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道端のオレンジの花、危険なの?専門家「怖がりすぎず」駆除の注意点
庭先や道ばたに咲き誇る、一見かわいい花。しかし、その花、注意が必要かもしれません――。SNSで度々話題になる、そんな花の盛りの時期が今年もやってきました。生活者はどんなことに注意が必要なのでしょうか。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮、朽木誠一郎)
4月から6月ごろにかけて、道ばたや空き地などで直径3cmほどの淡いオレンジ色の花を見かけることがあります。
ナガミヒナゲシという外来種の花で、原産地はヨーロッパ地中海沿岸です。一年草で、高さ20~60センチほどに成長します。
1株に20~100個ほどの実をつけ、一つの実に1000~3000粒ほどの種子が入っていて、最大で一株から15万粒の種子が生産されるそうです。そのため、爆発的に広がるおそれがあると指摘されています。
見た目のかわいらしさと生態にギャップがあり、X(旧Twitter)でも「注意して」「可愛い顔してアカン奴」などと、度々、話題になっていました。
旧農業環境技術研究所(現農研機構)の研究によると、1961年に東京都(世田谷区)で確認されたことがわかっていて、現在は日本全国に広く分布しているようです。
もしもこの花を見かけた場合、どうすればよいのでしょうか。
ナガミヒナゲシに詳しい東京農工大名誉教授の藤井義晴さん(化学生態学)に話を聞きました。
「今のところ、環境省が駆除対象として指定する特定外来生物ではありません。一部のケシ類のように、麻薬の成分を含んでいるわけでもありません」
ただし、ガーデニングや家庭菜園などで他の植物を育てている場合は、注意が必要だとのこと。
「ナガミヒナゲシには、他の植物の育成を妨げる成分を含んだ物質を根から出す性質があるんです」
加えて、ナガミヒナゲシ自体の繁殖力が強いため「気がついたら庭がナガミヒナゲシに占拠されていたということも起こりえます」とのこと。
自宅の庭などに生えている場合、種ができる前に抜き取り、種を含むさや(実の状態)ができていたら、中の種子がこぼれないように注意して、ビニール袋等に入れて密封して可燃ごみの日に出すのが望ましいそうです。
「この時、茎から出る黄色い汁に触れるとかぶれることがあるため、手袋をして作業するとよいと思います」
道路沿いや中央分離帯などでもよく見かけるナガミヒナゲシの花。こうした場所でよく見かけるのは、種の構造に秘密があるそうです。
「種の表面がゴルフボールのようにくぼんでおり、雨などで濡れると靴底や車のタイヤなどにくっつくんです」
人や車の流れとともに、全国に広がっていったナガミヒナゲシ。東京で初めて確認されてから10年で、福岡にまで生息地域を広げたそうです。
「ナガミヒナゲシの種は0.6mmほどと小さいため、駆除するときに種をまき散らしてしまう可能性があります。種ができている場合は、種が飛ばないよう十分注意してください」
蔓延を防ぐには、実を結ぶ前、可能であれば「ロゼット」と呼ばれる状態の時期に駆除することが大切だと言います。
ただ、このロゼット状態、タンポポなど他の植物とよく似ており、見分けるのが難しいそうです。
「一方で、淡いオレンジ色の花はナガミヒナゲシのわかりやすい特徴なので、他のヒナゲシと明確に区別可能です。花が咲いているのを見たら、種ができる前に抜いてしまうのがよいと思います」
藤井さんはナガミヒナゲシについて、一定程度の注意をうながす一方で、いたずらに怖がる必要はないと話します。
「ナガミヒナゲシは他の植物の成長を妨げる物質を出しますが、この物質からどれくらい影響を受けるかは、植物の種類によっても異なります。例えば、キク科の植物は影響を受けやすい一方で、イネ科の植物は影響を受けにくいのです」
10年ほど前、藤井さんが当時勤務していた農研機構でナガミヒナゲシについて情報発信をした際、自身が想定していたよりも大きな反響があったと振り返ります。
「『ナガミヒナゲシは見つけ次第駆除しなければいけない』と受け取った方もいたようです。ご近所の庭に栽培されているナガミヒナゲシまで引き抜こうとしてトラブルになった事例もあったようで、これは伝え方が良くなかったかもしれないと思っています」
ナガミヒナゲシの扱いには一定の注意が必要なものの、特定外来生物には指定されていません。この花とどう向き合うかは、最終的にはその人の「好み」の問題だと藤井さんは話します。
「ナガミヒナゲシの花を鑑賞したいのであれば、庭に生えたものをそのままにするのもありだと思います。ただ、その場合は『ナガミヒナゲシでいっぱいの庭』になる可能性があることは覚悟しておいてください」
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