連載
#41 イーハトーブの空を見上げて
白鵬からも愛される羊飼い「モンゴルとの橋渡しを」岩手の草原で放牧
ピュルル~。
岩手県滝沢市の岩手山のふもとに広がる草原に、涼やかな風に混じって羊飼いの口笛が響く。
モンゴル人のラオグジャブ・ムンフバットさん(36)は、地域の人に支えられながら羊の牧場経営を続ける。
モンゴルの首都ウランバートルから西に約1千キロ離れた草原で、遊牧民の子として生まれた。
季節が変わる度にゲル(家)を移動し、馬に乗って水をくみに行ったり、草原で羊や牛を育てたり。
「小さいころは馬よりも自転車に憧れて。祖父と市場に行き、カシミヤの毛と自転車を物々交換してもらいました」
小学4年生からはウランバートルに引っ越し、勉強に励んだ。
モンゴル相撲でウランバートルのチャンピオンになって、教師たちからは「横綱」と呼ばれた。
中学生の時、ソニーの創業者の一人、故・盛田昭夫氏の著作を読み、優れた製品を作り出す日本の技術に憧れた。
高校では日本語を学び、2009年、奨学金を得て岩手大人文社会科学部に留学した。
在学中の4年間、モンゴルの文化を日本に伝える活動を続けた。11年には東日本大震災が起き、モンゴルからの支援物資を被災地に届けた。
日本とモンゴルの橋渡し役になりたいと、卒業後の13年には滝沢市の入浴施設の敷地内に「滝沢モンゴル村」をオープン。
ゲルに泊まってモンゴル料理を味わえると好評だったが、入浴施設が16年に閉鎖されてしまい、モンゴル村も廃業に追い込まれた。
アルバイトで食いつなぐ日々。そんなある日、宴席でモンゴルの羊肉料理が話題にのぼり、「羊の放牧をやってみないか」と誘われた。
「ああ、それならできると思った。羊肉はモンゴルでは外せない食材。僕の離乳食も羊のスープだったから」
18年に土地8ヘクタールを借り、羊8頭で放牧を開始。
今、土地は15ヘクタールに広がり、羊は約120頭までに増えた。
経営は順調だ。地域の商工会青年部の副部長も任され、若きリーダーとして期待を集める。
実直な人柄が愛され、同郷の元横綱白鵬からの信頼も厚い。
「まずは羊を1千頭に増やしたい。1千頭になるとモンゴルの大統領から賞状がもらえるんです」
夢はどんどん広がっていく。
「岩手では色々な人に助けてもらった。牧場を成功させ、いつかこの地に、モンゴルの文化を紹介する施設をつくりたいんです」
(2022年8月取材)
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