連載
#7 U30のキャリア
〝オヤカク〟で変わった、就職先への母の視線 大企業志向からの変化
母親が上京するタイミングでオフィスを案内
企業側が内定者の親に内定承諾を確認する「オヤカク」が広がっています。都内の中小企業を就職先に選んだ関西出身の女性は、「親に安心してもらいたい」と内定先企業に親へのオフィス案内を依頼したそうです。すると、親の心情に変化が…。「オヤカク」を経験した女性に話を聞きました。
都内の中小企業で働き始めて4年目の女性は、大学時代の就活でファーストキャリアに今の会社を選びました。
しかし女性の実家は関西地方で家業を営んでおり、女性は高校時代から「いつかは実家を継ぐ」という思いを持ち続けています。
そのため、「家業を継ぐスキルを磨くために就職したい」という、女性が大切にしたいキャリア観に理解を示してくれる企業かどうかを重視して就職活動をしていました。
家族も女性の思いは理解していたそうで、「まずは大学を出て一般企業での経験を積んで、家業を継ぐ」というキャリア形成には暗黙の了解があったといいます。
都内の大学で学んでいた女性。就活では、興味を持っていた広告と人材の二つの業界、計6社にエントリーしました。
内定が出たのは、大手企業と、現在の就職先である中小企業でした。
女性は「どちらの最終面接でも、『将来どうなりたいか』という質問がありました」と振り返ります。
それまでの選考過程でも、将来の希望は伝え続けていましたが、ここでも改めて後に家業を継ぐつもりであることを伝えました。
すると、大手企業の面接官からは「え?辞めるの?」と難色を示されたそう。一方で、中小企業の面接官は「すごくいい夢ですね」と肯定してくれたといいます。
さらに「辞めたくなくなるくらい、たくさんのことを学べる環境を提供できると思う」と付け加えてくれたそうです。
その姿勢の差に驚き、大手に就職したら「歯車としての働き方で終わってしまいそう」と感じた女性。
中小企業の方は「社員一人一人を大切にしてくれそうな会社だな」だと感じ、就職を固く決意したといいます。
一方、離れて暮らす親と就活について話すことといえば、選考通過の報告にとどまっていました。
「親からは、『大手の方がいいよ』『地元の誰々さんはこういう会社にいるよ』といった話をされました。正直、世間体を気にしているなというのは感じていました」
就職先を選ぶ際の考えの違いもあり「密にはコミュニケーションをとっていなかった」といいます。
最終的に、女性が就職先を中小企業に決めたことを正式に伝えたのは、すでに大手企業の内定を辞退した後。きっかけとなったのは4年生の4月に自分宛てに届いた「内定通知書」でした。
女性が就職を決めた企業の内定通知書には、必須ではないものの親のサインが必要でした。そのため、通知書を実家に郵送。すると、母親から「こっちにしたの?」とLINEが届いたといいます。
「大手からも内定をもらっていたのに、親からすれば何をしているかわらない企業に決めたことを怒られるだろうなとは思っていました」
ただ、そのときは「もう一社の内定は辞退してしまったし、これにサインしてくれないと私は就職ができない」と、半ば押し切る形でサインをもらったといいます。
その後、コロナ禍だったこともあり帰省する機会もなく、丁寧に就職先について説明するタイミングを逃していた女性。
内定先に対する母親の心配や不安を感じながらも、それをやわらげる方法を見つけられずにいました。
それから数カ月が経った、大学生として迎えた最後の冬。女性の引っ越しの手伝いをするため、母が上京しました。
当時、内定先企業でインターンをしていたこともあり、「会社の規模感を心配しているようにも感じていたので、(立地のいい)オフィスを見せたら安心してくれるかも」と、企業側に承諾を得た上で会社案内をすることにしました。
「(内定先には)『親があまりいい顔をしていない』ということも伝えていました。当日は採用担当者がオフィスを案内してくれ、人事部長が『娘さんを育てますので安心してください』とあいさつもしてくれました」
母親は、オフィスの雰囲気に安心した様子で、眺めのいい窓辺で「写真を撮って」と言ってくれるほど、喜んでいたといいます。
「母は『いい会社だし、みなさん優しいね』と安心してくれた様子でした」
いまでは、広報として働いている女性の活躍を楽しみにしているそうで、企業がメディアに取り上げられると、「見たよ」と連絡をしてくれるほどに。
「がんばりが伝わっているようで、よかったなと思っています」
当時、女性の母親にオフィスを案内した担当者は「学生さん側からの相談には最大限協力したいと思っていますし、迷っている学生さんがいれば、こちらから解決策の提案をすることもある」と話します。
一方、今回の対応は内定辞退防止のためではなく、「学生の希望のキャリアを実現する使命のため」だったといいます。
「学生さんのキャリアを考えた際にベストな選択につながることが一番大切です。新卒採用においては大事なお子さんの初めてのキャリアということで、親御さんの心配も非常に理解ができる」と話します。
「弊社としては、大事なお子さんをお預かりし、しっかりと一人前のビジネスパーソンに育て上げる責任があるので、直接お母様にご安心していただけて良かったと思っており、数年経った今でも記憶に残っています」
女性はあと5年は現在の会社で働き続けるつもりで、「責任感をもって仕事をしつつ、この経験を家業を継ぐ際にも還元できたら」と話しています。
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連載「U30のキャリア」
コロナ禍を経験、オンラインコミュニケーションが増加、混迷を深める社会情勢――。
そんな令和の時代を生きる20代以下のみなさんは、人生をどう選択し、キャリアをどう考えているのでしょうか。
経験談やデータを元に、多様な側面から見つめます。
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