋い。 3 (BRIDGE COMICS) 

水野:すごくきれいな絵ですね!

たらればさん:行成との恋を中心に、定子さまと清少納言の強くて悲しい運命が描かれています。

水野:解説本などを楽しみながら、さまざまな人の考察を読み比べながらドラマが観られるって、今の時代ならではの味わい方ですね。

たらればさん:みなさんそれぞれの楽しみ方で楽しめる、っていうのがすばらしいですね。
◆これまでのたらればさんの「光る君へ」スペース採録記事は、こちら(https://withnews.jp/articles/keyword/10926)から。
次回のたらればさんとのスペースは、7月14日21時~に開催します。

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