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連載

#18 宇宙天文トリビア

火星の「月」を探査するMMX 史上初のサンプルリターンに挑む

2026年度に打ち上げ予定 プラネタリウム番組で紹介

火星の手前に見える衛星フォボスに近づくMMXの探査機
火星の手前に見える衛星フォボスに近づくMMXの探査機 出典: MMX製作委員会

目次

火星の衛星を探査してやるぞ――。そんな意味をもつ探査機「MMX」が2026年度に打ち上げられる予定です。小惑星探査機「はやぶさ2」の後継機とも呼ばれますが、いったいどんなことをする計画なのでしょうか。先月、MMXの旅を紹介するプラネタリウム向けの番組が完成し、試写会が開かれました。

火星にある二つの月

MMXは「Martian Moons eXploration」の略。火星の衛星(地球でいうところの「月」)を探査してやるぞ、という意味です。

火星には、フォボスとダイモスという二つの月があり、MMXはこのうち、火星に近い方のフォボスを目指します。

フォボスは直径約22kmで、火星からの距離は6000kmくらいの衛星です。地球の月が直径3400km、距離38万kmほどですから、かなり小さくて近いですね。

重力も地球の1千分の1ほどしかないので、無重力に近い小惑星に着陸した「はやぶさ」や「はやぶさ2」のノウハウが生かせると期待されています。

フォボスのイメージ。リュウグウの20倍ほどある
フォボスのイメージ。リュウグウの20倍ほどある 出典: MMX製作委員会

とはいえ、探査は一筋縄ではいきそうにありません。

フォボスは旧ソ連の探査機フォボス1号、2号が1980年代に探査や着陸を試みたものの、通信が途絶して失敗。2011年にロシアが探査機フォボス・グルントでリベンジに挑みましたが、打ち上げがうまくいかずに墜落しました。いまだに着陸を成功させた国はありません。

そもそも、別の惑星を目指すこと自体がかなりの困難です。

地球の重力を振り切るために勢いを付けて飛び出さないといけませんが、その惑星に近づいたらフルブレーキをして減速しないといけません。

日本の金星探査機「あかつき」はこのフル減速中に「ブレーキが故障」して止まりきれず、到着が5年遅れました。逆噴射をするメインエンジンが壊れてしまったとみられています。

火星を目指した探査機「のぞみ」も、1998年に打ち上げられたあとに通信が途絶しています。

太陽系ができたばかりのころ。まだ地球も火星もなかった
太陽系ができたばかりのころ。まだ地球も火星もなかった 出典: MMX製作委員会

プラネタリウム向けの番組「MMX 火星衛星探査計画」は、こうした挑戦の難しさや科学的な意義をCGで解説した映像番組です。

上映時間はロング版が40分でショート版が28分。近く全国のプラネタリウムで放映される見通しです。

火星到着「魔の30分」

映像では、MMXの最難関の一つとして、火星に到着したときの「フルブレーキ」が紹介されます。

「はやぶさ2」の8倍以上も重い約4トンの巨体を減速させるため、MMXの探査機は、金星探査機「あかつき」に一つ、日本初の月着陸機「SLIM」に二つあったメインエンジンを四つ使って逆噴射します。

フルブレーキのための噴射時間は30分。あかつきはこの間にエンジンが壊れ、SLIMも二つあるうちの一つがもげ落ちましたから、MMXにとっても「魔の30分」となるでしょう。

四つのメインエンジンを噴射して減速するMMXの探査機
四つのメインエンジンを噴射して減速するMMXの探査機 出典: MMX製作委員会

しかし、うまくいけば、そこにある科学的成果は極めて大きなものになりそうです。

木星や土星のようなガスでできている惑星と違い、地球のような岩石でできている惑星で月を持つのは、地球のほかには火星しかありません。

地球の月は、大昔に地球に巨大な天体が衝突してちぎれた地球の一部だということが、アポロ計画で持ち帰られた月の石の研究からほぼ分かっています。

フォボスやダイモスもそうなのか、それとも、宇宙空間を回っていた小惑星が火星の重力に捕まったのか。フォボスの砂を持ち帰ることができれば、わかる可能性があります。

フォボスに着陸するMMXの探査機
フォボスに着陸するMMXの探査機 出典: MMX製作委員会

米国や中国は、火星そのものからのサンプルリターンに挑んでいますが、火星は重力が大きいため、着陸はできても帰りのロケットを火星から打ち上げる算段がまだついていません。計画も遅れ気味です。

この間にMMXが、フォボスの砂を持ち帰ることができれば、「火星圏」(火星とその衛星)から史上初のサンプルリターンとなります。

フォボスは火星から6000kmしか離れておらず、火星に隕石が衝突したり、火山の噴火があったりして宇宙空間にはじき出された火星の石がある程度積もっていると考えられています。

米中よりも先に火星由来の石を持ち帰ることができれば、大成果と言えます。

これまでの探査の集大成

4月24日に足立区の「ギャラクシティ」で開かれた試写会に参加したMMXプロジェクトマネージャの川勝康弘・JAXA教授は「フォボスには精密な写真がないので、自分で写真を撮りながら着陸地点を決めることになります。これは、月に着陸したSLIMと同じ方法です」と解説しました。

「MMXは、SLIMやはやぶさが培ってきた経験を全部集めた集大成のミッションになります。打ち上げまであと2年。準備とトレーニングを重ねて臨みたいと思います」

MMXを載せたH3ロケットの打ち上げは2026年度の予定
MMXを載せたH3ロケットの打ち上げは2026年度の予定 出典: MMX製作委員会

上坂浩光監督が探査機を描いた作品は「HAYABUSA」、「HAYABUSA2」に続く3作目となります。

上坂さんは「企画から1年半。MMXチームの協力のもと、完成できました。探査の目的と、その高度なミッションを知っていただき、打ち上げに向けて応援の輪が広がることを願っています」としました。

MMXの探査機は2026年度に鹿児島県の種子島宇宙センターからH3ロケットで打ち上げられる予定で、順調なら、2031年度に地球に帰還する見通しです。

地球に帰還して大気圏に突入するカプセルのイメージ
地球に帰還して大気圏に突入するカプセルのイメージ 出典: MMX製作委員会

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