コラム
「女は偉くならないの?」男性ばかりの東大銅像…息子が発した言葉は
銅像と聞いて思い出すのは――。たっぷりとしたひげをたくわえたおじさんでしょうか? 東大副学長の矢口祐人さんは著書で、東大キャンパスの銅像19体すべてが男性だと指摘しています。小学3年の息子とともに〝銅像探し〟をしてみたところ、「女性は偉くならないの?」と尋ねられました。(朝日新聞デジタル企画報道部・山下知子)
〝銅像探し〟のきっかけは、2月に出版された矢口さんの著書「なぜ東大は男だらけなのか」(集英社新書)の中に、銅像の話が出てきたことでした。
矢口さんは、銅像19体は全て男性、犬の像もオスだと指摘します。
2018年3月の東大広報誌「淡青」には、構内の銅像や記念碑の一覧が載っています。これをもとに確認しに行くことにしました。
新緑が美しい季節。せっかくなので、リビングで寝転がっている息子に声をかけたら、「銅像探し? なんだか面白そう」。そう言ってついてきました。
5月末、向かったのは東大駒場キャンパス。広報誌にはキャンパス内のどこにあるかは書いていないので、スマホで検索したり、学生たちに聞いたりして見つけました。
まず見つけたのは、アリヴェ像とブッチール像。建物の中庭で並んで鎮座していました。
明治期にアリヴェはフランス語教育に、ブッチールはドイツ語教育に携わったそうです。
駒場リサーチキャンパスの門近くには、東京帝国大航空研究所長をつとめた斯波(しば)忠三郎先生記念碑(航空碑)があります。
右手を前に出し、大きく口をあけ、躍動感ある像の台座部分に、斯波さんのレリーフが埋め込まれています。
駒場にあるのはこの3体。帰り道、息子がぽつりと言いました。
「銅像って偉い人なんでしょ? 女は偉くならないってこと?」
そうきたか。
社会には長きにわたって男女に歴然とした差があること、戦前は中等教育から男性と女性で教育が分かれていたこと、1946年まで東大は「男子大学」だったこと、今も女子学生は2割で女性性教員も少なく、それを東大自身も問題だと思っていること……。
そんなことを伝えました。
聞き終わった息子はこう言いました。「ふうん。オレの(小)学校は違うよ。女子もたくさんいるし、女の先生も多いし」
実に深淵な感想です。
学校基本調査によると、2023年5月1日現在の女性教員の割合は、小学校62.6%▽中学校44.6%▽高校33.4%▽大学27.2%。
小学校では6割を超えているのに、大学では3割に達していません。ケアとジェンダーの問題が隠れていそうですが、こちらはいずれ、しっかり取材したいと思います。
さて、銅像。駒場キャンパス以外の16体も記者が確かめましたが、いずれも男性・オスでした。東大以外の大学はどうなのでしょう。
京大に尋ねると、「京都大学散策マップ」を案内されました。胸像・石碑の場所が地図に落とされていますが、性別は分かりません。
ただ、今は屋内に移動していますが、京大入試シーズンに登場するハリボテ像で著名な折田彦市像は男性です。
慶応義塾大は「三田キャンパス 歴史芸術ガイド」をみる限り、福沢諭吉像と小山内薫像はありましたが、女性は見当たりませんでした。
早稲田大にはありました。創立者である大隈重信の妻・綾子の像が、新宿区の早稲田キャンパス・大隈庭園内にたたずんでいます。
やはり女性は数少ないのか。いろいろと探していたところ、鹿児島市内に丹下ウメの胸像を確認できました。
日本初の女性の大学生の一人で、理科系の女性研究者のパイオニア。では入学した東北大(当時は東北帝国大)には? 広報に聞いたところ、答えは「ありません」でした。
インターネット上で各地の銅像を紹介している「日本の銅像探偵団」の主宰者・遠藤寛之さん(50)によると、夫婦の銅像含め、女性の銅像は全国で200近くあるそうです。
「歴史上の人物や創業者の妻が多いですね。大学では、女性が創立者の学校にはよくあります」
例えば、東京家政学院大町田キャンパスには創設者の大江スミ像があるといいます。
息子との会話は、続きがあります。
「女の先生も多いし」の後、息子はこう尋ねました。「でもさ、日本は大統領にも総理大臣にも、女はなれないんだよね」
ぬぬぬ。日本は大統領制をとっていないこと、総理大臣は女性もなれるけど、これまでいないこと、を話しました。
そういえば、記者の小学校の卒業文集で、将来の夢に「総理大臣」と書いていたのは男子児童だけでした。
総理大臣になった女性はおらず、女子児童は自分を重ね、将来の姿の一つとしてイメージできないのだと感じます。
一方、長らくメルケル首相がトップを務めたドイツでは、子どもがよく「男でも首相になれるの?」と尋ねていたそうです。
私たちが目にしている何げない風景から、私たちは「何か」を刷り込まれているかもしれません。
男性だらけの銅像、男性だらけの歴代総理大臣、男性だらけの副大臣・政務官――。
一歩ずつでも風景を変え、次の世代に新しい景色を届けたい。
大人の一人として強く思った〝銅像探し〟でした。
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