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四千頭身、さや香「全部間違って」「普通に…」苦悩した過去

NHK上方漫才コンテスト優勝を喜ぶ「さや香」の新山士彦さん(左)と石井誠一さん=大阪市中央区、2019年3月1日撮影
NHK上方漫才コンテスト優勝を喜ぶ「さや香」の新山士彦さん(左)と石井誠一さん=大阪市中央区、2019年3月1日撮影 出典: 朝日新聞社

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今年4月に東京進出したさや香、5月からトライアルの冠番組『四千行進~やるコトはすべて台本に書いてあります~』(テレビ朝日)が放送された四千頭身。彼らは「第7世代」ブームが直撃し、浮き沈みを経験したコンビだ。それぞれが注目を浴び、再び息を吹き返すまでの軌跡をたどる。(ライター・鈴木旭)

第7世代で頭角を現わした2組

5月8日、さや香が『有吉の壁』(日本テレビ系)に初登場。また同月、トライアルの深夜枠「バラバラマンスリー」で四千頭身の冠番組『四千行進~やるコトはすべて台本に書いてあります~』が4週に渡って放送された。

さや香は、番組のオープニング(未公開の動画)でMCの有吉弘行から「どうせ腰掛けなんでしょうから」と洗礼を受けたものの、本編で石井が得意とする“中腰になって膝で路上を回るパフォーマンス”を披露し爪痕を残している。また四千頭身は、すべて台本通りに“やらされる”というコンセプトがハマっており、短い尺ながらそれぞれのポテンシャルを発揮していた。

かつて2組は、“次世代のスター候補”と期待された若手芸人たちが終結する番組『新しい波24』(フジテレビ系・パイロット版は2016年、2017年4月~9月放送終了)に出演していた。『新しい波』は1992年から8年周期で放送されており、ここでの選抜メンバーによって『とぶくすり』(後の『めちゃ2イケてるッ!』)や『はねるのトびら』といった人気番組を生んでいる。若手にとって、これ以上ないチャンスなのは間違いない。

四千頭身はその枠にあたる『AI-TV』のレギュラーに抜擢され最高の滑り出しを見せ、負けじとさや香も「M-1グランプリ」の決勝に進出し漫才で存在感を示した。また、2019年から「第七世代」の波に乗り、さすらいラビー、宮下草薙とともに2組揃って同じフジテレビ系のバラエティー特番『7G〜SEVENTH GENERATION〜』に出演している。

2020年には『第7キングダム』、『お笑いG7サミット』(ともに日本テレビ系)など「第七世代」を冠した番組や企画が増加し、霜降り明星を筆頭に、ハナコ、ミキ、EXIT、3時のヒロイン、かが屋、ぼる塾ら若い世代が活躍。大阪を拠点とするさや香は平常運転だったが、東京で活動する四千頭身は大いに恩恵を受けた。

しかし、テレビが中堅やベテランを放っておくはずもなく、「6.5世代」という対立構造を作ったり、“クズ芸人”や“おじさん芸人”といった別の軸を設けたりする中で、徐々にブームは下火となっていく。これと比例するように、四千頭身がスポットを浴びる機会も減少していった。
 

後藤の失敗で足並みが揃った

「(筆者注:高級外車のアウディを)『余裕で買ったぜ!』みたいのが面白いかなと思ってやったんですけど、結局、『6.5世代』のロイター板に使われるんですよ」

これは、2021年2月に放送された『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の企画「今年が大事芸人2021」の中で四千頭身・後藤拓実が語った言葉だ。

その後、同年9月に放送された『あちこちオードリー』(テレビ東京系)でも、YouTuberの勢いに対抗し高級外車を買いタワーマンションに引っ越した自分が「全部間違ってました」と後悔の思いを口にしている。

昨年3月には、後藤が昼の情報番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)で「先月の給料がついに家賃を下回りました」「(筆者注:タワマンから引っ越して)実家に帰ることになりました」と発言。その後、同年5月に放送された『証言者バラエティ アンタウォッチマン!』(テレビ朝日系)の中で、実際には「(筆者注:タワマンから)低層マンションに引っ越して、そこの家賃を収入が下回った」と事実を明かしている。

“ネットニュースになったら5万円もらえる”との企画を受けて話を盛ってしまったようだが、すべて裏目に出たと言わざるを得ない。そんな後藤を支えるように、徐々に都築拓紀と石橋遼大が活躍を見せ始めた。

都築は奇抜なファッションで注目を浴び、2022年4月からスタートした『サクラバシ919』(ラジオ大阪)も業界内外で好評を博している。石橋はサッカー、筋トレ、料理など幅広い分野で活躍し、バラエティーでも独特の存在感を示すようになった。

そんな2人は、昨年7月に放送された『あちこちオードリー』(テレビ東京系)の中で「(筆者注:後藤は)今が一番面白い」と口を揃えている。後藤の失敗があったことで、ようやくトリオの足並みが揃ってきたようだ。
 

「新生・さや香」に至った経緯

これに対してさや香は、2019年に「NHK上方漫才コンテスト」、2020年に「歌ネタ王決定戦」で優勝。コンテストで結果を残した一方、『せやねん!』(MBS)、『バツウケテイナーR』(サンテレビ)といった番組のレギュラーを獲得するなど着実に大阪で地盤を固めていった。

とはいえ、キー局での露出が少ないこともあり、伸び悩みを指摘する声があったのも事実だ。この件について、今年5月14日にYouTubeチャンネル『鬼越トマホーク喧嘩チャンネル』で公開された動画の中で新山と石井はこう語っている。

「レギュラー番組とかあったんで、飯はぜんぜん食えてるし。給料は上がってはいってたんですよね。ただ、ホンマにM-1がどないかせなあかんっていうだけやったというか。『もう落ち目』みたいな感じには、たぶんとられてたとは思うんですけど」(新山)

「劇場とかやったら、客ぜんぜん俺らじゃ埋めれへんしみたいな。テレビでレギュラー増えてちょっと知名度上がってるんですけど、劇場はもう飽きられてる感じでした」(石井)

生活はできているが、2017年以降のM-1で納得のいく結果を残せていない。年々不満が蓄積していた新山は「(筆者注:表に出るリスクを抱えながら)これぐらいの感じで安定するんやったら、普通に働いたほうが俺可能性あるんちゃう?」と一時期は芸人引退も頭をよぎったという。

この状況を打破するためには、M-1決勝に「もう1回戻らなあかん」。その決意が形となって現れたのが、ボケ(もとは新山)、ツッコミ(もとは石井)を入れ替えた「新生・さや香」の漫才だった。

早い段階で結果は現れ、2022年にM-1決勝2位、2023年にM-1決勝3位。2年連続で1stラウンド1位通過という快挙も成し遂げた。誰もがその実力を認める中、昨年のファイナルステージで新山が独壇場で語り続けるネタ「見せ算」で勝負したのが実に彼ららしかった。
 

ブーム経て再び這い上がった2組

実は、「第7世代」という言葉を世の中に広めたのは、他ならぬ霜降り明星・せいやだ。しかし、それが広がる中で、本人が意図した意味合いとは離れていったのだという。

「僕は『お笑い第7世代』とは言ってないんですよ。単純に『第7世代』。『7』って数字はゴロです。お笑いだけじゃなくて、スポーツとか俳優、YouTuberの垣根を超えた20代が集まる番組って面白いんちゃうかって言ったんです。20代にしか分からん共通用語を広めていったら新しい需要があるんちゃうかなって。これが一番のズレなんですよ」

せいやは、2020年1月19日に「bizSPA!フレッシュ」で公開された「霜降り明星が語る『コンビが消滅しそうになった』時期」の中で筆者にこう語っている。

前述の『AI-TV』(2017年10月~2018年3月放送終了)で霜降り明星は中心メンバーだったものの、半年足らずで番組は終了。もう一度這い上がるため、せいやは「M-1に向かって目の色変えた」と口にしていた。

実際、その年の「キングオブコント」でハナコが、「M-1」で霜降り明星が優勝。ちょうど翌年からテレビは「Fコア(ファミリー・コア)」(13歳から59歳の男女の個人視聴率)や若い世代をターゲットとした番組の枠を増やし始めた。

ラジオ番組でせいやが発信した「第七世代」は、そんな状況も相まって一気に広まり、いつの間にか「お笑い第七世代」という大きな渦へと変わっていった。四千頭身やさや香は、この若手ブームによって必要以上にハードルを上げられ、瞬く間に世間から「落ち目」だと認識されてしまったように思う。

ただ、そんな時期にも各々で実力や個性を磨き、再びスポットを浴びているのがたくましい。最近では、『新しい波24』『AI-TV』に出演していたフースーヤも今年の「NHK上方漫才コンテスト」で優勝。腐らず積み重ねることの意味の大きさを感じる。四千頭身はまだ20代で、さや香は今年4月に拠点を大阪から東京へと移したばかりだ。2組ともに、まだまだこれからの活躍が楽しみだ。

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