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連載

#9 U30のキャリア

「えいや!」と恋愛しにくい世代 結婚の〝リスク〟はお金、そして…

「結婚したいし、子どももほしいけれど、どうしたらいいんですか。私のこの状況で」

ペアーズリサーチディレクターの工藤彩乃さん
ペアーズリサーチディレクターの工藤彩乃さん

目次

結婚や恋愛を考える若い世代は、いま結婚にどんな価値観を持っているのか――。SNS上での声を収集したり、国内外で年間100人以上のインタビュー調査をしたりしているリサーチャーの女性は「『えいや!』がしにくい世代」と総括します。その理由を聞きました。

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U30のキャリア
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マッチングアプリでいざ対面、なぜ「ズレ」が?

《ペアーズリサーチディレクター・ 工藤彩乃:これまで世界15カ国以上を対象に、恋愛・結婚やマッチングアプリなどに関するリサーチを実施。国内外で年間100人にインタビューし、恋愛・結婚や人間関係にまつわる消費者インサイトを調査している》

――ペアーズでは2020年ごろから、恋愛や結婚に関心がある人たちの「トレンド」を調査されていますね。インタビュー調査などとあわせて、いまトレンドとしてみえるものはありますか。

工藤さん:この数年で最も注目したのは、「マッチングアプリ疲れ」です。

2020年ぐらいまでは、マッチングアプリ事業や関連する恋愛や結婚にまつわる事業が成長していた時期ですが、コロナ禍前後くらいで、ちょっとずつ「疲れている」という話をインタビューやSNS上でもみかけるようになりました。

――「疲れ」の理由は何なのでしょうか。

マッチングアプリは、アプリ上で「マッチ」した相手とは、まずオンラインでメッセージのやりとりを続けてから会う、というのが主流な使い方です。

しかし会うまでのやりとりの長さに疲れを感じてしまうという「終わらないメッセージ問題」があります。

さらに、満を持して会ったあとも「プロフィールで感じ取ってた人と、実際に会った人とでは雰囲気が違う」という声が聞かれるようになりました。相手はウソを書いているわけではないのに、です。

それはつまり、「自分が思う『自分』」がプロフィールに書かれているからなんです。

例えば、相手が「堅実」と書いていた場合。「私が期待している堅実」と「相手が自認している堅実」は異なります。そういうところでズレが生じます。

さらに、マッチングアプリに疲れることで、婚活・恋活自体から離れている人たちがいることも見えてきました。

「何かしておかなきゃ」のプレッシャー

――恋愛にも疲れてしまっているのですか。これは違う要因がありそうですね。

そうですね。
恋愛にポジティブではあると同時に、年齢など社会的なプレッシャーを感じています。そのため、「(恋愛や結婚に向けて)何かしていなきゃいけない」という意識があります。

昨今、ユーザーインタビューで「色々やった結果、相手が見つからなかったらひとりの人生もいいんだけど……」と、みんな口をそろえて言います。

今ひとりで生きている先輩たちを尊敬しているし、それが嫌だという話では全くない。でも、「何かしておかなきゃ」と思っている。

――「何かしておかなきゃ」でする恋愛は、楽しくなりにくそうです。

昔の方が比較的「えいや!」と勢いでいけたんだろうと感じます。なんなら「これから好きになればいいや」で交際や結婚をする人もいたでしょう。でも、いまの恋愛や結婚には慎重さを感じます。

「自分が勝ち取り、選び取った幸せの形なんだと考えてもらいたい」
「自分が勝ち取り、選び取った幸せの形なんだと考えてもらいたい」

課題の一つに「お金がない」

――慎重にならざるを得ない事情、つまり「えいや」がしにくくなっている事情はなんなんでしょうか。

いま、この世代の多くが直面していると思う課題の一つが「お金がない」です。

恋愛や結婚をするとなると、「その先」を考えます。
相手ができ、一緒に生活するとなると、家を買ったり子育てをしたりすることも想定するでしょう。報道や周りの既婚者をみて、そんな生活にお金がかかることも想像できています。

賃金がなかなか上がらない一方で物価は高騰し、高度経済成長期のように1馬力で家族を養える生活ができる30歳以下の人はほとんどいないでしょう。
女性の場合は、子どもに恵まれたとしても、産後の職場復帰への壁があり、保育園入園にも壁がある。先々のリスクを考えたときに、なかなか「えいや」ができない。

結婚自体というより、結婚した後の生活がどうなるか。そこをリスクと感じているのが、いま結婚や恋愛をしようとしている世代の特徴です。

だからこそ、目の前の相手は、リスクが限りなく少ない人であるかどうか、リスクを共に乗り越えていきたいと思える人かどうか、を見極めるために慎重になっている。
特に、20代後半にさしかかると、結婚前提のお付き合いではなくても、慎重に相手を選ぶようになります。

もちろん、「ビビッ」と来る恋愛みたいなものへの期待はあります。
でも、マッチングアプリで「自分で探せ」という環境になったら、慎重になるよねという話です。

リスクに感じているのはお金だけでなく

――ビビッと来る恋愛に期待する一方、経済をシビアに考えていることに、若い世代の苦悩を感じます。

結婚後のリスクとして一番わかりやすいものが「お金がない」ということなので、それが例にあがりやすいのでしょう。でも実際、インタビューをしていて、お金のことを気にしているという印象がありつつ、実は具体的な計算までしてる人ってほとんどいませんでした。

つまり、恋愛や結婚に対してリスクを感じていることは、他にもあるということです。

一つは「生活を変えなければならない」と感じていること。自分の好きなことやものを、どこまで諦める必要があるのかを考えています。

そこには「お金がない」ということの影響もありますが、相手との歩み寄りの話でもあります。共に時間を過ごす相手ができることは、イコールお互いの歩み寄りなので、そこを呑める相手かどうかも、相手探しに慎重になる理由になります。

もう一つ、世代の特徴として「周りにあまり影響を与えたくない」という意識の強さを感じます。「迷惑をかけてしまう」ということをリスクとして考えています。

だから、子育てや産休・育休でも、「迷惑かけちゃう」が先行する。なるべく自己完結したいという意思を感じます。

ペアーズリサーチディレクターの工藤彩乃さん
ペアーズリサーチディレクターの工藤彩乃さん

恋愛はいいもの、わかってる 求めているのはhow

――生きていく上で、迷惑をかけるのはお互い様、と思って欲しいと30代後半の私は思ってしまいます……。

ネガティブな話が続きましたが、恋愛はしたいと思っている人は多いです。

恋愛をしたいと思っている若い世代は、「how」を求めています。

「結婚したいし、子どももほしいけれど、どうしたらいいんですか。私のこの状況で」ということです。

だから、少し上の世代ができることは、howをできる限り示せるようにすることと、「結婚」のイメージを地に足をつけたものにすることです。

いまの日本の経済状況をみると、自分の親やそれより上の世代が実現してたものを達成することは簡単なことではありません。

でも、若い世代は自分の両親が一番身近なベンチマーク(指標や基準)で、結婚して、家を買い、子どもがいて……という家族像を「普通」のものとして考えている人も少なくありません。いまの時代にそれを実現することが難しいと伝えるのではなく、「君のいまの状況でも、納得できる幸せは本当はあるはずなんだよ」と伝えられたらいいと思っています。

上の世代が実現してきたものが、自分の世代では叶わないんだと本人が感じたとき、「違う道」を示してあげられるということが多分大事だと思うんです。

選び取った幸せの形

――違う道ですか。

SNSのトレンド調査でも多く出てきた言葉に「多様性」があります。これまでの「結婚」や「家族のかたち」とは「違う道」を示すことこそ、多様性だと思います。

たとえば、「豪華な結婚式はいらない」とか、「持ち家はいらないんじゃないか」とか。「住宅にお金をかけないぶん、夫婦それぞれの趣味にお金をかける」とか、実は色んな選択肢があります。
実際にそういう選択をしている人たちがいて、そういう幸せのかたちもあるという多様性を示してあげることもできます。

そしてそれは、自分が勝ち取り、選び取った幸せの形なんだと考えてもらいたい。

――選び取った幸せの形と思ってもらうこと、大切ですね。

マッチングアプリを卒業された方のお話を聞いていても、本当にいろんな形の幸せを得た人たちがいます。
いい意味で全然型にはまっていない。でも、本人たちが幸せならそれでいいじゃんと思うのです。

それをマッチングアプリで実現しようとする場合、大事なのは「ここだけは諦めたくない」というポイントを持ち続けて相手を探すことだと思います。

そうすると、意外と納得する幸せの形がみつかったりします。

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連載「U30のキャリア」
コロナ禍を経験、オンラインコミュニケーションが増加、混迷を深める社会情勢――。
そんな令和の時代を生きる20代以下のみなさんは、人生をどう選択し、キャリアをどう考えているのでしょうか。
経験談やデータを元に、多様な側面から見つめます。

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