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コラム

〝令和のタモリ〟へとひた走る麒麟・川島明 現代で成立する理由

お笑い芸人・川島明さん =2014年12月17日、小暮誠撮影
お笑い芸人・川島明さん =2014年12月17日、小暮誠撮影 出典: 朝日新聞社

目次

朝の帯番組『ラヴィット!』(TBS系)で司会を務め、『川島明の辞書で呑む』(テレビ東京系)も好評の麒麟・川島明。その立ち位置は、どことなく“令和のタモリ”を思わせる。番組の共通点や芸風の違いを見ながら、今なぜ川島が「タモリ的か」を考える。(ライター・鈴木旭)
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『タモリ倶楽部』を思わせる番組

今年1月、4月の特番が好評を博し、5月16日から7週連続で放送されている『川島明の辞書で呑む』。タイトルに冠されている通り、この業界視聴率の高い“酒飲み教養番組”でMCを務めるのが麒麟・川島明だ。

特番では「あ」「い」、今回のシリーズでは「う」「え」「お」を放送。辞書に書かれた聞き馴染みのない言葉を想像し、専門家に解説を求め、各々がその意味から連想するエピソードを語り、言葉をアレンジして笑わせ、即興で歌ったりしながら居酒屋でワイワイガヤガヤと酒を飲む。

そんな中で川島は、ミュージシャンや作家、芸人など共演者たちの話に耳を傾け、実にスマートに場をさばいていく。例えば「【い】の回」で、マヂカルラブリー・村上が「石部金吉(いしべきんきち)」(生まじめすぎて、融通の利かない人。「石」や「金」のようにかたい、という意味)を取り上げ、同じように擬人化した名前を「ぜひ私につけていただいて」と共演者に水を向ける。

すると、川島が「M-1チャンピオン」「妻が元アイドル」「高円寺で敵なし」と特徴を挙げてほろ酔いとなった村上を気持ちよくさせ、最後に収録時に着用していたパーカーの太い紐に触れて「パーカーひも きしめん男」と言って落とす。

その後、別の案を求めるも、みなみかわはペンとホワイドボードを持ったまま微動だにしない。これを見た川島が、一つ前に登場した言葉「色消し」(せっかくそれまで感じていた面白味・情趣・色気をゼロにすること)を用いて「出た! スキル色消し」と言い放つなど、機転の利いたトークで場を沸かせた。

「【う】の回~後編~」で川島が「こういうことやりたかった。すごい僕、『タモリ倶楽部』好きなんで」と口にしていた通り、テーマに即した専門家、様々な分野のタレントを招いて展開されるアカデミックで自由度の高い企画は、まさに昨年4月に終了した『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)と相通じる。

そして同時に、川島が現在のバラエティーで“タモリ的なポジション”にいることを実感する番組でもあった。
 

令和の『笑っていいとも!』

川島がMCを務める番組と言えば、朝の帯番組『ラヴィット!』が真っ先に思い浮かぶ。

アイドル、モデル、俳優、元アスリート、芸人といったバラエティーに富んだ芸能人がイチオシの店や商品を紹介したり、ゲーム企画で競ったり、ギネス世界記録に挑戦したりする。ロケ企画などが流れるVTRコーナーもあるが、基本的には平日の朝に生放送される臨場感が売りの番組だ。

これを見て「令和の『笑っていいとも!』(フジテレビ系)だ」と感じている視聴者は多いのではないだろうか。もちろん昼には同局の『ぽかぽか』が生放送されているが、どちらかと言えば「トーク中心で構成された公開生放送の帯番組」という印象が強い。

これに対して『ラヴィット!』は、コーナーによって飲食店の店主やパフォーマー、一芸に秀でた一般人が登場する新鮮さがあり、セットチェンジが見切れるようなバタバタとした“躍動感”を中心に据えている。そして何よりも、毎朝当たり前のようにまばゆいほどの明るさを放っているところに『いいとも』の要素を感じる。

そんな番組の真ん中に立つのが川島だ。例えば今月13日の放送回でつんく♂プロデュースのアイドルグループ「令和のギャルル(仮)」の最終候補メンバー・遠山姫禾が「最初は緊張よりもドキドキが勝ってた」と言い間違えたシーン。

これにマヂカルラブリー・野田クリスタルが「それ(筆者注:ドキドキ)が緊張だろ!」と声を上げると、川島が「お前らは人に厳しいんだよ!」とたしなめて笑わせ、すかさず遠山に「緊張とワクワクみたいなね」とフォローしつつ進行していく。

芸人のセオリーに応えつつ、バラエティー慣れしていない新人にも不安を抱かせない。このバランス感覚が、思わず“令和のタモリ”と言いたくなってしまう川島の手腕だ。

昨年8月、若手芸人が切磋琢磨するバラエティー『深夜のハチミツ』(フジテレビ系)にゲスト出演した折には、粗削りな芸にも一言だけコメントして笑いを起こすようなベテランらしい貫禄を見せていた。

同番組で共演した若手芸人コンビ・センチネルのトミサットは、2023年11月30日にFRIDAYデジタル公開された「『収録は戦場』『お蔵入り頻発』…気鋭の若手コンビ『センチネル』が明かす『人気番組で感じた恐怖』」の中で、川島のスキルを「バケモノじみてました」と語っている。

「ちょっと芸人がゴチャついた状態になると、若手は『何この空気?』とか『すみません、ちょっとスベりました』とか降りる言葉を使うんですよ。でも、川島さんは必ず何かに例えたりして言葉で落としてくれる。しかも、1組だけじゃなく若手全組に振って落とすんです。一線級ってこのレベルなんだって痺れましたね」
 

ジャズバンドの司会者とお笑い芸人

タモリは『ジャングルTV 〜タモリの法則〜』(毎日放送・TBS系、1994年~2002年終了)では料理、『ブラタモリ』(NHK総合、2008年~2024年3月終了)では街歩きで博学多才ぶりを発揮し、ある時期から“趣味の人”というイメージが色濃くなった。

川島においても、『ウダ馬なし』(関西テレビ)や『川島・山内のマンガ沼』(読売テレビ・日本テレビ系)といったレギュラー番組を抱えている。幅広い年齢層を対象とする帯番組とコアに向けた趣味番組の両面を並走させるタレントはごく限られるだろう。

とはいえ、大きな違いはスタートがお笑いか音楽かだ。川島は1997年にNSC大阪校に入学し、同期の田村裕とコンビを結成。第1回目の「M-1グランプリ」決勝に進出し、一躍注目を浴びることとなった。お笑い養成所を卒業して劇場で経験を積み、賞レースで結果を出して知名度を上げるのは今なら王道と言える。

一方でタモリは、早稲田大学の「モダン・ジャズ研究会」に入ってバンドマネジャーと司会を兼務。軽妙な司会ぶりが評判だったようだが、一度は福岡に戻ってサラリーマン生活を送る。その後、ひょんなきっかけで山下洋輔トリオ(山下洋輔、中村誠一、森山威男)のメンバーに笑いの才能を見出され再び上京。

伝説のバー「ジャックの豆の木」にて、デタラメな外国語やマニアックなものまねに加えて、同席した常連客のリクエストに即興で応える“密室芸”を披露して爆笑を起こし、徐々に業界関係者へと知れ渡っていった。

アドリブの妙が問われるジャズ、舞台やバラエティー番組で機転を利かせるお笑い。ジャンルは違うがどちらも引き出しの多さと、“今起きていること”に対していち早く意外性をもって返すセンスが求められる。

ジャズの世界に魅了され、テレビやラジオで心地よいリズムが生まれる空間を目指したタモリは、1970年代後半に「五、六人で酒飲んでワアワア言ってる時が非常に面白い訳で、それを何とか日常の自然な笑いの形で放送に出して見たいと考えた」と語っている。<『放送批評の50年』(学文社)より>
 

“明るい帯番組”のクラシックと最前線

出どころも芸風も違ううえ、川島はかつてのタモリのように、別ジャンルのタレントの作品に水をさして笑わせたりもしない。かつ、初期の『笑っていいとも!』では、タモリ自らが道化を演じて笑わせるパターンがほとんどだった。

そう考えると、『増刊号』で「放送終了後のお楽しみ」が放送され始めて以降の和気あいあいとした空間にいたタモリが、今の川島に近いのかもしれない。

かつて『笑っていいとも!』は、俳優や声優、アイドルや歌手、漫画家、小説家、落語家など、あらゆるジャンルのタレントがレギュラー出演していた。そんな中で、タモリは文化人でも然るべき場所で修業を積んだ芸人でもなく、一風変わったお笑いタレントとして真ん中に立っていた印象が強い。

しかし、現在はお笑い芸人がバラエティー番組のメインを占めている。それゆえ、相対的な役割として川島はタモリ的なのだろう。

前述の『辞書で呑む』の特番で、BGMに日本語ロックの先駆けとなったバンド・はっぴいえんどの「風をあつめて」、そのトラックにラップを乗せたかせきさいだぁの「苦悩の人」、日本語ラップのパイオニアとして知られるいとうせいこう&Tinnie Punxの「東京ブロンクス」が流れていてふと思いを馳せた。

川島の中学・高校時代に音楽シーンを席巻したのが、フリッパーズ・ギター、ピチカート・ファイヴ、スチャダラパー、かせきさいだぁ、TOKYO No.1 SOUL SETといったアーティストを中心とする1990年代“渋谷系”サウンドだった。

多くの渋谷系アーティストは、1960~80年代の様々な洋楽からモチーフやアレンジの着想を得たり、楽曲の一部を引用したりして新たな作品を生み出していった。つまり、既存の元ネタを現代のサウンドとしてコラージュするセンスが求められた時代で、そのクリエイティビティを今の川島からも感じるのだ。

番組のBGMには、時代によって変わりゆく辞書と日本語ロック・ラップを開拓したバンド、ラッパーとを重ね合わせる意図があったのだろうが、個人的には「明るい帯番組」「超個人的な深夜番組」のクラシックを作ったタモリと、そのフォーマットの最前線で手腕を発揮する川島とが結びついてしまった。

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