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「児童養護施設にいたの」ネイリストのお姉さんが、ふと口にした過去

仲良くなったネイリストのお姉さんに、ふと「なんでネイリストになったんですか?」と聞いてみたら…。大学生が児童養護施設をとりまく状況を調べました
仲良くなったネイリストのお姉さんに、ふと「なんでネイリストになったんですか?」と聞いてみたら…。大学生が児童養護施設をとりまく状況を調べました 出典: Getty Images ※画像はイメージです

目次

「私、児童養護施設にいたの」。いつも笑顔で気さくで、大学生活の悩みを聞いてもらうほどの仲になっていたネイリストのお姉さん。ふと「なんでネイリストになったんですか?」と聞くと、返ってきた言葉は予想もしないものでした。その言葉をきっかけに、児童養護施設をとりまく状況を調べてみました。(大学生ライター・鈴木さくら)

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掛け持ちのアルバイト

女性は、2歳から18歳まで児童養護施設で生活し、30代の現在は都内でネイリストとして働いています。
 
――なぜ、ネイリストを目指したのですか?
 
ファッションが好きで、ネイルにも興味があって、せっかくなら自分の好きなことを仕事にしたいと思ったのが、ネイリストを始めたきっかけかな。細かい作業も好きだったので、自分にはピッタリの仕事だと感じて。

――ネイリストを目指す上で大変だったことはありますか?
 
18歳になったら施設を出なければいけないというのは、強く意識していたと思う。そのために、アルバイトを掛け持ちして、専門学校に行くお金や生活に必要なお金をためて。

奨学金を借りればよかったんだけど、(貸与型だと)結局、将来、返済しなければいけないし。そもそも、調べる時間があまりなくて。なので、アルバイトで稼ぎながら専門学校に行こうと思ったんだよね。
【児童養護施設の年齢上限】
2022年の児童福祉法改正によって、支援が必要と判断された場合、18歳以上でも同じ施設で生活ができるようになりました。

しかし、ネイリストの女性が生活していた当時は、18歳になると施設から出なくてはならない年齢上限があり、早くから自立が求められる状況でした。

お金をためるためアルバイトを掛け持ちし、寝る時間を削り食費を節約して、何度も体調を壊しかけたそうです。

アルバイト先では、児童養護施設出身だからという理由で嫌な思いをすることもあったそうで、「自分は自分、他の人は他の人」という親友の言葉を思い出して乗り切ったといいます。

児童養護施設での生活

――児童養護施設で生活する上で、こうして欲しかったというようなことはありますか?
 
習い事をしたかったかな。施設の中ではどうしても限られてしまうので……。それに、アルバイトばかりだったので、塾に行くなんて考えられなくて。

当時は、「高校だけ卒業できればいいや」と思って、大学進学は視野に入れていなかったんだよね。

でも、ネイルサロンでさくらさんみたいな大学生のお客さんと話すと大学生活も楽しそうで、もう一度、人生を歩めるのなら進学もいいかな。
【児童養護施設での習い事】
女性の施設では、週に1回程度、ボランティアの先生がピアノを教えてくれていたそうです。しかし、施設での習い事は基本的にボランティア頼り。種類は限られ、自分の興味があるものを習えるような環境ではなかったそうです。

一方、支援する団体もあります。公益社団法人「チャンス・フォー・チルドレン」(CFC)では、経済的困難を抱える子どもたちのために「スタディクーポン」を発行し、学習・文化・スポーツ・体験活動といった体験ができるような支援をしています。

「早く稼ぎたかった」

――大学進学を考えなかった一番の理由はなんですか?
 
早く働いて稼ぎたい気持ちがあったかな。高校生の時から、やりたい仕事でもあったネイリストの専門学校に入学することを目標にしていたんだよね。

あとは学力や金銭的な面での不安もあって、とにかく、早く自立したかった気持ちが大きいかな。
【児童養護施設と進学】
文部科学省の学校基本調査によると、2021年の高校卒業者における高等教育機関への進学率は83.8%と過去最高を記録しました。

一方、内閣府の調査によると2020年の児童養護施設出身者の高等教育機関への進学率は約30%にとどまっています。

なかには奨学金などの支援制度の詳細を知らないまま進学をあきらめてしまう子どももいるそうです。

「依存先」提供する理由

身近なネイリストの女性の話をきっかけに、児童養護施設の子どもたちが置かれている厳しい現状を知り、子どもたちをサポートしている団体があることも知りました。

NPO法人「HUG for ALL」は、児童養護施設の子どもたちに「安心できる居場所」を提供する活動を続けています。

ホームページには、「虐待や貧困が理由で、未来をあきらめていい子どもなんて、いない」と訴えています。

代表理事の村上綾野さんに話を聞くと、「子どもたちに大切なのは、生きる力です。HFAでは、人とは違う自分らしさを見つけてもらえることを大事にしています」と活動で大事にしていることを語ってくれました。

HFAが取り組んでいるのが、年齢に合わせた体験プログラムです。

小学生向けには、学ぶ姿勢を育む「まなびクエスト」や、遊びから自分の〝好き〟を見つける「あそびクエスト」。中学生・高校生向けには、社会で自立できる力を育む「はたちクエスト」を提供しています。

村上さんは「安心する基盤である家庭が壊されてしまい、自己決定が許されないような環境で育ってきた子どもが少なくありません。まずは、自分を好きになってほしい。そして、人とは違う自分らしさを見つけほしいと考えています」と話します。

「18歳から25歳までの施設の退所者とも連絡が取れる関係を目指しています。施設を出た後に失敗した時、頼ってもらえる『社会での依存先』の一つになりたい」

取材を終えて

ネイリストの女性が児童養護施設で体験したことは、自分が歩んできた道とは大きく違うものでした。

生活も将来の選択肢も制限されるなか、それでも、自分で道を切り開いていくしかない。強い意思がなければ生きていけない過酷な状況だったのだと感じました。

女性のまわりでは、生活の安定を優先して就職する人がほとんどで、大学などに進学する人はあまりいなかったそうです。

試験勉強や入試にかかる費用、入学後の学費、なにより生活費がのしかかる……。諦めてしまう気持ちは想像に難くありません。

子どもの居場所づくりに取り組み、「社会での依存先の一つになること」を目指すHFAのような活動の大切さをあらためて感じました。

「お金があればこんな苦労しないのにね」。取材の最後の、女性の言葉は今も私の胸に重く響いています。

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