連載
#91 #となりの外国人
日本に住む外国人に梅雨の衝撃「初めて見た」 浴室で「焦った」もの
「大家さんに報告しようかと」
続々と梅雨入りし、ジメっとした季節になりました。世界から来ている人々はどのように日本の梅雨を過ごしているのでしょうか。話を聞いたところ、ある「問題」で頭を悩ませていました。それは「カビ」。「日本で初めて見た」という人も。いったい、どういうことなのでしょうか。
ドイツから来日して12年目のネレさんは、日本に来たばかりの頃に暮らしていたシェアハウスでとても驚いたことがありました。お風呂場で、あるものを見つけたのです。
それは、カビ。
「どうしよう。大家さんにすぐ報告した方が良いのかも」と焦ったそうです。
ネレさんによると、ドイツではカビは「よっぽど放置された不衛生な場所にしか生えないイメージ」だったとのこと。
それもそのはず。カビはもともとどこにでもいますが、「湿度(60%以上)」「温度(20~30℃)」「栄養分(食べカス・人のアカなど)」の3つの条件が揃うと発生しやすくなります。
そのため、梅雨がなく、日本よりも湿度が低いドイツでは、カビは生える条件がそろいづらいのです。
ネレさんは「カビが生えてしまったなんて、このシェアハウスは大丈夫なのか」と不審に思ったそうですが、その後、定期的に清掃業者が入っていることが分かりました。
日本で長く暮らすうちに、「掃除をしていても、日本でカビを防ぐのはなかなか難しい」と気づいたと言います。
リトアニア出身のクリスティナさんも、「本当に、リトアニアでは風呂にカビが生えたことがなかった。日本のお風呂でカビを見つけて、すごくびっくりしました」と言います。
リトアニアでは浴室にヒーターがあったからか、カビが発生しづらかったそう。
湿度が高い日本の浴室では、カビ対策はどうやったら良いのか、教えてくれる人がいなかったので、インターネットで検索して、多種多様なカビ取り用洗剤を集めました。今では週に2度ほど、掃除を徹底しているそうです。
「昨日も掃除してました。頭が痛くなりました」と言っていたので、窓を開けて換気することの大切さを伝えました。
カビが生えやすい湿度や温度という環境に合わせて、日本の浴室のユニークさも、海外から来た人たちにとってはお手入れの難しさに拍車をかけているようです。
ドイツから来たネレさんが住んでいるのは浴槽の横にガス釜が並んでいるタイプで、「すき間が洗いづらくて大変です」。
ほかにも「母国ではシャワーだけ。日本では浴槽のカバーが開いて驚いた。中まできれいにしたいんだけど、どうすれば?」(中国出身女性)、「日本の浴室の色はベリーホワイト(まっしろ)。だから、磨いても汚れが目立つ気がする」(アフリカ出身女性)などの悩みも。
カビ取り専用の洗剤に書いてある「まぜるな危険」が分からずに、複数の洗剤と一緒に使ってしまい、「風呂掃除をしている時に、変なにおいがしてきて、慌てて逃げたことがある」というエピソードも出ました。
一方で、風呂掃除が大変なのは日本だけではなく、もっと激しく雨が降る雨期のある東南アジアから来た方は「日本のお風呂の方が洗いやすいです」。カビが生えづらいドイツやリトアニアでも水道水が硬水なのでフィルターがしょっちゅう詰まるなど「別の苦労がある」と話していました。
カビについて悩んでいるのは海外から日本に移り住んだ人びとだけではありません。
リンナイ(名古屋市)が今年5月に行った「カビに関する意識調査」によると、回答者1000人(性年代均等、20~60代の男女)のうち8割が、自宅のカビ汚れについて「悩む」「どちらかといえば悩む」と答えています。
調査では、「カビ対策」のマルバツクイズもあり、多くの人が誤った対策をしていることも分かりました。
たとえば、「入浴後は浴室のドアを開けておく」。こちら対策としては「×(間違っている)」ですが、正解者は3割にとどまりました。
このように浴室のドアを開けてしまうと、脱衣所やほかの部屋の湿度を上げてしまうことになり、壁や家具の裏などで結露を起こして、カビの繁殖を招いてしまうそうです。
クイズで10問中7問以上正解できた「カビ対策優等生」はわずか2割でした。カビ対策の難しさが分かります。
国際ママたちが「お風呂掃除」の悩みについて語っていたのは、三鷹市の市民団体「ピナット」が開催している「国際ママおしゃべり交流会」です。
海外から来たママと、日本に住んでいるママが集まり、10年前から毎月、生活や子育ての悩み、互いの文化などについて情報交換をしています。お風呂掃除をテーマにした話し合いでも、お互いの悩みとともに、使っている掃除グッズや、カビ対策のコツについて意見交換をしました。
海外から来た人には困難が多い日本の浴室の手入れですが、ある女性は「(日本人の)夫が風呂掃除はすべてやってくれている」と話していて、得意な部分をパートナーと補い合うと紹介。日本人や外国出身のママからは「まねしたい!」などの声が出ていました。
コーディネーターの山家直子さんは「交流会は、日本での〝正解〟を『教えてあげる』という場ではなく、互いの文化を尊重し、フラットにそれぞれが知っていることを共有し合うのが目的です。そもそも、文化も環境も違う国で、生活し、子育てをしていること自体がものすごいスキル。国際ママから学ぶことは多いです」と話していました。
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